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鬼姫異世界放浪記  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第四章 混乱の街カンロ

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第四章 4-1

翌日、私達を訪れたのは、二人の女性だった。

一人は年の頃は三十後半といった感じの浅黒く焼けた肌のごつい体格の黒っぽい感じの赤髪の女性で、かなり力があるのだろう。

だぶついた服を着ているはずなのに、なんとなくだが腕に筋肉がついているのがわかる。

腰には護身用の小型ナイフ、それに皮製のポーチをつけている。

目は細いものの鼻も口も大きめで、体つきとあわせてどちらかというと豪快な感じがした。

もう一人は、正反対の白い肌の華奢な女性だ。

年は二十代ぐらいだと思うが、十代と言われたらああ確かにと言われて通用するだろう。

まるでお人形さんのような整った顔で赤い瞳と白い髪を束ねて後ろに流しているのが印象的だ。

華奢ですぐに折れそうなイメージだが、きりりと上がった眉としっかりと締められた唇から、意志の強さを感じることが出来る。

こちらはゆったりとした感じの青く染められた服を着ているが、腕の動きなどからどうやら服の下に皮製の防具らしきものを身につけている感じだ。

「こんにちわ。皆さんの噂はよく耳にしますよ」

そう言って豪快な方の女性が微笑むと手を出してきた。

「いえ、そんな。偶々ですよ」

そう言って私は握手に応じる。

ゴツゴツした手だ。

一応、商人だとは聞いていたが、武器も扱えそうだ。

多分、行商人なんてやっていると修羅場の一つや二つは潜り抜けてきたに違いない。

「立ち話もなんですから、まずはお座りください」

「そうですね。そのほうが助かりますよ。シズカはあまり丈夫な方ではないんでね」

シズカ?

それって…。思わず思考が別の方に流れかける。

多分、ぼっとしていたのだろう。

ミルファが私の肘を小突く。

おっと、いけないいけない…。

二人が丸テーブルの椅子にそれぞれ座った後、私達も席に座る。

「えっと…まずは自己紹介しなきゃいけませんね」

ざっとこちら側から順に簡単な紹介していく。

さきほどから大柄の女性ばかりしゃべり、華奢な女性は微笑んでいるばかりだが、その紅い目には私達を品定めしょうとしている様子が見て取れる。

もしかしたらと思い、私の名前に反応を示すかと思ってしっかり見ていたが、私では変化はわからなかった。

そして、次は二人の番となった。

「あたしが、行商人兼フリーランサーをやっているサラトガ・イエメンだ。こう見えても武器の扱いはそこそこ出来るつもりだぜ。あと、業者を二人雇っているけど、そいつらは仲間と言うよりうちの商会の従業員だから今度にでも顔合わせはしたいと思う」

そう言って腕を組む。

すると服の袖から少し筋肉が見えた。

ほほう、なかなかの筋肉のつき方してますね。

ノーラさんに比べれば、まだまだですけど、私やリーナじゃまず力負けしそう。

「そんでもってこっちが、今私と組んで仕事をしている薬師兼フリーランサーのシズカ・アイザワだ」

「シズカ・アイザワです。簡単な魔法を使えますが、本職は薬師の方です。戦いとかは期待しないでください」

そう言って、シズカさんは優雅に頭を下げる。

見た感じだが、その動作や佇まいからかなりいいところの出のように見えた。

「さて、自己紹介も済んだことだし、では話を進めましょうか。構いませんよね、サラトガさんにシズカさん」

私がそう言うと、「いいねぇ。そういう無駄のない進め方ってのは私は好きだぜ」とサラトガさんが笑いながら言う。

そしてついでに、「偉い人じゃないんだし、対等な立場なんだからよ、呼び捨てでいいぜ。こっちも呼び捨てて呼ばせてもらうからよ」といった。

「では、私達も呼び捨てでお願いしますね」

「オッケーだ。アキホ」

「まず、今回、どういう風にお話を聞いていますか?」

まず、相手が知っている事を知るためにそう聞く。

最初の認識が違っていたら、どんなに話し合おうとまとまるものもまとまらないからだ。

お互いに共通認識があってこそ、話し合いが出来るというものだ。

だから、まずは基本となる部分を共通させる為の確認である。

「あたしらが聞いたのは、アキホ達が移動手段を欲しているって事と世界を旅して周りたいと思っているってことだ。そのために、一つの街や都市に長期滞在しないって聞いてるけど、それは間違いないのか?」

「ええ。大体間違ってないわね。今のところはどこに向うとか予定もないから、そっちの予定にあわせることも出来るって感じだね。まぁ、一つの街や都市でいくつか仕事をしたら、また移動するって事になるけど…」

私がそう言うと、サラトガは豪快に笑いつつ「それは問題ない」と短く返事をする。

「それで、そっちの条件は?」

ミルファが私に代わってそう聞く。

「そうだねぇ。商売の為にどうしてもこっちの行き先の都合を優先して欲しいって事と移動中の護衛かな。最近は特に物騒になってきたから、フリーランス組合で護衛を雇う必要性がでてきたからねぇ…」

「で、それで護衛代わりに私らを使うんだ。それなら運賃だけじゃねぇ…」

ミルファが少し悪そうな顔でそう聞く。

それってまるで悪徳商人みたいだよ、ミルファ…。

「もちろんだ。運賃無料に毎日の食事代は出す。道中は、それでどうだ?」

「ならさ、それ以外は?」

「そうだなぁ。商売はこっちでやるからそれに関しては何もないが、もし手伝ったくれるならいくらかのバイト代は出す。あと、街や都市の滞在費は各自持ち。一緒に依頼を受けたら、依頼料は、頭数で分ける…。こんなもんかな…」

「いいでしょう。それでやってみて、トラブルがでたらその時に話し合うということで…」

「ああ。こっちもフリーランス組合に通すより格安で済むし助かるよ。そういうわけで、よろしくな」

「それで、まずはどこに向う予定なんです?」

私がそう聞くと、サラトガは「大きな声じゃ言えないがよ」と先に言ってから小さな声で言う。

「ここから北に三つ程度町を抜けた先にあるカンロという都市だよ」

その言葉に、リーナが怪訝そうな顔で聞く。

「もしかして、カルスト男爵領のカンロですか?」

「そう、そこだよ。よく知ってるな。田園地帯で、あそこはメインの街道から離れた田舎だから、あまり知らないやつもいるんだがね」

サラトガが少し驚いた表情で言う。

「私も、そんなに詳しいわけじゃないですがね…。商品は…武器ですか?」

リーナの言葉にサラトガがニタリと笑う。

「半分当たりだ。うちは元々薬をメインにしてるんだがね、ちょっと儲け話を聞いてね…」

二人の会話の意味がわからず、リーナの方に顔を向けて聞く。

「どういうこと?」

リーナが、視線をサラトガから私に向ける。

「詳しい話は後で言いますけど、あの辺は今、住民と領主がトラブってましてね。きな臭い場所なんですよ」

そう言われたら私にもなんとなくわかる。

「武器を売って一儲けってわけですか…」

「まぁ、薬だけだとなかなか一気に稼げないからね。わたしゃ商人なんだよ。私の勘が賭けろって言ってるのさ。それとも、なにかい、なかったことにするかな、この話は…」

サラトガがニタリと笑いつつ言う。

「いいえ。なかったことにはしませんよ。最初に言ったでしょ?この世界を旅して周りたいと。それにね、約束もしましたからね」

私の言葉に、サラトガは楽しそうにテーブルを叩いた。

「いいねぇ。アキホ、あんたいい商人になれるぞ。商売人にとって契約は全てだ。それがとんでもない契約でもな。そして、あんたは、それを受け入れた。気に入ったよ。約束しょう。これからは何かあったら必ずあんたに相談して決めるよ。絶対だ」

そう言って楽しそうに右手を差し出す。

そう。これは挨拶の握手ではない。

仲間としての、契約成立としての握手だ。

私も右手を差し出し、握手する。

「これからよろしく」

「こちらこそだ。リーダー」

こうして、私達『シャイニング・アロー』に二人の仲間が加わったのだった。



三日後の朝にまた集合し、問題なければそのまま出発すると申し合わせ、二人は自分達の宿に帰って行った。

「どうだったよ?」

ミリーが伝票票を持ってこっちに来る。

「また一癖も二癖もある人を紹介したねぇ…」

ミルファが苦笑しつつそう答える。

「そりゃ、あんた達だからさ。あんた達だからこそ、使える連中を紹介してるのさ」

「その割には、癖強すぎません?」

私がそう言うと、ミリーが少し大げさに驚いた顔をして言う。

「よく言うよ。自分たちがどれだけ癖がある一筋縄でいかない部類だと思ってんだい。自覚しなきゃ駄目だよ」

そんな事を言いつつ、注文を受けるミリー。

私は全員の顔を見て、ため息を吐き出して言う。

「まぁ…確かにそうなんだけどさ…」

その瞬間、三人が声をそろえて言った。

「アキホに言われたくないっ!!」

ちょっと、それ酷くない?

私、確かに『鬼』として覚醒してるけどさ、なるべく目立たないようにしてるつもりだよ?!

この世界の常識に基づいて行動してるつもりだよ?!

それなのに…。

泣いたマネをするものの、誰も慰めてくれない。

みんな冷たすぎる…。

えーいっ。今日はヤケ酒だぁっ。

ヤケになった私は、ミリーにお酒とつまみを山のように注文したのだった。


「ねぇ、アキホ、起きてる?」

私を呼ぶ声にうっすらと目を開ける。

「うーっ、なんとかねぇ…」

「あははは…。飲みまくってたからねぇ…今日は…」

「誰のせいだと思ってるぅっっ。みんな冷たいんだものぉぉっ」

私の言葉に、ミルファのくすくすという笑い声が返ってくる。

「ほんと、アキホは変なところで甘えん坊なんだよねぇ…」

「ほっとけーっ」

くすくす…。

言葉を返すたびに、ミルファは笑っているようだ。

もうやだーっ。

うーーっ。

そんな事を思っていると、笑い声が急に止まる。

そして、真剣な声が耳に流れ込んできた。

「ねぇ…。あのシズカ・アイザワって…」

ああやっぱり。

ミルファは気がついていたか…。

だから私も思った事を言う。

「名前だけ聞いたら、間違いなく私や南雲さんと同じ国の出身みたいな名前みたいだった。でも…あの容姿は違う。まず白髪に紅い目なんてありえない…。もし仮に染めていたり、色を抜いていたとしても、あそこまで綺麗には無理だし、生え際も真っ白だった。それにここでの世界ではコンタクトなんてものがあるとは思えないし…」

「確かに…。私が今まで会った別世界から来た人は、黒髪か茶色の髪に、黒と茶色の瞳の持ち主ばかりだったしなぁ…。それと聞いていいかな?」

「何?」

「コンタクトって何?」

その質問で、この世界にコンタクトレンズに相当するものがないとわかる。

「コンタクトって言うのはね、コンタクトレンズと言って、瞳に直接、薄くて小型のレンズを貼り付ける事でよく見えるようにするものだよ。それにはいろいろ色つきもあってね。それをつけることで、瞳の色を変化させることが出来るんだ」

「へぇ…」

感心したような声を上げるミルファ。

「アキホやボスのいた世界って、魔法がないくせにそんなすごいものがあるなんて…、不思議な世界だよねぇ…」

「私としてみたら…魔法のある世界の方が、不思議なんですけどね…」

「まぁ、それは互いの価値観の違いとか、文化体系や発展体系が違う為ということかねぇ」

「そういうものかもね…。それでシズカに関しては、私にわかったのはそれくらいかな…」

そして思い出す。彼女の態度と様子を…。

「あとは…すごく手ごわそうな感じって事かな…」

その私の言葉に、すぐに「私も同意だわ」とミルファは言葉を返す。

「しばらくは、彼女に関しては様子見かねぇ…」

「そうね。そういうことかな…」

そう返事しつつもなんか段々とまた眠気が私を蝕み始める。

「サラトガの方はどう?」

「彼女かぁ…。彼女は、多分、信用は出来そうじゃないかな…」

そう返事をしつつ、私はいつの間にか深い闇の中に沈み込んでいった。

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