私が村長です
風呂からあがった俺達は先ほどのお姉さんに連れられて、村長の家へと向かうことになった。お姉さんは先ほどまで粘液まみれだった俺を気にしているのかチラチラとこちらを見てくる。よく洗ったから臭いとかは大丈夫だよな……?
イルフの村はログハウスとも言うべき木の家が多く、まさしくファンタジーゲームの村といった趣だ。すれ違う人達も皆笑顔で挨拶を交わしてくれてとても居心地がいい。
あっそういえばこのお姉さんもイルフなんだよな。魔法って使えるのかな?
「ねえお姉さん」
「ヒッ、な、なにかなー?」
心が死にそう。
「お姉さんは魔法って使えるの?」
「魔法? 簡単なのだったら使えるわ。例えばホラ」
そう言ってお姉さんは地面の石を拾うと上へ放り投げる。すると石は落ちることなく空中で静止した。お姉さんが人差し指を振ると、それに合わせて空中の石が右へ、左へと移動する。
「「「「「おぉー」」」」」
思わず全員でその光景に感嘆の声を上げる。でもこれって超能力とかそっちの類では? まぁ魔法と超能力の境界線ってかなり曖昧だと思うけど。
「じゃあアイリちゃんみたいに雷の鳥になったりとか、周囲が凍りつくほどの冷気を出したりとか、怪我を一瞬で治したりとかできる人はいるッスか?」
「な、なんですかそれは……!? それはもう奇跡とかそういう類では……?」
まぁ確かに神から授かった奇跡の力ではあるけれども。
「村長ならもしかしたら知ってるかもしれません。そろそろ着きますよ。」
お姉さんの後を付いていき、村の奥へと進んで行くとひときわ大きな家が見えてきた。大木に持ち上げられたかのように作られたツリーハウスで、上へと上るための階段が木を取り囲むように設置されていた。
「村長ー! 依頼を受けてくれた方達が来ましたよー!」
「はーい、今行きますよー」
お姉さんが叫ぶと思ったよりも若い声で返事が戻ってくる。しばらくすると一人の男が階段で降りてきた。
「やぁ皆さんはじめまして。私はこの村の村長をやっている、シルジオと申します」
白い髪に長い耳、眼は細目で眼鏡をかけている。だが、それよりも気になることがあった。一般的な村長のイメージとは違い、あまりにも若すぎる。見た目の年齢は20代半ばといった感じだった。
「ひさしぶりっす、シルジオ村長。相変わらず若いっすね」
「ん? もしかしてノーワン君かい!? ひさしぶりだねえ、もう10年位前かな?」
「船長、この人と知り合いなんスか?」
「あぁ、親父とこの村に来たことがあってな。そん時いろいろ世話になった人だ」
「まぁ立ち話もなんだし、中に入ろうか。そっちのお嬢さんもいろいろ聞きたい事だらけだろうしね」
シルジオさんの細目が少しだけ開かれ、俺を見つめてくる。あれ? 船長、シルジオさんに俺のこと話したのかな?
シルジオさんに家の中へと案内される。部屋の壁には本棚が隙間なく置かれておりその中は大量の本で埋め尽くされていた。床にはクッションが人数分置かれており、その上に全員、腰を下ろす。
「さて、まずは君達への依頼の話だ。最近、ウチの森の近くで動物達の死骸がよく見つかる。その原因を調べてほしい」
「殺されてるだけか? それとも喰われてる?」
「両方だね。最低限喰った後、遊んでる」
「となると野生動物の仕業じゃねえな。どっかのバカが捨てていった愛玩動物か。歯形とか――」
二人はその後も真剣な面持ちで話し合いを続ける。しばらく話し合った後、結論が出たのか船長は立ち上がって皆に指示を出し始めた。
「ニーナ、グラッツ、二人で持ってきた罠用意しとけ。設置位置はあとで俺から指示出す」
「はいッス」
「合点で」
「ミヤカ、俺と一緒に村で聞き込みすんぞ。出来れば一番新しい死骸の位置を知りたい」
「わかったわ」
「よし、行くぞ」
うぉぉ……あの船長が船長っぽいことしてる……。ってあれ?
「あのー船長、私は何をすれば?」
そういや俺、やること指示されてなくない?
「何言ってんだ、嬢ちゃんは親探しに来たんだろうが。コレは俺らの仕事であって嬢ちゃんは無関係だからな」
あっ、そういやそうか。イルフの村に来た理由すっかり忘れてた。
「じゃあ親探しは私が手伝おう。それでいいねアイリ君?」
シルジオさんが俺の頭に手を置きながら答える。ん? なんか今、違和感が――、
「んじゃ嬢ちゃん頼みますわシルジオ村長」
「ハイハイ任せて、行ってらっしゃーい。――――さて」
船長達が外へ出て行ったのを見送ると、シルジオさんは俺の前へとしゃがみこむ。
「君、何処から来たんだい」
「すみません、ちょっと憶えてなくて――」
「神様に会ったことは?」
――え? 何この人怪しい宗教でもやってんのかな。まぁ実際会ったことあるけど言っても信じられないだろエ○ィー○ーフィー似の神なんて。
「い、いや神様に会ったことなんてありませんよ。アハハ」
「嘘はいけないね。そんなに力をダダ漏れさせといて言い逃れは厳しいんじゃないかな」
何だこの人、力ダダ漏れってどういうことだ。何が見えてるんだ。
「じゃあ聞き方を変えよう。瀬尾マサト君、なんで彼らに嘘ついたんだい?」
「――――ッ!?」
なんでこの人――、俺の前世の名前知ってるんだよ!?
危険を感じて、半歩後ずさりすぐさま魔本を取り出してシルジオに向ける。
「な、何者なんですか!? まさかアンタが神核を持ち去ったっていう――」
「ん? あっ、ごめんね! そういや僕のこと話してなかったねほんとごめん!」
「はい?」
「いやーごめんね。長生きしてるとつい自分の事後回しにしちゃってさ」
ん? この人敵――じゃないのか?
「んじゃ改めて自己紹介だ。僕の名前はシルジオ――」
シルジオさんは眼鏡のズレを直しながら、淡々と答えた。
「――君と同じ転生者さ」




