子供から目を離してはいけません
軌道エレベーターで地上に降りたあと、船長とミヤカさんは依頼人との話し合いで別行動となった。グラッツさんは船でお留守番。ニーナさんと俺は船の食料と、俺が着るための服を買いにショッピングモールへと来ていた。
地上に降りて驚いたのは、すれ違う人達の容姿である。前世では絶対に見ることはないであろう異星人達が何食わぬ顔で通り過ぎていく。車道を走る車などもあるが数は少なく、車からタイヤを外したような乗り物が高層ビルの間を飛んでいく。
「んじゃアイリちゃん、服買いに行くッスよ。ずっとそのスーツなのはお姉さんが許さないッス!」
「よ、よろしくお願いします」
今、俺が着ている着ている超伸縮素材スーツは、青い全身タイツに白のラインとかなりダサい。ニーナさんいわく、「可愛い子がそんな地味な格好許せないッス」とのことだ。
そんなわけでショッピングモールの服屋へとやってきたのだが――、
「キャァア! やっぱり思ってた通りッスー! 可愛いッスよアイリちゃん!」
「左様で……」
ニーナさんの着せ替え人形となっている俺がいた。今着ている服はフリルが大量についているゴスロリ服。ご丁寧にクマのぬいぐるみまで持たせられた。何でこんな服が置いてあるんだよ。
そういや今俺が着けているアイテムポーチの中にもクマっぽいぬいぐるみあったな……。アレはちょっと今取り出す訳にはいかないが。
「あの、やっぱり自分で選びますんで」
「えー、いいじゃないッスか。それにアイリちゃんが最初着てた服もこんなのだったし」
「あの服のことはいったん忘れてほしいというか……」
実はあのメイド服以外の服もアイテムポーチの中に入っている。ただ見た目に問題があり、ゲーム世界の服なのでとにかく変な装飾が付いているのだ。用途不明のトゲが肩にいくつも付いていたり、やたら穴が開いたスカート、鎧のようなコートなど、どう見てもコスプレにしか見えない代物ばかりである。
「むぅ、じゃあどんな服がいいッスか?」
「動きやすくて、できればスカートじゃない方が……」
最終的に黒のTシャツ、デニムのショートパンツ、青色の半袖ショートジャケットに運動靴という姿になった。
「なんか、服の趣味男の子っぽいッスねアイリちゃん。かわいいッスけど」
自分、中身は男ですから。着てきたスーツはもらった紙袋の中にしまっておこう。
「お金はいつか返します。いつになるか、わかりませんけど」
「いいッスよ、そんな高い買い物じゃないし」
と言われても、返さないとこっちが申し訳なくなるので忘れないようにしておく。
そのあとは船内で使う食材や、日用品などを買って船へと戻ることにした。
「皆、お金払うときは手持ちの端末なんですね」
周りの買い物する人たちを見てもレジで財布を開く人がいないことに気が付いた。全員手元の端末をかざすだけでレジを通り過ぎていく。
「そうッスよー。ほぼ全員、電子マネーッス。現金で持ち歩いてる人はほとんどいないんじゃないッスかね?」
「ちなみに単位は?」
「『キャッツ』ッス。かなり前に異星人達と通貨単位合わせようって動きがあって、今じゃ全宇宙共通ッスよ」
キャッツって、猫かよ。誘拐されたりしたら身代猫よこせとか言われんのかな? そんなことを考えながらニーナさんと帰路についていたが、突然ニーナさんの動きが止まる。
「アイリちゃん、ちょーっと待っててもらっていいッスかね?」
「どうしたんです?」
ニーナさんはニヤニヤしながら、歩いていた道にある店を指差す。看板には大きくジャンクパーツショップと書かれていた。そういやニーナさんの趣味は機械弄りだったか。
「少しだけ、少しだけッス。先っちょだけだから……」
「しょうがないにゃあ……」
といっても俺には機械のことなんか全くわからないので、荷物を持って店の前で待つことにした。中の様子が少しだけ見えるが、ニーナさんが子供のようにはしゃいでいるのがわかる。
「ほんとに好きなんだなぁ。俺にとってのゲームみたいなもんかな」
――――長い。ニーナさんが店に入ってから約30分が経過しようとしていた。全然少しだけじゃねえ。しかし邪魔する訳にもいかない。俺も経験あるが趣味の時間を邪魔されるというのは不快なものだ。ゲームに熱中しているときに爺ちゃんが部屋に入ってくるのを何度も経験している俺にはよくわかる。
仕方ないので店の横の路地にあったゴミ箱に腰掛けて一息つく。
「長いなぁ。女の買い物は長いって言うけどこういうことなのかなぁ」
前世では女の子と買い物にいくなんて全くなかったのでこれが普通なのか判断しかねる。カズミの買い物とかに付き合ってたら
「お嬢ちゃんちょっといいかい?」
突然、路地の奥から声がしたので振り返る。そこに立っていたのは、とてもみすぼらしい男だった。片手にメモを持っており、それを確認しながら俺に質問を投げかけてきた。
「お嬢ちゃん、船に乗ってきた? 名前はアストラ?」
「えっ、あーはい。そうですけど」
「10番ハンガー?」
「確か、そうだったかと」
誰だこの人。ノーワンさん達の知り合いかな? 店の中にいるニーナさんに確認しようとゴミ箱を降りた瞬間、
「ビンゴォ」
突然その男が掴みかかってきた。金属製の首輪をかけられ、ピピッという音がその首輪から発せられた。
(ちょ!? 何すんだこの――声が出ない!?)
「おーっと、おとなしくしてくれよ。と言ってもその首輪のせいで声は出せねえか。ブハハ!」
(――がぁっ!?)
男は笑いながら俺を片手で路地の奥へ放り投げ、すかさずポケットから取り出したスタンガンを押し当ててくる。その瞬間、鋭い痛みが全身を走り抜ける。意識はあるが体が痛みで痺れて動けない。
(ぐっ、ぎっ……ニーナさ――)
「じゃあ、おじさんと一緒に廃棄区画まで来てもらおうか。安心してくれ。そこでパパに向かって助けてーって言ってもらうだけだからよ。ヘヘッ」
(パパ? コイツ、何を言って――)
男は俺を担いだまま、暗い路地の奥へと消えていくのだった。
『――っつー訳だから、気を付けて船に戻れ。寄り道すんなよ』
「あーはいはい、わかったッスよ。すぐ帰るッスよ――あれ?」
ニーナはノーワンから電話を受け、店から渋々出てきた。趣味の時間を邪魔されたからか、頬を膨らまして不満そうな顔をしている。
だが店から出て異変に気付く。先ほどまで店の前にいたはずのアイリがいない。
「船長、そっちにアイリちゃんいるッスか?」
『アイリが俺らのトコ来れる訳ねえだろう。場所言ってねえんだし』
「アイリちゃんがいないッス!」
『ッ!? よく探せ!』
ニーナは店の周辺をくまなく探す。しかし、アイリの姿はどこにも見当たらない。
「アイリちゃん! アイリちゃぁん!」
そのとき、店の横の路地に紙袋が落ちていることに気が付く。中身を確認すると先ほど自分達が買った食材、日用品、アイリが先ほどまで着ていた超伸縮素材スーツが入っていた。そして、横に落ちている紙切れが目に留まる。
そのメモは殴り書きで10番ハンガー、アストラ、最年少、機械好き、
そして最後に、ニーナ・ハルベルトと書かれていた。
「船長、まずいッス」
『何だ!? 嬢ちゃんいたか!?』
「私と勘違いされたかもッス……」




