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01 訳アリ女神は生活ができない

峰崎水樹(みねさきみずき)が彼女ー水面楓(みなもかえで)と初めて出会ったのは高校に入学したその日だった。


 教室に入ると真っ先に目に入る周りとは明らかに違う金の髪色のストレートヘアと碧眼。目立つ髪と目を持つ反面、雰囲気は消極的でどこか繊細さを感じさせる。整った顔立ちは新たなクラスメートとなる男子をくぎ付けにしていた。


 外国人のような髪と目。しかし顔は日本人に近い、いわゆるハーフとハーフの間に生まれるクォーターらしい。


 高校が始まってすぐだと言うのにクラスのみならず学年では既に楓の話題で持ちきり。


 確かに周りと明らかに違う髪と目を持ち、可愛い顔も兼ね備えていれば話題になることも必然。噂を口にする人の中には楓を女神と謳う人もいた。

 高校が始まったばかりなのにこの勢いなのだから、当分は冷めないと水樹は思っていた。


 これが楓を初めて見た時の出来事であり、水樹が感じた事だった。


そしてそんな入学式から早くも数日が経過し、水樹には友人と呼べる存在もできた。また高校に入った水樹はバイトも始めたりと環境は大きく変わり始めていた。


「よ!水樹」


こうして朝、元気に声を掛けてくる向井春馬(むかいはるま)も高校から知り合い、すぐに仲良くなった友人と言える人の一人だった。

春馬は帰宅部の水樹とは違い、サッカー部に所属している。見た目もスポーティーだ。


「おはよう、春馬」


水樹は軽く挨拶を交わす。


「そういえば水樹ってバイト始めたんだろ?」

「ああ、実は今日からだ」

「へ~どんなバイト?」

「住み込みで家政婦」

「は?住み込み!?」


春馬は驚きのあまりただでさえ大きい声をさらに大きくして水樹に聞き返す。

一方の水樹は春馬の問いに淡々と答える。


「ああ」

「き、期間は?」

「一か月」

「お前…………随分凄いバイトするんだな…………」

「いや、俺も最初はどうかと思ったんだけど、予想以上にお金が良くてな」

「そういうのって対外ハードなんじゃないのか?」


確かに春馬の意見も一理ある。

お金がいいバイトは対外ブラックであることが多い。現に水樹もお金がいいからという安易な考えでそのバイトを選んだのだから。


「まあ家事は得意だし、何とかなるだろ」

「あ~そうだったな。確か弁当も自分で作ってるんだろ?」

「ああ。家に俺しかいないから」


水樹の両親は単身赴任でほとんど家に帰ってこない。また年の離れた姉もいるが既婚者だ。そちらも当然めったに家に帰ってくることは無い。故に水樹は一軒家に一人で生活している。家事全般はそこで身に付き、今では水樹の数少ない得意分野になっている。


「まあそれなら得意分野を遺憾なんく発揮できるいい機会なのかもな」

「そういうことだ」


春馬も水樹の決定にどうこういうつもりは無いらしい。最初は危ないと言っていたが今ではすっかり応援してくれている。


「そういえば今日も来てないな」


春馬がポツリと呟いた。

視線の先には空席の席が一つ。


「ああ、そうだな。入学式以来一度も来てないな」


その席に本来なら座っているはずの人の名は水面楓。入学式初日からクラスのみならず学年中に大きな印象を与えた彼女は、高校が始まって数日、一度も登校していなかった。水樹もあの印象的な容姿は脳裏に焼き付いている。故に欠席しているということはすぐにわかる。


「体調でも悪いのか?」

「どうだろうな。でも、ここまで続けて休むってことはそうなんじゃないか?」


ある意味、入学して今日に至るまで学校では少なからず水面楓という人間の噂は耐えることは無かった。時には信憑性の全くない噂まで広がることもあった。


そして結局、この日も楓は学校に姿を見せることなく、放課後を迎えた。


水樹は部活に行く春馬と教室で別れて、真っすぐ自宅に帰宅した。

そして一か月生活するための荷物をまとめる。


と言っても洗濯機や食器は自由に使って良いことになっているため、荷物はさほど沢山にはならない。

水樹が帰宅してから準備を終えるまではものの数十分で完了した。そして水樹は家の戸締りを確認して家を出て行った。





 そして指定された住所の建物に着いた。そして発した第一声は、


「ボロボロじゃねーかよ」


 そこにあったのは築何十年だろうか、お世辞でも綺麗とは言えないボロボロのアパートだった。

 水樹は手元にある地図を何度も見返す。

 しかし地図に書かれた場所、住所は間違っていない。どうやら本当に雇い主はこのアパートに住んでいるらしい。


(本当にここなのか?)


 内心では幾つもの疑問や懸念が渦巻く。

 しかし何度見返しても書き記された住所はこのアパートを示していた。


 水樹はギシギシと揺れるさびた階段を上り二階の201号室手前に立ち止まった。

 インターホンは存在しないため、扉を手でノックする。

 しかし返事は無く、水樹は恐る恐るドアノブに手をまわす。そして扉を引くと鍵はかかっておらず、扉はゆっくりと手前に開いた。


 扉の隙間から顔を覗かせると中は真っ暗で見えない。

 しかし誰かがいることは分かっため、水樹は「失礼しま〜す」とお化け屋敷に踏み込むように若干へっぴり腰になりながら室内へと入っていった。


 カーテンが全て閉められているせいだろうか、外はまだ少し夕日で明るいのに部屋は真っ暗。


 水樹は壁を伝い歩き玄関で靴を脱いだ。


 幸いこのアパートはほとんどの部屋の間取りが同じで、部屋の電気のスイッチも手にあたる感触で分かる。

 時々足で何かをふむ感触を感じながら、水樹は部屋の電気を押した。


「な、なんじゃこりゃ......」


 電気を付けると確かにそこには水樹の部屋とほとんど同じ間取りの部屋が存在した。

 しかし問題はそこでは無かった。水樹が驚いたのは部屋がとても汚かったのだ。

 床には無数の服や引越しに使われたと考えられるダンボールなど様々なものが散乱している。


 振り返ると廊下にまで服が落ちている。つまり水樹が暗闇の中、時々踏んでしまっていた柔らかな感触はどうやら服だったらしい。

 水樹は辺りをきょろきょろしながらリビングをへと踏み込む。

 そして明らかに服とは違い、それでも少し柔らかく感じる何かを踏みつけた。


 その瞬間「ん」という声が聞こえたのは恐らく水樹の気のせいではないだろう。

 水樹は恐る恐る視線を下ろし、そこに倒れている人を見つけた。


「う、うぅぅおおおおああああぁ!!!…………あああ、あ…………あ?」


 驚き、叫び、尻餅をつく水樹。

 そして盛大に発狂したが、徐々にそれは収束し驚きへと変わる。水樹は足元に倒れている人をまじまじと見つめた。


「ま、まさか…………」


 その人、厳密にいえば金髪で碧眼で、人形みたいに整った顔の女の子。

 見間違うはずがない。そこにいたのは入学式から一度も学校に姿を見せていない水面楓その人だ。


「み、水面さん?」


 水樹がぼそりと呟くと、横になって倒れていた楓は「んん…………」と可愛い声を上げながら体を起こした。

 髪はぼさぼさで、ぱっちりとした二重は開ききっていない。

 服装はうすピンクの寝間着でボタンが上から数段外れて、若干寝間着がはだけている。

 右肩が丸見えで、真っ白な肌は妙に色っぽい。


 そして振り返る楓と水樹の目が合った。


「貴方は?」

「…………ケッシテアヤシイモノデハアリマセン…………」


 目の前の少し刺激の強すぎる楓に目のやり場を困らせ水樹はおどおどと戸惑う。

 すると楓は周囲を暫くごそごそとあさり始めた。

 そして服の山の中からスマホを取り出し、


「もしもし…………警察のーーー」

「ストーーーップ!!」


 警察に電話しようとしたところを慌てて止めた。

 そして水樹は一から事情を説明した。と言っても自分が今日から一か月家政婦のバイトで来た者という簡単な内容である。


「そうでしたか…………それは申し訳ありませんでした」


 一旦落ち着き、二人はお互いにほんの少しの隙間に正座して向かい合っている。

 事情を聴いた楓はぺこりと頭を下げた。


「い、いや…………俺も勝手に入りこんでごめん…………」


 水樹もまた勝手に部屋に上がり込んだことを頭を下げて謝った。そして頭を上げた水樹は目の前にいる楓に質問を投げかける。


「あの…………ちょっといい?」

「何でしょう」

「あのさ最近、というか入学式以来全く学校に来てないのってどうしてなんだ?」

「そ、それは…………」

「あ、いや…………別に言いずらいなら言わなくていいけど」

「いえ、そんな大層なことでありません」

「と言うと?」

「私、まったく一人で生活できないんです」

「は?」


 水樹は楓の発言に驚く。

 そしてこれが水樹と楓の二度目の出会いだった

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