10 青春に尾行はつきもの?
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教室をの扉を開け、中に入ると10分前に登校した楓の周囲には男子問わず沢山の人が群がっていた。
内容は十中八九、昨日の休みについて。普段クールな雰囲気を出していても、やはり人を集めてしまうのが水面楓という人物の人柄なのだろうか。
水樹はそんな楓の様子を目の端に捉えつつ自分の席に座った。
「よっ。昨日は風邪か?」
水樹が席に着いてすぐ、机の側面にどっかりと寄りかかってきたのは春馬だった。
「ああ、季節の変わり目だしな。ちょっと体調が悪くて」
勿論嘘である。
昨日は一日楓の看病に付き合っていたのだ。御かげでその風邪を引いた当人の楓はピンピンしてる。朝から部屋を盛大に散らかすくらいに。
そう思うと水樹の口からは自然とため息が出てきた。
「それより風邪ひいたのに家政婦のバイトは大丈夫だったのかよ」
「え?」
「え?じゃねーよ。今もバイト中なんだろ?」
「あ、ああ。昨日は休ませてもらったよ、当然」
ここに来てまさかの指摘に水樹は一瞬動揺した。
確かに住み込みのバイト中の風邪は嘘としてはマズかったと水樹は感じた。
しかし春馬はそれ以上の言及はせず、話題は楓の話に移った。
「そういえば、水面さんも昨日風邪だったらしいぞ?」
「そ、そうなんだ…………」
「おかげで昨日はクラス中大騒ぎだったよ。皆でお見舞いに行こうとか騒いでよ」
「他人事みたいに言ってるけどどうせ春馬も行こうとしてたんだろ?」
「まぁ人間好奇心には逆らえないよな。それに本心から心配したんだぞ?一応………」
「まぁ好きにすればいいけど」
「でもやっぱり気になるだろ?水樹だって」
「どうだか…………」
むしろお腹いっぱいだ。
何せ水樹は絶対クラスの人が知りえない情報を有しているのだから。
ただでさえ数日たった今でも楓の生活が良くなる兆しは見れない。
それに約束では水樹と楓の関係は極力今まで通り。あくまで一緒のクラスメートを演じることになっている。
仮にも学校の人気者と一つ屋根の下で暮らしてるなんて知られたら水樹の居場所はクラスだけじゃなく学校からもなくなるだろう。
そう考えたら妙に背筋が泡立つのを水樹は感じたのだった。
「でもいざお見舞いに行こうとしたら誰も水面さんの家を知らなかったんだよな」
「え?お前本当に行こうとしたの?」
「まあ流石に心配だろ?ただでさえ最初の方は休んでばっかりだったんだし」
「いや、さっき好奇心とか言ってたよな?」
「はて、なんのことやら」
どうやら本心はただ水面楓という人物の私生活を知りたいだけなのかもしれない。
現在楓の自宅には水樹も生活している。そんなところにクラスの奴がやってきたら大問題である。
「でもそんな情報、簡単に手に入らないだろ?」
「俺たちもそう思ってダメもとで調べたんだよ。そしたらどっこいどうだったと思う?」
春馬が水樹に顔を近づける。
「何だよ。じらさずに言えよ」
「それがな…………水樹、『水面芸能プロダクション』って知ってるよな?」
「ああ、いろんな有名アイドルとかを輩出してる…………って水面?」
「そう水面。実は水面さんってその芸能事務所の社長の娘だったんだよ」
『水面芸能プロダクション』有名なアイドルや俳優を沢山輩出している有名芸能事務所。ワイドショーを見ていれば必ず一度は聞くことはある有名会社だ。
「マジかよ」
「な?驚きだろ?」
確かに専属の傍付きがいると聞いていた時から相当な金持ちということを把握はしていた水樹だったがまさかよく聞く有名な芸能会社には結びつかなかった。
そりゃあ掃除などで忙しかったうえ、身の上話をほとんど楓は水樹に話していないため知らなくて当然だ。
だがそこで疑問が生じる。
「でも春馬。そこまで有名だったら自宅の住所ぐらい上がっちゃうんじゃないのか?」
「それが全く上がってないんだよ。水面さんの両親そうとうメディアへの露出は気を付けてるらしい。だから当然自宅なんて分かんなかったよ」
その言葉を聞いて水樹はホッとした。
自宅が分からない以上、楓への自宅までへの追及は余りないはずだ。故に現状楓が一人暮らししているということも知られる心配はないのだ。
「でだ。俺は今日にも尾行してみようと思う」
「ストーーップ!!」
前言撤回心配大有り!!
「び、尾行!?」
「まあな。でもそれがどうしたって話だろ?」
「いや、問題大有りだと思うぞ!?」
「まぁ今日は幸い部活もないし放課後に行こうと思う」
「つくづく春馬の行動力はすごいと思う....」
「どうだ?水樹も一緒に」
「お前な、ただ共犯者を増やしたいだけだろ....」
最近ではすっかり友人の思考が読めるようになってきた水樹。
確かに他人を心配できる優しい人間ではあるが、どうも時々とんでもないことをしでかそうとする。現にこうして今日、強引に尾行を決行しようとする春馬。
ここで引き下がると後々住所を特定されかねないと考えた水樹は、尾行を容認する代わりに自分もついて行くと話を切り出したのだった。
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