二人の船長
「さてガキンチョ二人組、何故呼び出されたのかわかるかなー?」
誘拐事件がひと段落して、宇宙船アストラに戻ってきた俺とニーナさんは二人して正座をさせられていた。船長からいきなりあとでプラモ部屋来いって言われたから覚悟はしてたけど……。
「こ、これからここで無事生還記念パーティーをするためッスよね。せ・ん・ちょ・ぉ♡」
「はいニーナ正座30分追加」
「ぐっ……」
「ゆ、誘拐犯逮捕記念パーティーをするためですよね。せ・ん・ちょ・ぉ♡」
「はい嬢ちゃん正座30分追加」
「ぐっ……」
船長はしばらく正座している俺達二人を眺めてから、呆れた様子で話し出した。
「まずはニーナからだ。自分が狙われていることをわかった上でなんで一人で突っ走った?」
「アイリちゃんが心配だったッスし……それに――」
「自分のせいだと思ったからか?」
「うぐ……。……はいッス……」
ニーナさんはバツが悪そうな顔をして、船長から目を背ける。その様子を見て船長は大きくため息をついた。
「あのなニーナ、勘違いはするなよ。悪いのはあくまでもお前を狙った犯人達であってお前は何も悪くない。だから責任なんて感じる必要は一切ない」
「はいッス……」
「だが、そのあと一人で廃棄区画に向かったのはダメだ。自分が狙われているってわかってたなら俺達か警察に任せるべきだ」
「ごめんなさいッス……」
ニーナさんの反省の言葉を聞いて、船長は俺へと視線を向ける。
「そして嬢ちゃん、オメーは更にダメだ」
「えっ」
船長の顔つきがニーナさんを叱ったときよりも一層険しくなる。その目にはいつものふざけた様子は一切なかった。
「嬢ちゃん、犯人を煽っただろ」
「なんでそれを――」
「警察の関係者が知り合いにいてな。ソイツから現場の状況聞いたからなんとなくわかる。普通に考えれば、せっかくニーナを捕まえた犯人がそれを手放して嬢ちゃんに襲い掛かる意味がわからねえからな」
船長結構鋭いな……。のぞき趣味の変態のくせに。
「ニーナを助けたくてやったんだろうが、ヘタすりゃ殺されてたかもしれない。自分から殺されにいくなんて正気じゃないぞ。ちゃんと反省しろ」
「は、はい……すみませんでした……」
確かに船長の言うとおりだ。ゼイクスが装備条件を満たしていて、そのまま俺の首に短剣が振り下ろされていれば、間違いなく死んでいただろう。冷静になって命のやり取りをしていたのだと思うと、自分がしたことにゾッとする。
「だがまぁ、二人して無事帰ってきたんだし、今回は大目に見てやる。……よく帰ってきたなガキンチョ共」
そう言って船長はニッと笑うと、俺とニーナさんの頭をグシャグシャと撫ではじめた。なんか、前世の父さんを思い出すな……。
「よし、もう正座はいいぞ。メシだメシ」
「「はーい」」
正座によって痺れた足をパンパン叩きながら、俺とニーナさんは食堂へと歩き出した。
――廃棄区画、大規模病院跡地。かつては多くの命を救う医師達が集う場だったが、今では多くの命を奪うゴロツキ共のたまり場となっている。ホームレス、犯罪者、チンピラ、精神異常者、世界に受け入れられなかった者たちの逃げ場所となったこの建物へと歩みを進める黒い影があった。黒いコートを着た髭を貯えた男である。
「あら、おかえりなさい船長」
その黒い男へと声をかける者が一人。紫のドレスに身を包み、その服と同じ髪色のショートボブの女性。病院の入り口横の壁へともたれかかりながら煙草を吸っている。
「ミドナ、俺がいなかった間何かあったか?」
「わかります? ヤらせろって何人か寄ってきちゃって。怖かったわぁ」
「よく言う。そこに死体の山がなければ信じてやったがな」
ミドナの隣には数人の男達が倒れており、その下にはおびただしい血が撒き散らされていた。男達は動く気配がなく、すでに事切れていることが見てわかる。
「貴方こそ血の匂いがしますよ船長。すっごい興奮する良い匂い」
「ここに来る途中で何発か撃たれてしまってな」
「あら、じゃあ何回か死んだ?」
「いや、死んではいない。死ぬ前によく効く薬をくれたヤツがいてな」
「ふぅん……」
ミドナは黒い男へと近寄り、抱きついて匂いを嗅ぐ。数回ほど体を震わせ、頬を赤くしながら吐息を漏らすと、男から離れて妖しく笑う。
「男……、いや違う。微かに女の子の匂いが混じってる。この街のことだから暴漢に襲われた女の子を助けたらお薬もらったってところかしら?」
「相変わらずだな。……美しい宝石のような娘だった、まるで人の手で意図的に作り出された人形のように。おそらく、あと10年もすればこの世に並ぶ女はいなくなる」
「あら素敵ね。私も見てみたいものだわ」
「つまみ食いはするなよ。アレは俺の物だ」
黒い男はその顔を大きく歪ませて笑う。
「貴方からしたら10年待つのなんかあっという間でしょうね。私なんかその頃にはおばちゃんよ?」
「安心しろ、この世にあるもの全ては俺の物。俺が奪うためにあり、俺が愛でる為にある。お前ももちろん俺の物だ。これまでも、これからも」
黒い男がミドナの腰に手を回して引き寄せ、顔を近づける。ミドナはそれに応えるように男の首へと腕を回すと、優しくその唇を受け入れた。
「でも愛する場所くらいは考えてくださいね……。続きは船のベッドでゆっくりと……」
「フン……、では戻るとしようか。俺達の船へ」
「えぇ、了解しました――」
男は軽く鼻で笑うと、ミドナを寄り添わせ歩き出す。
「――黒髭船長」




