惑星イルフィリア
「やぁミスセオ! 調子はどうだイ?」
「あっエイディ様。その呼び方、なんか混乱しそうなのでアイリって呼んでもらっていいですか?」
「オォ、これはすまなイ。君はもう新たな人生をスタートしているというの二。では、アイリ、調子はどうだい?」
「ぼちぼちです」
誘拐事件から4日、イルフィリアへのシフト・ドライブ・ジャンプ中にベッドへ入った俺は、また真っ白な神様空間に呼び出された。ただ、この前と違って神様はとてもくつろいでいる様子だった。
「えーっと何故コタツ?」
「いやー天界は今冬だからネ! 寒くってしょうがないヨ。よければ入ル?」
神様はコタツに足を突っ込んで、ミカンをパクついていた。ってか天国にも季節あるのかよ。
「で、ではお邪魔しまーす。あっ俺もミカンもらっても?」
「ドウゾー」
「んで今回俺を呼び出した理由ってのは?」
「ちょっと君の記憶を見てあの世界の状況を知りたくてネ。記憶見るけど大丈夫?」
「どうぞー」
神様は俺の頭に指を向けて静かにうつむく。待ってる間、暇なので俺もミカンをパクつく。しばらくすると神様は顔を上げてちょっと引いたような表情で喋りだした。
「ウォー……、世界に生まれて一週間で事件に巻き込まれすぎじゃなイ?」
アンタが送り込んだんだろうが。
「まぁこうして何とか生きてますよ……。神様がくれたアイテムのおかげで。そういえばなんであのアイテムポーチを加護としてくれたんです?」
「生前や生まれ変わった姿に関係のあるものを加護として渡さなきゃいけない決まり事でネ。そのー……、失礼だけど君生前だとほとんど何もなかったじゃなイ?」
ひどい! あれでも精一杯生きていたのに!
神から生前をディスられたせいで、若干目から汗が出そうになったがぐっと堪えた。大人だからな! このくらいじゃくじけないのだよ!
「それで生まれ変わる姿に関係があるその倉庫内アイテムを渡したって訳サ」
「なるほどー、でも装備条件まで再現するのは……」
武器に設定された装備条件のせいで、いまだアイテム欄の文字には灰色で表記されている物が多い。ゼイクスのときはそれのおかげで助かったけど、やっぱり武器は使えるに越したことはない。
「ゴメンネ。それなんだけど付けないと認可下りなくて……」
加護にも認可がいるとか、お役所仕事が過ぎるぞ天国。
「あとさっきから気になってるんですけど、なんでホルム様、爆睡してるんですか?」
実はさっきからコタツに半分ほど体を入れながら爆睡している女神がいた。手にはド○え○んと書かれた漫画本を持ち、口からは輝くよだれが垂れており女神の威厳台無しである。
「ある案件を通すために上を説得しにいったんだけどかなり長引いてネ……。ウチの漫画読ませてあげる約束してたんだけどそのまま寝ちゃっタ」
「なんていうか天国も大変ですね……」
働くって、大変だな……。というかホルム様が○ラ○もん知ってたのそういうことかよ。
寝ている女神様を見てはいけないと思っても見てしまう。お許しくださいホルム様。
「寝顔可愛いですねこの人」
「ハハハ! 愛の女神が可愛いって言われるとは!」
「あ、ホルム様って愛の女神なんですね。エイディ様は何の神なんです?」
「うン? 私は娯楽の神サ! と言っても二人とも肩書きだけでそれらしいこと何もしてないけどネ」
オイ神の称号システム機能してないじゃねえか。
「サテ、そろそろ君が起きる時間ダ。またネ、アイリ」
「はぁい、またいつか。エイディ様」
視界が霞みがかっていき、神様の声が遠ざかっていくと俺は再び眠りへと落ちていった。
アイリが帰ったあと、ホルムは静かに起き上がり、手に持っていた漫画本をコタツの上に置いた。
「瀬尾マサトが来ていたのですね」
「アァ、彼の記憶を見させてもらったガ……」
口を開いたエイディはとても深刻そうな顔をしていた。
「何かありましたか?」
「『あの男』がいた」
「なんですって!? それでヤツは!?」
「以前会ったとき、あちらからしたら300年前か。容姿が変わっていない」
「ということは、やはり『神核』を使って加護を……」
「制限を取り外したんだろうネ。全く忌々しい」
二人の間に沈黙が流れる。
「ところで」
「ン?」
「瀬尾マサトが来ているのに、何故起こしてくれなかったんですか?」
「え゛っ、あっそういえば瀬尾マサトが呼び方を変えてくれって――」
「何故起こしてくれなかったんですか?」
ホルムは笑顔で聞いてくるが、その顔に優しさは感じられない。エイディは苦笑いを浮かべながら、サングラスを外した。深く息を吸って静かに吐き出し覚悟を決める。
「……寝顔可愛いって言ッ――」
その言葉が最後まで紡がれることはなく、机に置かれていたミカンは鮮血に染まった。
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夢から覚めた俺は、支度をしてブリッジへと向かった。予定通り船が進んでいれば確か今日が――、
「おーっす嬢ちゃん、もう着いてるぜ」
「おはようございます船長。……わぁ……、これが――惑星イルフィリア……」
ブリッジの窓の外に広がる。一面緑の惑星。見渡す限りの森が広がり、鳥達が一斉に飛び立つ。ここがイルフの民がいるっていう惑星かぁ……。
船はどんどん高度を下げて、少し広めの平原へと降り立つ。その光景に少しばかり疑問を感じた。
「あれ? 宇宙ステーションじゃなくてそのまま着陸するんですね」
「建設予定はあったんだが、イルフ達からの反対運動があってな……。森の景観を損ねるだとか、機械なんぞ信じられないとかいろいろ苦情があって白紙になった」
世知辛いのじゃ……。まぁ魔法が使える種族だっていう話だし、科学を信用できないってのはなんとなくわかるかも。
「っつー訳でこの惑星、ほとんど道路工事とか出来てないッス。全区域、森とか崖とか素材そのままッス」
横で話を聞いていたニーナさんが、席から身を乗り出して話に加わってきた。その口から出された情報を聞いて若干嫌な予感がしてきた。
「えーっとつまり――」
「イルフの集落までは徒歩で向かうことになる」
船長の一言に乗組員全員が肩を落として、ため息をついた。




