遺跡調査報告
惑星アルスア連邦直轄地シーダ。中心に軌道エレベーター用の巨大な発着場があり、それを囲むように高層ビルが立ち並ぶ。町を歩く影は人間だけではなく、翼の生えた者や獣のような容姿を持つ者、虫にも似た骨格を持つ者などさまざまだ。
ノーワンとミヤカは遺跡調査の報告のため、依頼人との待ち合わせ場所である酒場に来ていた。まだ昼時なので客は少ない。
「おう、ホッドのオヤジ。調査報告と行こうか」
ノーワンとミヤカは店の奥のテーブル席に座り、目の前の帽子をかぶった中年の男に話しかける。この男、ホッドはとあるコネで知り合った連邦政府の役人で、お忍びでよくノーワン達に宝探しをさせては持ち帰ったものを買い取ってくれたり、仕事の依頼などを探してくれる。
「ご苦労だったな。んで、何が見つかった? 古代人の技術で作られたものなら喜んで金を出せるんだが――」
「その前にこいつ見てもらえるか?」
ミヤカは首に下げていたペンダントを外すと宝石の横についているスイッチの一つを押す。ペンダントから空中に立体映像が投射され、遺跡に入る瞬間から映像が始まる。
「記憶結晶か。これもあちこちの遺跡で出てくるから価値が下がってきたな。身に着けてる本人の周りを立体映像で保存できるのはいまだ解明出来てないが――ん? 見てもらいてえってのはこの女の子か?」
「あー、それもあるんだが……。ミヤカ、早送り早送り」
「はいはい」
ミヤカは先ほど押したスイッチとは別のスイッチを押す。映像が早回しになり、ミヤカとメイド服の女の子が遺跡内をただ歩く映像が流れ続ける。
「おいおい、俺はピクニックして来いなんて言ってな――」
男の言葉は映像に出てきた巨大な影でピタッと止まる。
「な、……オイオイこりゃ何の冗談だ。なんで機械兵なんかが出てくる?」
「こっちが聞きてえよ。機械兵ってのはお偉いさん方のボディガードじゃねえのか」
「そりゃそうだが……ん? この機械兵、見ない型だな」
ホッドはそう言うと端末を取り出し、真剣な表情で画面と向き合う。見ているのは機械兵の最新カタログ。本来の機械兵とは要人警護、身辺警護用の護衛ロボットであり、遺跡で見かけるものではない。
「……該当なし。未知のモデルだな。海賊品かもしれんが」
「海賊品にしてはよく出来過ぎてる。いくら出力抑えたブラスターとはいえ焦げ跡付くだけってどんな素材だって話だ」
本来、ミヤカの撃った光線銃は出力最大ならば厚さ4cmほどの鉄板をいとも容易く貫通するはずなのだ。出力を抑えたとはいえ、それなりのダメージがあってしかるべきものである。
「んで、コイツどうした? ミヤカのネエちゃんも腕の骨折られたのにピンピンしてるじゃねえか――」
ホッドの言葉がまた止まる。映像は女の子がミヤカの前に立ち、本を広げている場面である。
女の子が雷の鳥となって機械兵に突っ込み、胴体を貫いている映像にホッドは軽くめまいがする。
「オイオイふざけるのも大概にしろ。お前ら辺境の遺跡まで行って魔法少女映画撮りに行ったのか?」
あまりに突拍子も無い映像を見せられホッドは呆れていたが、その実、この映像が本物だということもわかっていた。
「ホッド、記憶結晶の映像は改ざん不可だってこと、忘れてないよな」
「マジかよクソ……んでなんだ? 折られた腕も魔法で治したと?」
「映像ありますよ」
「いや、結構だ。しかしこれじゃ……今回の収穫はなさそうだな」
「ごめんなさい。私が負傷したから、ろくに調査が出来なくて……。一応あの機械兵の残骸を一部持ち帰ってきたのでこれだけでも」
ミヤカはそう言うと持って来た鞄の中から小さな破片を取り出す。アイリが機械兵を貫いたときに近くに落ちたものを拾っていた金属片だ。それを差し出し頭を下げるが、ホッドも撤退理由には納得がいっているのですぐに頭を上げるよう促す。
「頭下げることはねえさ。ヘタすりゃネエちゃんが死んでたかもしれねえしな。この残骸は受け取っておく。調べたら何かわかるかもしれん。少ないがこれだけもらってくれ」
ホッドは残骸をミヤカから受け取り、代わりに封筒を渡してくる。少しばかり膨らんでいるのでノーワンとミヤカはそれが今回の報酬だと察した。
「また現生かよ! 電子マネーで用意しろって言ってんだろ!」
「うるせぇ! 電子マネーは安心出来ねえんだよ!」
ノーワンは出された封筒を渋々受け取る。中身を確認すると思っていたよりも入っていたので少し疑問に思った。
「ん? 残骸だけにしては結構入ってるじゃねえか」
「あとで必要になるだろうからな。そういや、この映像の子は今どこに?」
「今ウチの乗組員と買い物行ってるぜ。容姿から見てイルフだと思うからこのあとイルフィリアへ送り届けるつもりだ。そこでアンタに頼みがあるんだがイルフィリアでやれる仕事ってなんかないか?」
「どうだろうなぁ。一応探してやるが期待はするなよ」
ホッドはそう言うとミヤカから受け取った機械兵の残骸をケースにしまい、席を立ち上がる。
「あぁそうそう、一応耳に入れておいてほしいんだが。廃棄区画の連中が最近厄介なことになってな」
「廃棄区画ってーと、異星人受け入れ反対派か。なんかあったのか?」
異星人の存在が確認されたときアルスア人は二つに分かれた。異星人を惑星アルスアに受け入れるか否かである。異星人の危険性がほぼないことがわかった今ではほとんどが受け入れ派になっているが、まだ疑いの目を向けている者たちがいる。そんな者達のたまり場となっているのが廃棄区画と呼ばれるスラムだ。
「奴等の活動資金を提供していた者が何者かに殺されたそうでな。資金源を失った今、奴等は金を手に入れるために何をしでかすかわからん。お前のとこのメカニックにも気を付けるよう言っておけ」
「へいへい、お嬢様に忠告しておくよ」
「すぐに連絡入れておきます」
ホッドが店を出たのを確認すると、ノーワンとミヤカも席を立ち上がる。そのまま店から出ようとすると、店員に呼び止められた。
「あのーすみません、御代を払っていただいても?」
「「は?」」
渡された伝票に、二人には覚えのない酒の名前が記入されていた。
「先ほどのお客様が後から来るやつが払うから、と」
「……必要になるってそういう意味かよクソオヤジィィィ!」
「通りで気前いいと思ったわ……」
結局、二人が受け取った報酬の約半分が店の支払いによって消えた。




