異世界不思議発見
「ヒマだな」
「ほとんどマークがやってくれやすからね」
ノーワンとグラッツは宇宙船アストラ内の一室で有り余る時間を潰していた。
シフト・ドライブ・ジャンプは軌道が安定すればジャンプ妨害でも無い限り、ほぼ全て制御コンピュータ任せでいい。要するに約2日間は船内での自由時間だ。
「趣味のプラモでも作りゃいいじゃないっすか」
「この前、積んでたヤツ全部作っちまったからもうねえよ」
ノーワンの趣味はプラモデル製作。主に宇宙船のプラモデルを好む。今二人がいるこの部屋もノーワンが女性陣の反対を押し切って作成したプラモデル製作兼観賞室である。
「だったら本でも読みやしょう、コレとかどうです、『世界不思議遺物全集』」
「不思議、か」
突然、ノーワンが立ち上がり、なにやら真剣な表情で誇らしげに語りだす。
「なぁグラッツ、俺、不思議なものは解明したくなるんだ」
「……? まぁ、人間だったらそれが当たり前だと思いやすが」
「そうだよな、この目で見るまでは信じることは出来ねえよな」
「いきなりどうしやした? そんなにこの本が――」
「今、嬢ちゃんはミヤカ達とシャワーを浴びにいっているな」
「は?」
突然何を言い出すのだろうこの男。そう心の中で思うグラッツなどお構い無しにノーワンは続ける。
「俺信じられねえんだよ、嬢ちゃんのあの胸が、あの身長に不釣合いなデカチチが。絶対パッドだろ」
「信じられねえのはアンタの頭だよ! あんな小さい子の裸見ようとしてんのか!」
「いいじゃねえかヒマなんだしよ。旅には適度な刺激ってものが――」
「姉さんもいるんですよ!? 殺されるに決まってるでしょう!」
ノーワンは軽く舌打ちしプラモ部屋を飛び出した。
「チッ、臆病モンが。だったらそこで待ってな。俺が真実を持ち帰ってきてやるぜ!」
――同時刻、シャワー室。
ミヤカさんに体を洗ってもらう俺がいた。「自分で洗いますから」と言っても聞いてもらえなかった。
「かゆいところある? アイリちゃん」
「だい、じょうぶ……です」
全然大丈夫じゃありません。お忘れかもしれないが、中身は男子高校生、思春期真っ盛りである。ミヤカさんはそのことを知らないのでそのグラマーな体にタオルすら巻いていない。なるべくミヤカさんの裸を見ないように顔を伏せるが今の俺を気遣ってなのか、ボディタオルなど使わず手で丁寧に体を洗ってくれる。落ち着け俺、別にいやらしいことは一切無いはずだ。今の俺は女なのだから。
「いやー、しっかしデケーッスねー」
「ひゃいっ」
いきなり現れたニーナさんに胸を鷲掴みにされ、つい声が漏れる。無論、ニーナさんもそのスレンダーな体をタオルで隠すことなどしていない。
「こらニーナ、あんまりアイリちゃんの胸揉まないの」
「いやでもこれスゲーッスよ。ずっと揉んでられるッスよ。ハァァー天国ッスー」
「あ、あの、あんまり乱暴に揉まないでくださ――んっぁっ♡」
ニーナさんの触り方がちょっといやらしいというか、先端に刺激が来るように触るものだからそれに合わせて声が出てしまう。
「ホレホレここがええのんかぁ、ええのんか――って痛ァ!?」
スケベオヤジお決まりの文句を言いながら俺の胸を揉んでいたニーナさんの頭頂部に、ミヤカさんの拳骨が見事なたんこぶを作り上げる。
「調子に乗るんじゃないの。アイリちゃん困ってるでしょうが」
「痛いッスよ! バカになったらどうするんスか! この船のメンテ出来なくなっちまうッスよ!」
危なかった。女の体なのであまりよくわからないが、へその下辺りがすごい疼いていた。なんだったんだ今の。
「んっ、ふぅ、ニーナさんってこの船のメンテナンスとかするんですか?」
「そーッスよ。こう見えても私、この船の専属メカニックッスから」
「この子、機械弄りだけは他の追随を許さないからねー」
「だけってなんスか、だけって」
ニーナさんが頬を膨らましながら、不満そうな顔をする。ミヤカさんはそんなこと全く気にせず、俺の体を洗い終えた。
「よし。じゃあニーナ、アイリちゃんと先あがっててくれる? 私もパパッと体洗っちゃうから」
「ほいほい、んじゃ行こっか」
「はーい」
シャワー室からロッカー室へ出て体の水滴をタオルでふき取り、ロッカーを開け中のメイド服に着替えようとする。
「あっ、アイリちゃんちょっと待つッス。その服かなり汚れてるッスね」
言われてみるとそうだ。埃まみれの遺跡で走り回った上に、機械兵との戦いによってあちこち擦り切れてしまっている。このまま着たらせっかく体を洗ってもらったのに意味がない。
「えーっと……確かこのロッカーに超伸縮素材スーツが入ってたはずだからそれ着るといいッスよ」
そう言ってニーナさんが別のロッカーを開けるとそこには、
ノーワン船長が入っていた。
「何してんスか船長?」
「えっあっいやーちょっと嬢ちゃんの事が気になってよ」
「私のことですか?」
なんだろう? 何か重要なことだろうか。というかまず、なんでそんなところに入っているんだ。
「そのおっぱいが本物なのかどうか確かめに来たんだ」
このおっさんは何を言っているんだ。
「フッ、船長、安心するッスよ。さっき私が揉んで確かめたッス。まさしく神秘、スーパーナチュラルおっぱいッス」
この人も若干頭おかしいな。
「そうか、いやー不思議が解明されるってのは気持ちのいいもんだな! んじゃ俺は自室に戻るから、俺がロッカーに忍び込んでいたことはくれぐれもミヤカには――」
「楽しそうなお話してるわねぇ、船長」
いつの間にか、ミヤカさんが着替えも終わってそこに立っていた。その顔は確かに笑顔ではあるが、薄く開けられた瞳からは冷たい殺意しか感じなかった。
「アイリちゃん、はいこれ」
と言われて渡されたのは先ほどノーワン船長がいたロッカーに入っていたであろうスーツ。
「ニーナ、着替えを手伝ってあげてね。私はちょっと船長とお話があるから」
「了解ッスー。ごゆっくりー」
「み、ミヤカ! 違うんだよこれは仕方ないっていうかヒマだったっていうか――アガァァァァァッ! もげるゥゥゥゥゥゥ!」
ミヤカさんはノーワン船長にアイアンクローをして、引き摺ったままロッカー室から出て行ってしまった。
同じ男としてわからなくもないが、のぞきはだめだと思いますノーワン船長。
――しばらく後、プラモ部屋にて。
「あっ、帰ってきた。どうでしたか船長、不思議は解明できやし――ッウワァァァァァァアアアアアア!」
帰ってきたノーワンの顔面はひどく腫れ上がり、人かどうかすら判断できないような有様だった。
「ひひていふのふぁふひふぃふぁへ……」
そう言うとノーワンは力尽き、その場に膝から倒れ込んだ。