機械兵
ライトで進行方向を照らしながらお姉さんは歩き、その後ろを俺が付いていく。時折、お姉さんはベルトに付いている機械を取り外し、画面を確認している。
先ほどから思っていたが、お姉さんの格好はどう見ても、剣と魔法の世界の住人ではない。とすると、俺が飛ばされたこの世界って、どのような世界なんだろうか。
神様は少し不思議な世界と言っていたが、具体的な説明がなかったので、少し不安になる。早くこんな暗いところ出て確認したいと考えていたら、お姉さんが急に話しかけてきた。
「そういえば、お互い名前も言ってなかったわね。私はミヤカ、
『ミヤカ・アルケイン』。貴方、名前は憶えてる?」
「え゛っそのー俺の名前は――」
「俺? 貴方、女の子でしょう? ダメよそんな言葉遣いしたら。私よ、ワ・タ・シ」
勘弁してくれ。中身は思春期男子ですよ。しかし、そんなことを言える筈もないので渋々言い直す。
「わ、私は……『アイリ』」
本名である瀬尾マサトを名乗る訳にもいかないので、とりあえず、この容姿のモデルとなったキャラクターの名前を名乗った。でも、名前だけ決めていたので苗字が答えられない。憶えてないフリでいいか。
「アイリ。素敵な名前ね。ファミリーネームは……憶えてない?」
「う、うん」
「そっかそっか。安心してね。私たちが責任持って家を探してあげるから」
「あ、ありがとう。ミヤカお姉ちゃん」
ごめんなさいミヤカお姉ちゃん、私の家別世界にあるの。なんて心の中でふざけ半分に思っていたら、ミヤカさんが壁の前で急に止まった。いきなりだったので、ミヤカさんの程よい弾力の尻にムギュっとぶつかる。
「ウソでしょ……。ちゃんとロケーター通りに進んでたのに、何この壁……」
「どうしたんですか?」
「来た道を戻ったはず、なんだけど……帰れなくなったみたいなの」
ライトで壁全体をくまなく照らすが、今までと変わりない金属質の壁がそこにあるだけだった。
ミヤカさんが耳に手を当てて仲間と連絡を取ろうとする。
「船長聞こえます? ……ダメだ、ひどいノイズ」
落ち着かないのか、右へ左へと行ったり来たりしている。しばらくするとミヤカさんは耳から手を離し、こう続けた。
「アイリちゃんよく聞いてね。私たち、閉じ込められたみたいなの。でも私の仲間がきっと気付いて探しに来てくれると思うから、出来る限りここから動かないようにして――」
そう言ったミヤカさんの後ろの暗闇から、
突然、機械の腕が飛び出し、ミヤカさんの左腕を強く掴んだ。
「なっ!? グッ!?」
「ミヤカさん!?」
「アイリちゃん! 来ちゃダメ!」
ミヤカさんはみるみる引きずられていき、その体は暗闇へと飲まれていく。カキンッという金属音と共に、闇の中から機械の腕の主がゆっくりと姿を現した。
関節が動くたびに金属が擦れあい、駆動音が通路に響き渡る。2.5mほどの巨体、全身がこの通路の壁と同じような材質の、人の形をした機械がそこにいた。
ミヤカさんはその機械の巨人に、左腕を掴まれたままぶら下げられている。
「『機械兵』!? 何でこんな辺境の遺跡に!?」
ミヤカさんは見覚えがあるのか、この機械の巨人の名前らしきものを叫んだ。
「な、なにこれ……」
あまりの巨体に呆気に取られてしまい、俺はその場にへたり込む。足に力が入らない。
ミヤカさんは右腕でホルスターから拳銃らしきものを抜き、機械兵の頭に向けて引き金を引く。
拳銃からは銃弾ではなく、光線が発射された。バシュウッと音を立てて機械兵の頭に直撃するが、少し焦げ跡が残っただけで効いている様には見えない。
「ダメか! だったら出力上げてもう一度ッ!」
ミヤカさんがもう一度拳銃を構えるより前に機械兵の腕からギュイィッという耳障りな音がしたかと思うと、パキンッという音がミヤカさんの左腕から響いた。
「ッ!? がああああああアアアッッ!」
折れたのだろうか。ミヤカさんはあまりの痛みに叫び、拳銃を落として気を失ってしまう。
機械兵は俺など見向きもせずに、ぐったりしたミヤカさんへ、残った腕を振りかぶろうとしていた。
このままじゃミヤカさんが死ぬ、殺されてしまう。
そう思った瞬間、体に力が入るようになり、俺は急いで立ち上がる。そして機械兵の足元へ走り、落ちた拳銃を拾って機械兵へ向けて引き金を引いた。しかし光線は出ない。
「えっ!? 何で出ないの!?」
よく見たら拳銃の横に付いたパネルに[Lock]と表示されていた。
もしかしてこの銃、持ち主以外は撃てない?
「クッソ! このポンコツ!」
機械兵に拳銃を投げつけたら頭にカコンッと当たった。その瞬間、機械兵はすごい勢いでこちらに頭を向けて、ミヤカさんを手放す。
あ、ミヤカさん助かったみたいだけどこれ多分マズイ。嫌な予感がして数歩後ずさった後、全速力で走り出す。
俺の予感は見事的中し、機械兵は俺を捕まえようと全身から嫌な音を立てて追いかけてきた。