表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鬼姫異世界放浪記  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第壱章 異世界召喚の章
5/50

第壱章 1-4

なんか調子いいみたいで、更新してから書いてたら、完成してしまいました。

6月20日の更新予定は…忘れてください。


予定は未定と言うことで…ww



あれから3時間が経過し、私達は食事を終えて焚き火の周りでコーヒーなんぞを飲んでいた。

ちなみに、私と南雲さんはブラックで、ミーサーさんはミルク入り。ミルファさんは何やら紅茶らしいものにミルクを入れたミルクティっぽい感じのもの。

しかし、異世界でコーヒー飲めるとは思わなかったな。

香りもなかなかいい感じだし…。

てっきり泥水みたいなやつかと想像してしまった。

あたりはかなり暗くなっており、時折テントの付近を見回る見張りの人以外はテントで休んでいる。

ちなみに尋問の後、魔術師の男がどうなったかは聞かなかった。

というか、聞けなかった。

怖いことを聞くことになりそうなので…。

ぱちぱちと燃える炎を囲みながら、南雲さんが口を開いた。

「ここが現実にいた世界とは違うというのはきちんと認識してるな?」

「え、ええ…」

何で聞きなおすのかと思ったが、南雲さんの真剣な表情に頷く。

「一応、確認するが、バーチャルネットゲームにインして気がついたらここにいたんだな?」

「ええ。そのとおりですけど…」

「一人暮らしじゃないよな?」

「ええ。実家だから、両親と妹がいますけど…」

「なら大丈夫か…」

そこで一旦下を向いてそう呟くと再び私を見つめてくる。

その目には、熱い熱気を含んでいるかのような真剣さがあった。

わーっ…なんて視線で見てくるのよ。

思わずドキリとしてしまう。

何でドキリとしたかは理由はわかんないけど…。

まぁ、たいしたことではないだろう。

「結論から言う。次の満月の時、まぁ約2週間後にお前を元の世界に戻す」

はっきりとそう言い切った南雲さんは、腰の部分に下げている小型のバックパックから一冊の本を出した。

古びた何かの動物の皮でしっかりと表表紙を加工された結構厚めの本で、サイズは文庫本より少し大きい程度。ページ数は、多分500~600ページ以上はあると思われる。

そして何より、なんとなくだが力を感じられる。

「『禁断の召喚の魔導書』だ。これでお前はここに召喚された」

力はあるみたいだけど、こんな本で召喚できるんだろうか?

まぁ、ゲームなんかだと定番ではあるが…。

信じられずに南雲さんに視線を向けると、その視線を受けて南雲さんは言葉を続けた。

「さっき、いろいろミルファに魔法のことを聞いてたよな。そこで思わなかったか?異世界から人一人を召喚するにはこの世界の魔法では力が足りないと…」

その疑問は、私がさっき抱いた疑問だった。

思わずぎっとして南雲さんを凝視する。

その視線を受けながらも、私を見返し、ゆっくりとはっきりと言葉にする。

「肉体ごとなら不可能だ。しかし、魂だけなら十分可能なんだ」

「…魂?」

「そう魂だ。本当かどうかはわからないが、魂の重さは21グラムなんて話もあるからな。つまり魂だけなら、この世界の技術でも十分に召喚することも可能ということだ」

こう言った後ぽんぽんと本を軽く叩き、「もっとも、この本の力がないとまず無理なんだけどな」と付け加える。

私は少し考える。

その本が、コンピューターの代わりをして召喚のプログラムを発動するのなら確かにそういうことなら可能かもしれない。

もっとも魔力と言うか、エネルギーに関するものがかなりの量必要になるが…。

でも、それは魂という名のその人の中身だけだ。器がなければ実際に生きることも存在することも出来ないはず…。

なら…。

「そして、この世界は魔法による治癒が難しいため、別のものが進化している。さっきも治療の時見ただろう?」

そう言われて治療の時使われていたどろりとした液体や塗り薬を思い出す。

そういえば、この世界の魔法は触媒などがないと効果が出ないとも言っていた。

ということは…。

「そう錬金術的なものが発達してるんだ、この世界は。そして、その治療のための過程で、人間の臓器の代わりになる研究も進んでいた。それにホムンクルスとい名の擬似人間を創り出すという研究もね」

その言葉に私は納得する。

つまり、錬金術という技術によって器はある。

つまりは…。

「わかったようだな。俺もお前も、ホムンクルスの肉体に魂が宿っているんだ」

「じゃあ、元の肉体は?」

「多分、元の世界にある。魂の抜けた状態でな」

その言葉に、私は絶句する。

魂の抜けた状態なら…それは死んでいるのと変わらないのではなかろうか。

それに2週間後なら肉体は…もう…。

がくりと力が抜けた。

もっていたコーヒーのマグカップを落としそうになったがアーサーさんが手で支えてくれる。

「しっかりしろ。俺はお前をきちんと元にいた世界に帰す。そう言ったよな?」

その言葉に私ははっとして南雲さんを見る。

「魂が抜けたとはいえ、肉体が完全に停止したわけではない。生命維持は続いているはずだ。それに家族が一緒に住んでいるなら、意識のないお前を見つけたらどうすると思う?」

あ…。そうか…。

「そうだ。病院に搬送されるだろう。そして2週間なら、延命処置がされている可能性が高い」

そこまで言って、ニヤリと笑い言葉を続ける。

「別に両親と仲が悪いとか、恨みを買っているとかじゃないんだろう?」

その言葉は皮肉じみていて…それでいて暖かかった。

多分、私を安心させるためにわざと言ったのだろう。

「そんなことないわよ…」

思わず、涙声になってしまった。

泣くもんか。

絶対に泣かない。

横にいたミルファさんが背中をとんとんと叩いてくれる。

まるで母親のようだ。

「でだ、この後の予定だが、俺の領地に一旦戻る。そして儀式の準備をして満月を待つということになる。それでいいな?」

「ええ。それでお願いします」

そう答えて、ふと考える。

今、南雲さんは今、何と言った?

俺の領地?!

………。

……。

…。

「えーっ。領地なんて持ってるの?!」

素っ頓狂な声だと自分でも思ったが、出たものは仕方ない。

私の横でアーサーさんとミルファさんが爆笑している。

南雲さんはむすっとした表情で「この世界に10年近くいるからな」と言ってそっぽを向いた。

なんだかかわいいと思ってしまう。

アーサーさんが笑いながらも、何とか言葉を発して説明する。

「ボスは、この国の貴族の一人。アルテリスト伯爵の部下扱いでね。一代限りだけど名誉男爵の爵位を持っているんだよ」

その言葉に、ますます私は混乱する。

「こんな、皮肉屋の中年が…貴族様って…」

そこまで言った瞬間、ごつんと拳骨で頭を叩かれた。

その痛みに頭を抱えて叩いてきた人物を見上げる。

「悪かったな!!皮肉屋の中年でっ!」

さっきまでの表情が嘘のように怒りモード全快の南雲さんがそこにいた。

「ご・ごめんなさいっ…つい…」

ぎろりと睨まれ、慌てて手を振って否定する。

「すみません…。すみませんでしたっ」

そう言うと南雲さんはため息をはいて仕方ないといった表情を浮かべた。

「もういい…。ともかくだ、明日から一週間近くは馬車での移動になる。今日は疲れたろうから早めに休むといい」

「うん…」

私は返事をするとミルファさんに連れられてテントへと向かった。

帰れる。

ただ、それだけを考えて…。



「しかし、よかったんですか?狙われている理由や何で召喚されたのかってことを説明しなくて…」

アーサーのその言葉に、さっきまで笑顔を作っていた南雲の顔が感情のない顔に戻る。

「知らないなら、知らない方がいい。それにだ…」

そこで言葉を一旦切って、より強い意思をのせて言葉を発する。

「召喚した連中やその依頼人の始末は俺達の仕事だ。」

「でも、今回の依頼人って…」

「言うな。どんな理由があろうとこの術は使ってはいけないし、この魔導書は禁呪として封印しなければならない。それがこの国の方針であり、規則だ。それに…」

そこでぐっと拳を白くなるほど強く南雲は握り締める。

「どんな理由があろうと他人を犠牲にしていいわけがない」

「そうです。そんなことがあってはいけない…。あってはならないんですよね」

「でもな、人というのは自己主義でどうしょうもない生き物だ。自分のため、いや自分の大切なもののためならどんな残酷なことも出来てしまう生物なんだよ…」

その言葉には実感がこもっていた。まるで自分がそうであるかのように。

その言葉にアーサーがため息を吐く。

「難儀な仕事ですね、この仕事って…」

その言葉に夜空を見上げて南雲は同意した。




南雲さんの領地に向かう間の旅は現実の旅のように快適とはいえなかったが、それでも知らないことを見たり聞いたりすることはすごく刺激になった。

途中、獣に襲われたり、魔獣を狩ることになったりで何度か血なまぐさい事はあったものの、帰れるという未来があるからなんとかなった。

その間、私はいろんなことを聞いたり体験したりした。

特に私が習得しているカラテや合気道に興味があったのだろう。アーサーさん以外にも一緒に行動する他の隊員も興味津々で話に参加してきた。

その結果、互いの技を見せ合ったり、終いには模擬戦みたいなことまでしたりした。

そして格闘術に関しては今の私でも十分にこの世界で通用することがわかった。

アーサーさん曰く、かなりの強さだという。

祖父のおかげだ。ありがとう。役に立ちました。

まぁ、習ってたころは練習はきつかったけどね。

また、ホムンクルスについても簡単だけど説明を受けた。

元々人の臓器移植などのための研究であったが、移植の時の適合率のあまりの低くさに、臓器移植の研究ではなく擬似人間を創り出すという研究へと変化したものらしい。

しかし、魂のない器は、ただの特徴のない肉の塊でしかない。

機能的には人と変わらないはずなのだが、動こうとか何かをしたいといった魂の意思はどうしても宿すことは出来なかった。

そこで今回のような魂を召喚しての結びつきという流れになってしまったようだ。

もっとも、この世界の人間の魂を定着させようとしたが、うまくいかず、その結果、異世界から魂を召喚するという流れになってしまったらしい。

だが、それは人道的に問題であり、異世界であれ人をさらうという行為でしかないため、国としては禁止となってしまった。

そして、その魂を召喚する呪文を籠めた魔導書もそのほとんどが破棄されてしまったという話だった。

しかし、それでもまだ何冊かの魔導書が流通しており、儀式が行われている。

その取締りをするのが南雲さん達であり、私は被害者と言うことになる。

それとアーサーさんの説明では、ホムンクルスの身体は基本的に人とほとんど変わらず、南雲さんのように何年も同調していると南雲さんの魂の色に染まってしまい、その結果、魂がなくなっても姿形は南雲さんのままで、元のホムンクルスの状態に戻ることはないということだ。

つまり、魂が結びつくことによって、ホムンクルスという器だけの存在が、人という魂と肉体を持った生きたものに変化するとのことらしい。

なら、私はっていうと、まだ魂と器が定着しておらず、私が元の世界に戻ったらこの器はただの人型の肉の塊、魂のないホムンクルスに戻ってしまうそうだ。

そしてその器となったホムンクルスは、分解されて再利用されることになっているらしい。

まぁ、もう戻ってくることはないからいいんだけど、なんか複雑な気持ちになってしまう。

一時的とはいえ、私の身体となってくれていたのだからかな。

もっとも、これも帰れるという前提があるからかもしれないが…。

ともかく、この移動の間、私はいろんな事を知り、経験をした。

今思えば、帰れるという事に浮かれてしまっていたといったところだろう。

だから、私はすっかり忘れてしまっていた。

聞いておかなければならないことを…。


私は、何のために呼ばれ、なぜ狙われているのかと言うことを…。

一応、これで第壱章は終わりです。

まぁ、本当はもう少し道中の話なんかを書こうかと思ったんですけど、だらけそうなので一気に行きました。

次は、第弐章の始まりとなります。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ