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少し不思議なもう一つの世界へ!―魔法と宇宙と俺幼女―  作者: ヤマト・シアキ
もう一つの世界
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プロローグ

 朝8時、ベッドから起き上がり、すぐさまパソコンの電源ボタンを押す。画面がいつものデスクトップを表示したら、すぐにオンラインアクションRPG『ピース・ゼロ』を起動してキャラを選択、毎日0時に切り替わるおすすめクエストを消化し、クリア報酬のアイテムをもらう。

 コレを7キャラ分キッチリ回すのが俺の日曜日の習慣である。しかし、今日は時間が足りなかった。


「あ、今日、10時からペリカン像の前でヨシフミ達と待ち合わせだっけ」


 友達のヨシフミ、カズミと水族館に行く約束をしていたので、ゲームをやめて身支度を開始する。まだ4キャラしかクエストを消化出来ていなかったが、帰ってきてからでもクエストは再開は出来るし、友達との約束を反故に出来るわけがない。

 身支度が済んで時計の針は9時17分を指していた。

ペリカン像は歩いて30分くらいなので俺は爺ちゃんに「行って来まーす」と言って家を出た。


 しばらく歩き、目的のペリカン像まで後少しとなった。


(そろそろ着くってメール入れておくか)


 そんなことを考えながら歩いていると、後ろから声をかけられる。


「おーっす『伝説の魔闘士』ッサーン! 昨日はレイドボス12連戦おつかれー!」

「ぐぉっヨシフミ、もう2度とやんないからなあんな苦行。あと現実(リアル)なんだからちゃんと名前で呼べ」

「悪ぃ悪ぃ『伝説のマサト』」

「混じってんじゃねえか! なお悪いわこの『ゴリラ』!」


 友達の稲葉(いなば)ヨシフミが挨拶しながらヘッドロックしてきた。


「しっかし、あんなボスなんで実装したんだろうな。巨大すぎてほぼ足しか見えないっての」

「あれなぁ、移動速くてほぼ追いつけないってのがなー。『癒し猫』泣きそうになってたぞ絶対」


 そんな風にヨシフミとゲームの話をしながらペリカン像まで辿り着き、時間を潰していると時刻は10時5分となっていた。


「ごめーん! おまたせぇー!」

「おせぇぞー! 『嫌死猫』ーー!」

「今の絶対違う文字でしょーーー!」


 もう一人の友達、長谷(はせ)カズミが、道路向こうから息を切らして走ってくる。


「ごめんごめん! 朝起きたらもう9時まわってて!」

「まぁ昨日の夜3時までやってたし仕方ない、5分くらいヘーキヘーキ」

「カズミ昨日はおつかれー」

「ヨッちゃん! あんなに動き回るやつなら最初から言ってよ! すっごい回数死んで他の参加者の人からのなにやってんだ、あの猫……みたいな視線で泣きそうになったよ!」

「すごい回数死んでたからな。8回?」

「マサ君! 数えんでよろしい!」


 そんな話に笑いながら、水族館への道を歩き出す。

 今日は水族館でカズミが見たいと言っていた、イルカを見に行く約束をしていた。

 ヨシフミとカズミは小学校の頃からの友達で、ずっと同じ学校へ通っている。

 『ピース・ゼロ』は俺が2人を誘い一緒にやり始めたファンタジー世界で、自由に作成した主人公を使い世界を救うという内容のゲーム。キャラクリエイトの自由度が高く、カッコよくも可愛くもできるのでカズミも気に入ってくれた。ただ、カズミのキャラは完全に猫なので、邪悪な力を持った異形のバケモノが猫にボコボコにされる勝利ムービーは割とシュールだ。ヨシフミは現実(リアル)の顔そっくりに作り上げて筋肉量と体毛量の数値が全開になっているため、これもまたシュールだ。真面目に世界観に合わせて作った俺のイケメン銀髪キャラと並ぶともうオメー世界救う気ねーだろといわんばかりのパーティーが出来上がる。『伝説の魔闘士』『ゴリラ』『癒し猫』だからな。こういった行き過ぎた自由なキャラクリエイトが5年も続く秘訣なのだなぁとしみじみ思う。

 そんなことに一人感心していたら、横断歩道で横に自転車に乗ったサラリーマン風なおじさんが止まった。よく見るとスマホで通話しながらペコペコ頭を下げている。


(取引先へ急いでんのかな? 朝から大変だぁ)


 と思った矢先、歩行者信号がまだ赤く光っているのに道路に勢いよくおじさんが飛び出した。おじさんも信号が変わっていないことに気が付いたのか慌てて戻ろうとする。しかし、ガシャ!と音を立ててその場に転んでしまった。

 幸い、車は走っておらず道路はガラガラだったので、


「俺ちょっと行ってくるわ」


 と行動したのはヨシフミ、すぐさまおじさんに駆け寄り起き上がらせる。


「す、すまないねぇ」

「さすがヨッちゃん(オトコ)だねぇ」


 ヨシフミは正義感が強く、体も大きいクラスでも人気者だ。体格が小柄な俺はそんなヨシフミのようになりたいと何度も思った。

 友達という関係ではあるが、ヨシフミは俺の中で憧れだ。本人に言うと冷やかしてくるから絶ッッッ対言わないけど。

 少し遅れて俺も手伝おうと動き出す。


「大丈夫で――――!」


 そのとき、ヨシフミ達に凄まじいスピードで近づいてくる黒いスポーツカーが見えた。運転席の男は、サングラスをかけながら、車内音楽でノリノリなのか、こちらに全く気がついていない。


「ヨシフミ!」


 ヨシフミ達も気付いたのか、急いで動こうとする。だが、おじさんの足が自転車に挟まって動けない。急いで外そうと試みているが全く外れないようだ。

 俺は飛び出していた、何をするかなんて、全く思いつかないままこのあとどうするのか、どうやって助けるというのか、自分になにが出来るというのか、そんなことはどうでもいい、とにかく何かしたい、何も出来ないのは嫌だ、


目の前の友達を失うなんて絶対嫌だ。


 気が付けば俺はヨシフミとおじさんに思い切り()()()()をかましていた。


(えっ俺何してんの)


 衝撃でおじさんの足が外れたのか2人して後ろに吹っ飛び道路の中央あたりで尻餅をつく。


(まぁ、あそこなら轢かれる事はないかフーッ危なかっ――)


 ヨシフミとおじさんの姿を確認して、なにもかも忘れ安心している俺の目を覚まさせるように、右半身を激痛が襲い、世界が大回転する。


 後頭部に強い衝撃がきたかと思えば、すぐさま左肩、胸、腰と、全身を強く叩きつけられたんだと思う。


………………………………………………。


「マサト! ――マサトォ!」

「マサ君!? ――大丈夫!? ――マサ君!」

「あ、あぁぁぁああ!」

「おじさん! 早く救急車! ――急いで! アンタも何やってんだ! はやく車から降りてこいよ!」


 友達の声が次第に遠ざかっていき、気付く。


(あぁ……俺もうだめなんだな……だんだん眼も見えなくなってきてるし…………?)


 友達の声が小さくなっていくのに対し大きくなっていくこの場には似つかわしくない奇妙な音があった。


(? ……()()……して……るの……だれ…だ…………?)


 目の前が真っ暗になり拍手の音も一緒に止んだ。

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