母なる大地
『おかーさんなにしてんのー?』
『んー? 写真、アルバムに入れておこうと思ってね』
『あるばむ?』
懐かしい記憶、母さんがまだ生きていた頃の思い出。
『そう、アルバム。こうやってしまっておけば、いつだってマサトとの思い出を見れるからね』
『ふーん……』
まだ小学校に通う前、ヨシフミとカズミに出会う前。
俺は母さんにべったりだった。母さんは病気がちで床に伏すことも多かったが、俺が話しかけるといつも笑顔で返してくれた。
『ねえおかーさん。おとーさんから聞いたんだけど』
『なぁに?』
そんな母さんも俺が小学校に上がってすぐ、帰らぬ人となってしまった。母さんの葬儀では訳もわからずに泣いてしまい父さんを困らせたものだ。
『おかーさん、お空から来たってほんと?』
『……それはね――』
懐かしい思い出から目覚め、ベッドから体を起こす。泣いてしまったのか、目から少し涙がこぼれていたのでそれを小さな手でゴシゴシと拭き取る。
「……母さん、か」
「私がママになってあげるッスよ……」
「んぇ?」
よく見ると俺が寝ていたベッドにニーナさんまで一緒に寝ていた。
「何してんですか!?」
「いやー、起こしに来たら寝言でおかーさんとか言ってたからつい」
クッソ! 滅茶苦茶恥ずかしい! 普通に起こしてくれよ!
「あーでも私の年齢的にママじゃなくてお姉ちゃんッスかね? 私、妹欲しかったんスよねー」
「い、いいですから! 母性に飢えてるわけじゃないです!」
ニーナさんはそんな俺の様子を見てうんうんと頷いた。
「……元気出たみたいッスね。んじゃ準備してブリッジに行くッスよ。そろそろ到着ッス」
もしかして、俺が泣いていたから心配してくれたのだろうか。つかみどころがないけれど優しい人なんだなニーナさん。
ニーナさんに連れられてブリッジまでやってきた。皆、すでに座席についており俺も急いで助手席へと座り、皆に挨拶を交わす。
「よぉ、嬢ちゃんおはよう。よく眠れたか?」
「はい。船長、顔の調子はどうです?」
「嬢ちゃんの魔法のおかげでこの通りよ。またのぞきに行ってミヤカに見つかったときはたの――」
「殺すわよ」
視線が冷た過ぎますミヤカさん。船長もせっかく治したんで迂闊な行動取らないでください。
「そろそろですぜ」
『ジャンプアウトまで、5、4、3、2、1、……ジャンプアウト』
マークの秒読みの後、窓の外に見えていた薄い光の膜が船の前方から一気に割れる。突然、辺りが暗くなったと思うとその暗闇を押しのけるように青い惑星が姿を現す。
「さぁ着いたぜ嬢ちゃん。我らが故郷、惑星アルスアだ」
その惑星は、とても地球に似ていた。教科書で見たことがある地球の姿とほぼ同じだった。ここからの景色で違いがあるとすれば、とても大きな筒のようなものが惑星から伸びた線に繋がっているところだろうか。
「あの筒はなんですか?」
「アレは宇宙船の発着場ッス。昔は地上にそのまま降りたり、地上から発進とかしてたんスけど、結構燃料食うから、それだったらもう宇宙に泊めとけばいいじゃんってなったんスよ」
「他にも環境配慮とかいろいろ理由あるけど、まぁ大体それよね」
「この船もあそこに着陸させるからな」
「……あれ外れたりとか――」
「大丈夫よ。軌道エレベーターでガッチリ繋がってるから」
とてつもなく壮大な話に、頭がフリーズしそうになる。軌道エレベーターの研究は前世でも聞いたことがあったが、それが実用化されその先に宇宙船の発着場が付いているとは。
窓の外に見える発着場がだんだん近くなってくる。そのとき突然、正面の窓に四角い枠が映し出された。
「ようこそ、惑星アルスア、宇宙ステーション光へ。シップコードの提示をお願いします」
そこに映っていたのは、長い頭、剥き出しの歯、目があるべき場所にない。昔、映画でみたエイリアンそのものだった。
「あぁはいはい、シップコードは――」
「ギャァア! エイリアァァン!?」
「ちょっ、アイリちゃんそれ差別用語ッスよ。ちゃんと異星人って言わないと」
「いやいやいや! なんで皆落ち着いてるんですか!?」
「おやおや、これは怖がらせてしまったようで」
「すまんね、この子異星人見るの初めてみてーでよ」
「ははっ、でしたらしょうがないですね。怖がらせてしまって申し訳ございませんお嬢さん。私このステーションに勤めさせていただいている者です。こわくないですよー」
そう言うと、細長く筋張った両手をこちらに向けて振ってくる。いや怖いよ、笑顔なんだろうけど。
しかし、外見を除けば紳士そのものなのでちゃんと手を振って返す。若干笑顔引きつったけど。
「あぁそうだ、シップコードでしたね。……はい、確認できました。それでは10番のハンガーへどうぞ」
「よし、マーク頼む」
『了解ですキャプテン』
船は筒の上部、そこに開いた長方形の穴をくぐる。その穴を抜けると筒の壁面にはあらゆる形の宇宙船が泊まっていた。
その中で10という数字が刻印されたスペースに船が着陸すると、床が沈み込み船が綺麗に収納される。
「よぉし、もう降りて大丈夫だぜ嬢ちゃん」
「さぁ行くッスよアイリちゃん!」
「え、どこに?」
俺が降りるのってイルフィリアであってアルスアじゃ無いのでは?
「もちろん、オシャレしに行くッス!」
目的変わってませんか。




