14 雨に濡れて
評価ありがとうございます。
家政婦のバイトを開始してから三週間が過ぎていた。
水樹と楓はアパートでは何かしら手伝いや会話の回数も増えていた。しかし学校ではお互いに一定の距離を取っている。
良くも悪くも顔見知りといった関係だ。
廊下ですれ違い目があってもお互い見てみぬふり…………のはずだったのだが今日は違う情況に水樹は遭遇していた。
授業が終わった放課後。
もうそろそろ梅雨に入るという時期。日中は晴れていたが放課後になると急に雨が降り出すという日も最近では増えてきた。そして今日もまたそんな日であった。
そんな雨が降っている中水樹は生徒玄関で遭遇したのだ、楓と。
状況から察するに楓が生徒玄関で立ち尽くしている理由なんて限られている。
「水面さん?」
「あ…………どうも」
「あの…………水面さん?もしかして傘持ってきてない?」
楓は声のする方向に体を向け、相手が水樹だと確認してから「はい」と短く答えた。
恐らく高校でまともに会話したのは今日が初めてだろう。
水樹は少し顔を引きつらせながら楓に話しかけていた。
「俺朝傘持って行けって言わなかった?」
確かに水樹は今朝、楓がアパートを出る直前に傘を持っていくように言っていたらしい。しかし現状、楓は傘を持っていない。つまり楓は水樹の忠告を無視していたのだ。あるいは聞く気が無かったのか。
「記憶にございません」
「お前の頭は都合よすぎだ」
「…………」
水樹は頭をわしゃわしゃとかきむしり、
「これ」
一言端的に述べてから傘を差しだした。
「なんですか?」
「見れば分かるだろ?…………傘だよ」
「どうして?」
「いや、傘持ってないんだろ?だったらコレ使ってくれ」
「ですが…………貴方はどうするんですか?」
楓は一向に水樹の差し出した傘を受け取ろうとしない。それどころか質問を繰り返してくる。
流石の水樹もずっと傘を差しだした状態で待機しているのは恥ずかしい様子で、
「別に俺は良いから…………早く受け取ってくれ」
「別に貴方が濡れる必要は無いでしょう」
「は?」
「ですから一緒に使えばいいのでは?」
「…………」
硬直する水樹。
「黙り込まないでください」
「お前さ…………それ本気で言ってる?」
「ここで冗談を言いますか普通。これでも勇気を振り絞ったんですよ?」
そんな楓の少し赤くなった顔と上目遣いは水樹の理性を一瞬にして崩壊させるレベル。
水樹も自然と自分の頬が熱くなっているのを感じていた。
「や、やっぱダメだ!俺は走って帰るから!!」
「ですがそれではあなたが風邪を引いてしまいますよ?」
「う~ん…………まあ俺だって男子だし少しくらい濡れたって風邪は引かないだろ」
「で、ですが…………」
「気にしないでくれ。俺先帰ってるから、あんまり遅くなるなよ?」
そう言って水樹は手で頭を守る形で雨の中走り出した。