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鬼姫異世界放浪記  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第参章 旅立ちの章

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第参章  3-8

二人の視線が私に集まる。

それを受けて、私は少し考えた後、二人を見回して答える。

「基本は、ハルカの葉も実も見なかった事にしましょう。そして、ゴブリンの巣にあるハルカの実は処分しちゃいましょう。もし、村長からいろいろ聞かれても知らぬ存ぜぬを貫きことで対応できると思います」

私の言葉に、少しリーナは不満そうな表情で聞いてくる。

「じゃあさ、ハルカの栽培に関しては?」

聞かれると思ってちゃんと答えを用意していた私は、すらすらと答える。

「そんな大事に巻き込まれたくありませんからね。スルーしちゃいましょう」

そこで一旦言葉を停めて、私はにこりと笑う。

「もっとも、口が滑らないようにしないと南雲さんへの手紙に書いたり、フリーランス組合の人に話したりしちゃうかもしれませんから注意しておこうかな。そうそうリーナ、貴方の組織の人に詳しく話さないようにね」

私の言葉の意味がわかったのだろう。

「そうね。注意しておこうかなぁ…。でも、ついぽろっと話しちゃいそうだなぁ…」

そんな事を言いつつ、リーナはニタリと笑う。

話す気満々の笑顔だ。

「別に気にしなくてもいいんじゃない?別に私達は困らないし…」

そう言ったミルファだったが、思い出したように言葉を追加した。

「あ…報酬貰う前は困るわね…」

その言葉に私達はお互いに笑いあうのだった。


そして翌朝準備を整えてゴブリンの巣に向う。

警戒して進む為進行スピードはあまり速くない。

先行をリーナさん。少し離れて、ノーラさん、ミルファ、そして後方が私という感じで進んでいく。

昨日、ゴブリンに遭遇したところに近づく。

ゴブリンの死体は綺麗になくなっていた。

肉食動物が処分したのか、或いは別のゴブリンたちが発見したのか…。

死体を引きずった後があることから、多分、他のゴブリン達のグループに発見され回収された可能性が高い。

ゴブリンの習性から、飢えれば共食いありであることから、食料になった可能性は高い。

しかし、行く先、行く先の戦闘跡に死体がないのには驚いた。

かなり多数のグループが昨日徘徊していたと考えられる。

もし今日もそうなら、各個撃破できるので、一気に多数を相手にするよりも楽ではあるが今のところまだ遭遇していない。

ともかく、私達は周りを警戒しつつ前進していった。

そして、正午近くになり、交代で休憩と食事を取る。

二人ずつ、食事を取って装備の最終確認をしていく。

食事と言っても、野菜ステックにパルメと呼ばれる野菜を練りこんで焼かれた固めのパン、それに干し肉。後は、飲み物としては事前に用意しておいた塩とレモンによく似た果実の汁を入れたスポーツドリンクのようなもの。それぐらいだ。

ニーは、胡桃のような実を齧ってお腹を満たし、水を舐めて水分を取ると後は木の枝に上って周りを警戒している。

なかなか頼りのある頭のいい子だ。

途中、一度もゴブリンのグループと遭遇していない為、もしかしたら巣の近くで六十近くのゴブリンやホブゴブリンと戦わなければならない。

数では圧倒的にこっちが不利だ。

だからこそ、策を練り準備を怠らないようにしなくてはいけない。

昨日の偵察から、入口近くには二、三匹のゴブリンがいる事がわかっている。

多分、見張りだろう。

だから、まずは魔法で眠らせて、その見張りを始末した後は、定番の追い込み式でやっていくことにした。

追い込み式とは、発火と発煙の効果のある道具を巣である洞窟に放り込み、その煙や炎によってパニックになって出てきたゴブリンやホブゴブリンを順に潰していく方法だ。

これは洞窟などにいる魔物に対して有効な戦法で、相手はパニックになって戦闘できない、或いは戦闘力の低下した場合があるという事と、狭い入口から出てくる為にこちらの数が少なくても時間はかかるが多数を相手にしやすいという利点がある。

確かに洞窟に突入してもいいのだが、その場合は罠や待ち伏せなどに注意せねばならず、またこっちのペースで進めることが出来ない事も多い。

あまりにもデメリットが多いうえに、こっちの利点があまりない。

戦いにおいて防御側が有利なのは、別に大きな戦だけではないと言う事だ。

だからこそ、オーソドックスだが、この方法を選択する事にした。

「えっと、それじゃあ、ミルファが魔法で見張りを眠らせて、その後は、リーナが先行して始末する。そして、前衛の私とノーラさんで入口近くに壁を作って、それが出来上がったらリーナが煙球を巣の中に放り投げて、後方警戒。ミルファは、私達壁役の後ろに居て、魔法で援護と狙撃。それでいいかな?」

私がミルファに聞くと、「そうねぇ…」と言いつつミルファは口を開く。

「まぁ、ゴブリン、ホブゴブリン程度なら、抵抗できないと思うけど、念のためにリーナには弓か投擲での援護をお願いしといたら?」

「あら、意外と慎重だね」

「あら、それは心外な発言よね、アキホ。私は、絶対と言う言葉はありえないと思っているの。それにね…」

少し寂しそうな顔をするミルファ。

「友人や仲間を失う事は、あまり経験したくないしね」

どうのこうの言いつつも、ミルファは一度仲間と認めた相手に対しては実に誠実だ。

それに私だって経験がある。

だから、「そうだね。ああいう事はもう二度と味わいたくないよ」と私も答えた。

順に食事と休憩、それに準備が終わると私達は慎重に先を進んだ。

しかし、やはりゴブリンのグループには遭遇しない。

なんか嫌な予感がする。

ミルファを見るとミルファも少し考え込んでいるようだ。

リーナがちらちらとこっちを伺う。

どうするか聞きたいのだろう。

ただ、ノーラさんだけは相変わらずの微笑を浮かべて前進している。

いや、それは間違いかもしれない。

頬に少し赤みが差しており、少し浮かれているように見える。

多分だが、これから始まる戦いに高揚しているのかもしれない。

ともかく、より警戒しつつ前進あるのみだ。

ここで引き返すわけにはいかない。

だから、リーナに頷いてみせる。

リーナは私が頷くのを見ると、彼女も軽く頷いて視線を前方に向けた。

そして一時間もしないうちに目的地である洞窟にたどり着く。

近くの茂みから確認すると昨日と同じで二匹のゴブリンの見張りが居た。

周りに他のゴブリンや魔物が居ないのを確認する。

しかし、後から返ってくる場合もある為、念のためにリーナには後方警戒に入ってもらう予定だ。

挟み撃ちなんてごめんだしね。

私達は互いに顔を見て頷くと無言で動き出す。

まだチームを組んでわずかな時間しかいないが、事前に徹底的に打ち合わせをしている。

だから迷いはない。

「眠りへの誘い」

ミルファの魔法が効果を発揮したのだろう。

見張りのゴブリン二匹が倒れる。

すかさず、リーナが先行して止めを刺す。

私とノーラは、ゴブリンの死体を戦いの邪魔にならない場所に移して、攻撃場所の位置を確保する。

ノーラさんが大型の斧と槍が合体したようなハルバードを軽々と抱え構える。

本当なら私は格闘といきたい所だが、リーチが短いのと止まって壁として戦わなければならない事を考えて用意していた槍を構える。

まぁ、散々訓練させられて、片手剣と槍だけはある程度使いこなせるようになっている。

もっとも、その技量は格闘に比べたら天と地の差もあるが、こういう場合は格闘だと不利になる。

だから少しでもリーチのある槍を選択する。

ミルファが杖を地面に刺すと両手を広げる。

「防御向上」

「攻撃向上」

次々と私達全員に魔法をかけていく。

「まさか…双詠唱魔術師?」

ノーラがそう呟いている。

そうなのだ。

ミルファは両手を空けることで、二つの呪文を同時に使うことが出来る。

しかし、その双詠唱も欠点がある。

つまり、同じ呪文を同時に二つまでしか出来ないのだ。

異なる呪文を同時にしたいのなら、口が二つあるか、呪文の詠唱スピードを上げるしかない。

しかし、そのどちらも普通では出来ない。

それこそ、魔物か規格外の化け物でない限りは…。

呪文をかけ終わったミルファはすーっと深呼吸をして息を整える。

「攻撃向上」を三回。「防御向上」を四回。「気配鋭敏」を二回。合計九個の魔法を一気に使ったのだ。

息を整える必要も出で来る。

そして、リーナが私達を見回す。

私達が頷くのを確認すると煙球を三つを順に奥に投げ込んだ。

そしてすぐにミルファの後ろに下がって後方警戒をしつつ、洞窟の動きを見る。

洞窟からは、ゆっくりと煙が溢れ始め、パチパチという火が弾けるような音が聞こえる。

そして、それにあわせて叫び声と言うかわめき声というかゴブリン達の声が響き、洞窟内が騒がしくなる。

「そろそろ来ますわよ」

ノーラが目を開き、ぺろりと舌で唇を舐める。

その表情に浮かぶのは狂気に近い色だ。

彼女は戦闘を楽しみにしている。

そう、生き物を殺す悦びに飢えているといってもいい表情をしていた。

そして、まず2匹のゴブリンが飛び出してくる。

慌てていたらしく、武器どころか防具さえ身につけていない。

出てきた瞬間、ハルバードが勢いよく振り回され、二匹が一撃で真っ二つになる。

飛び散る血と骨の砕ける音、肉のひしゃげる音が響き、その後に崩れ落ちる肉片の音へと続く。

「うふっ…。まずは二つ…」

ノーラがそう呟く。

その鮮やかな手並みは、彼女がこういうことに慣れていることの証だった。

そんな事を思っていると再び、騒がしい音が近づいてくる。

今度は、ゴブリン1匹とホブゴブリン2匹。

武器を持っているものの、防具はつけていない。

ノーラもさすがに一撃で三匹は無理なのでホブゴブリンの一匹はこっちで受け持つ。

フェイントをかけつつ、胸めがけて一撃を放つ。

肉を貫く感触が手に伝わり、ホブゴブリンの動きが止まり、よろよろと崩れる。

私が槍を引き抜くと血が飛び散った。

「さすが…心臓一撃とは…。いい腕してるよ」

ノーラがゴブリンとホブゴブリンをそれぞれ一匹を仕留めて、私の方を見て言う。

「ノーラさんにはかないませんよ」

私がそう言うと、ノーラさんはニヤリと笑う。

「何言ってるんだい。振り回してぶった切ったり突いたりするハルバードと突いて切る槍を一緒にするんじゃないよ。その武器にあった攻撃が出来ているって褒めてるのさ。武器の特性わかってなくてアホみたいな攻撃してる馬鹿が多いからねぇ。その点、あんたは基本に忠実な動きだ。そんなやつほど腕は上達していくからね。がんばりな…」

そこまで言った後、口角をきりりと上げる。

「どうやら次が来たみたいだね」

普段とはまるで違うノーラさんに私は驚いたが、多分こっちが本性なのかもしれないなと思いつつ武器を構える。

そして次の飛び出してくるゴブリンたちを仕留めていった。


「これで終わり?少なすぎない?」

ノーラさんが物足りなさそうに呟く。

実際、私もそう感じている。

倒したゴブリン、ホブゴブリンは見張りを入れても十五匹。

あまりにも少なすぎる。

昨日、三十近い数を狩っているから、合計で四十五匹程度。

基本、ゴブリンは五十~百程度で群れるし、飢えている事もあるから、これぐらいしかいなかったとも考えられる。

しかし、楽観的な見方は生死のかかった場合、死につながる恐れがある。

だから、最悪の事を考えて行動すべきだ。

すでにかなりの時間が経ったから、洞窟内から煙は出てこないし、パチパチという火の弾ける音もしない。

「さてどうするアキホ…」

深刻そうな表情のミルファ。

嫌な予感はますます大きくなっていく。

しかし、確認しておく必要がある。

「念のため、巣の中を調べましょう。そして、結果次第では急いで村に戻ります」

私の言葉に全員が頷いたのだった。

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