魔法少女『アイリ』
「どうすんだよこれぇぇぇぇぇ!」
神から渡されたアイテムポーチに入っていたのは、サブキャラ『アイリ』の倉庫内アイテムだった。
俺の最強キャラ『伝説の魔闘士』とかのアイテムとかだったら素直にわーいやったー!と言えるが、『アイリ』は所詮倉庫キャラ、悪く言うと、ほとんどゴミ箱みたいなものである。
当然、中に入っているアイテムも使わなくなったアイテムや、期限切れのイベントアイテム、時代の波に置いて行かれた武器や防具となっている。
つまり、俺は神から加護ではなくゴミアイテムの山を授かった。
「だめだァァァァアアアア! 終わったァァアアアアアアアアアアア!」
しかし、そこでふと考える。たとえゲーム内でゴミであっても、現実なら普通に使えるのでは?
俺はすかさずリストの中から武器を一つ選び、念じる。すると柄のような物を握れたので手を引き抜く。ニュルッという感じで、一気に出てきた手に握られていたのは、白銀の髑髏がついた煌びやかな一振りの短剣。
ゲームの見た目と全く同じ『審判剣 ネフティス・レイ+10』だ。
「おぉ、再現度スッゲ」
時代の波に流され、約3年が経つが、当時は最強だった武器、コレならイケる!
そう思い、逆手で強く握り締め、機械兵の腕に振り下ろした。
「これでッどうだァッ!」
だが、剣の切っ先が、機械兵の腕に届くことは無かった。バチィっと青い閃光と共に、剣が手から離れてしまったのである。そのままキィーンッと音を立てて真下の地面に落ちてしまった。
え? 何が起こった? 機械兵が何かしてきた? 考えている俺は、あることを思い出す。
それは、ゲーム内における『審判剣 ネフティス・レイ』の『装備条件』。
キャラクターステータスにある打撃力が680を越えなければ、この武器は装備できない。いやいや、今現実だしそれはないでしょ。と思い、もう一つの短剣武器『アーバルホワイト+7』を取り出し、軽く振る。『装備条件』は打撃力540だ。
またもや、バチィッと光が走ったかと思うと、『アーバルホワイト+7』が『審判剣 ネフティス・レイ+10』の近くに落ちる。
「…………」
よく見るとリストの武器と防具の名前が、ほぼ全て灰色で表示されている事に気がついた。思い返してみると先ほど取り出した武器二つも灰色だった。
「そこまで再現しなくてもいい!」
武器と防具が使えない。ポーチの中に手を突っ込んでも中にあるのは、もはやほんとに使えないゴミばかり。
「短い人生だったな……。いや短すぎるな」
この世界に来てから、体感3時間ほどしか経過していない。いくら美少女といっても薄命すぎる。このまま、ミヤカさんの腕のように、背骨ポッキリで逝かされてしまうのか…。
諦め顔で灰色文字まみれのリストを覗いていると、一つのアイテムが目に止まった。
「あっ、これマジモンのゴミだったヤツ。デカ過ぎてまともに使えたもんじゃ――――!」
頭に起死回生の策がよぎる。すぐさま実行に移すため、手を突っ込んだままのアイテムポーチを自分の体と機械兵の手の間に潜り込ませる。デカ過ぎる胸のおかげで、少し間が開いていたので、何とか入りきった。
そして頭に、あるゴミ防具の名前を浮かべる。
「どうせ失敗したら死ぬんだ。やるだけやってやる……。いくぞ!」
そしてアイテムポーチから、手を引き抜いた。
アイテムポーチから、勢いよく出たそれは、機械兵の手を無理やりこじ開け、指関節を破壊する。鋼鉄の指が、ガギギギと音を立てながら崩れ、地面に落ちていく。
拘束から逃れた俺はそのまま尻から落ちる。多少痛かったがすぐに体勢を立て直し、機械兵と対峙した。
「よっしゃうまくいった! どうだその盾! 持ちにくいだろ!」
機械兵の腕を破壊した防具、その名は『不死鳥のタワーシールド+10』。
『ピース・ゼロ』で最初に受けるクエストの報酬としてもらえる盾で、プレイヤーなら全員知ってる防具なのだが、問題はその性能。微妙なダメージカット率、重いことを表現したかったのか装備すると移動速度半減、そしてデカ過ぎるせいで前が見えなくなるオマケ付き。
最初手に入れたときは嬉しくてすぐに強化し、次のクエストに持ち込んだがクエスト終了後そっとアイテム倉庫にしまったのを思い出す。
要するに、
「ゴミだ!」
機械兵は、破壊された腕など関係ないかのように、すぐさまこちらに向かってきた。
俺は出入り口へと走り、アイテムポーチに、手を突っ込みながら逃げる。出入り口の壊されたドア潜り抜け、通路へと逃げながらもリストを確認し、文字が灰色以外になっている武器を必死に探す。
「何か……何か俺でも使えるもの…………あった! コレだ!」
一つだけ白い文字になっていたので、すぐさま、頭にその名前を浮かべながら引き抜く。
手に握られていたのは1冊の本、名前は『魔本+10』。ゲーム内で魔法を使うための初期武器。
『魔本』の『装備条件』は初期装備のため一切なし。だが、コレだけでは使えないので、続けて魔術を憶える為の呪文書を探す。
そんなことをしている間も、ずっと後ろから機械兵が付いて来ている。先ほどよりも速く動いているのか駆動音と足音が凄まじい。
やっとのことで呪文書を1つ見つけ、ゲームと同じように本に近付けてみる。シュウッという音と共に呪文書が消失する。ゲームと同じであればコレで魔法が使えるはず――。
コンッ。
ん?今何か蹴った?そう思い、周りを見ると、
ミヤカさんが通路に横たわっていた。蹴ったのは、さっき機械兵に投げつけた銃のようだ。
機械兵に追われた道をそのまま戻ってきたのか、いつのまにか、機械兵と最初に出会った通路に戻ってきていた。
「あっ、ここさっきの! ってヤッベッ――!」
後ろから機械兵が来ているのに気を失ったミヤカさんをそのままには出来ない。今の機械兵が、ミヤカさんを見逃すはずはない。多分、殺される。しかし、今の俺の小さい体では、ミヤカさんを運んで逃げるなど、到底無理だ。つまり、
ここで、機械兵を止めるしかない。
覚悟を決めて、『魔本+10』を片手で、前方に構え、先ほど覚えた魔法を思い出す。ぶっつけ本番で、ほんとに出るかわからないけど、今の俺にはこれしかない。出なかったら恨むぞ神様。
乱れる呼吸を必死に整え、ゲームの魔法を使う手順を、ひとつひとつ思い出しながら、前から迫ってくる機械兵を待つ。
落ち着け、俺の後ろには気を失っているミヤカさんがいる。この人を必ず助ける。この人を置いて逃げるなんて、
俺には出来ない。
「アイ……リ……ちゃん……?」
ミヤカさんが迫ってくる騒音で目を覚ました。しかし、俺には振り返っている余裕などない。ミヤカさんに背を向けたまま話す。
「ミヤカさん、ここから出られたら、外の世界のことを教えてください。俺……私、この世界の事もっと知りたいんです。だから……お願いします!」
「そんなこといくらでも教えてあげるわ! だから早く貴方だけでも逃げて! 私は大丈夫だから!」
ミヤカさんも前から迫ってくる機械兵に気付いたようだ。俺に逃げるよう言ってくるが、
「そんなこと出来ません。ミヤカさんが死ぬの……嫌ですから」
ゲームキャラと同じように本を開き、叫ぶ。
「テクニック・コード!」
本が輝きを放ち始め、目の前に魔法陣が展開される。目の前に3枚重なるように並び、回転を始める。
「アイリちゃん、貴方……。な、何を――」
機械兵はお構い無しにこちらに突き進み続け、あと20m程のところまで迫っていた。俺はそれを確認し終えると大きく息を吸い、覚えたての魔法の名前を叫びながら、回転する魔方陣に向かって、腕を眼前に交差させて突っ込む。
「――雷電鳥ォ!」
魔方陣を1枚通り過ぎると、俺の小さな体が青い雷を帯びる。
2枚目で雷が全身を覆い、
3枚目で加速し、雷が鳥を形作る。
雷の鳥となった俺はそのまま機械兵に向けて、全身に力を込めながら突っ込む。
「いぃぃっけぇぇぇぇぇえええええッッッッッ!」
機械兵の胴体に雷の鳥が突き刺さる。バリリリッ! と鋭い音が通路中に響き渡り、辺りが強い光に包まれた。
光が収まると、そこにあったのは、
機械兵が、胴体に大穴を開け、膝から落ちる姿と、
その向こう側で、着地に失敗して頭から落ちる俺だった。