下
本編最後となります。
三ヶ月前。
花ノ国と鳥ノ国の国境で、戦いが繰り広げられていた。
花ノ国の勢力と鳥ノ国の勢力は五分五分。もう数日も戦いが続いていた。その指揮を執っていたのは、ミツフジ。
どれだけ用心していても、いつ城に攻め入られるか分からないため、トラフジとイチフジは城で待機していた。
そんな時、トラフジが慌てた様子で、戻ってきた。
「トラちゃん!!」
「どうした、イチ」
「こ、これ……。どうしよ、どうしよ!」
「落ち着けって! なんだよ」
「これ……」
イチフジが手渡してきた書状を読む。そこには、数人の女達を人質に捕らえたこと。そして助けたければ、鳥ノ国へ忠誠を誓うことだった。
「殿に指示を仰ごう」
「……うん」
フジシロにこのことを伝えに。
「……何故、このような事が起こった?」
「はい……。風ノ国から吹く風は、薬草をよく育てるということで、僕が一緒について行ったんですが……」
「イチ、お前に怪我は?」
「ありません……。僕が不甲斐ないばかりに」
「相手は複数にいたのだろう。起こったものは仕方がない。イチ、トラ」
「はい」
「鳥ノ国へ向かい、忠誠を誓うフリをして、人質になった者達を助けに向かえ」
「良いのですか……?」
「この国にいる者は、全て儂の家族だ。家族を助けるのは、当たり前じゃ」
「殿」
「儂から、お主らに頼もう。家族を助け出して来てくれ」
深々と頭を下げるフジシロに、慌てて頭を下げる二人。
それから、トラフジとイチフジは他の家臣たちと共に、鳥ノ国へ発った。
フジシロはその事を、家臣たちには伝えなかった。これ以上、戦いが激化すれば、家臣や家臣の家族を失ってしまう。
国を守るためにも、フジシロは隠密に事を進めようと、トラフジと密に連絡を取っていた。
やっと話せたと言うような形で、トラフジはスッキリとした表情をしていた。
「殿はイチフジに妹を救出することを命じた。そんで、俺は間者としてイチフジや家臣と共に鳥ノ国に行ったって訳だよ」
「……そう、だったんですか。イチの妹や他の方は」
「無事だよ。さっき救出が終えたから、今は雪ノ国に行く船に乗り込んだはずだ」
「そうですか。それは、良かった……」
ミツフジは安心した表情を見せたあと、すぐに暗い表情になった。
「トラ」
「ん?」
「申し訳ない」
「何が」
「裏切ったと、言ってしまった」
「私は、お前たちが居なくなってから、恨んでしまった。トラを、イチを……」
「でも、お前はそれを捨てなかった」
「え」
「ペンダントだよ。それ、捨てなかったんだろ」
「……捨てられなかったんですよ」
「俺とイチは、それを捨てられてなかったってだけで、嬉しいよ」
トラフジが少し照れ臭そうにしていた。
何とか出口に向かっていたが、火の回りが早くなっていた。
「ゴホッゴホッ……。アイツら、どんだけ燃料巻いてるんだ……」
「……トラ、私を置いて行きなさい」
「はぁ?」
「私を連れては、手遅れになるかもしれない。なら、貴方だけでも」
「馬鹿言うな。殿の所に帰るって、言ってきたんだろ」
「なら、生きて帰るぞ。俺たちの殿の下に」
「……はい」
矢の刺さっていた足からは、とめどなく血が流れてくる。少し朦朧としてきた時、遠くから叫び声が聞こえてきた。
聞き覚えのある声だ。
「トラちゃーん!!」
イチフジだ。190を越える長身のイチフジが、何かを抱えて、走ってきた。
「イチ!」
「トラちゃん、ミッちゃん! え、てか、何したの?」
「喧嘩」
「全く〜。二人はいつもそうだよね」
「イチ……」
「ミッちゃん……。その、ごめんね」
「無事なんですね、妹は」
「うん」
「なら、良かった」
「つか、それ何だよ」
「ん、これ?」
抱えていたものをドサッと落とす。長身の男と、低身長の男。鳥ノ国の兵士が纏っている服を着ている。
「僕とトラちゃんに似てる人たちだよ。これ転がしておけば、僕たちは死んだって思わせられるかなって思って」
「なるほど。イチにしてはいい考えだな」
「僕にしてはって、なんか酷い」
「悪ぃ、悪ぃ」
「さてと、行こっか!」
と、言うとイチフジがしゃがんだ。
「ミッちゃん、乗って!」
「いや」
「早く乗れよ。火に巻かれて死ぬのはゴメンだ」
「ミッちゃん」
「分かりました」
イチフジに背負ってもらう。
出口に向かい走り出す、トラフジとイチフジ。
「ミッちゃん、また痩せた?」
「あまり、食事が取れてなかったので」
「全く、ちゃんと食べなきゃダメだよ!」
「……誰のせいですか」
「ん?」
「なんでもありません」
「また痩せたのかよ。俺より身長高いくせに、軽いとかなんだよ」
「トラは太りやすい体質ですからね」
「うるせー!」
「いいじゃん! 僕なんか二人よりずっと重いんだから」
「身長も高いじゃないですか!」
「そうだ、そうだ!」
昔のまま、三人は少し楽しくなってしまっていた。
「あ、そこの出口です。少し行ったらハシゴを登らないと」
「わかった!」
「なら、先に行け。俺が後から行く」
「はーい」
イチフジは、ミツフジを背負ったままハシゴを登っていく。
「イチ」
「ん? 僕なら大丈夫だよ」
「いえ、信じきれなくて、申し訳ない」
「ううん。今回のことは、僕の不注意だから、ミッちゃんが謝ることないよ」
「ですが」
「僕の方こそ、ごめんね。こんな事になってなかったら、花ノ国を捨てずに済んだのに」
「それは、イチのせいではないですよ」
「だと、いいんだけどね。痛っ……」
「イチ?」
「えへへ、ずっとメンテナンスして貰ってなかったから」
イチフジの左腕は義手。カラクリの得意なミツフジが、毎日のようにメンテナンスをしていた。だが、鳥ノ国に行っていた時は、誰もそのメンテナンスが出来なかった。無理に使っていたせいもあり、義手と肩の境目から血が流れていた。
「イチ!」
「大丈夫だよ、これくらい。あとで見てね、ミッちゃん」
「もちろんです」
ハシゴを登りきると、小さな出口があった。イチフジは出口を塞ぐものを、思い切り殴るように外す。外に出た瞬間、銃口を向けられてしまった。
ーーここへ来て、敵に見つかるとは。
ミツフジが諦めかけた瞬間、聞きたかった声が聞こえた。
「イチ! ミツ!」
「殿!」
「無事であったか……。良かった」
安心しきった表情のフジシロが、二人を迎えてくれた。
トラフジも無事、登ってきた。三人が無事、合流した事を確認すると、浜へ向かい始める。
「ミツ、すまなかったな。お前に何も伝えずに」
「……いえ。殿はその方が良いと考えたのですよね。なら、それで良いです」
「……すまない」
フジシロはミツフジへ頭を下げる。
ミツフジは、自分の怪我よりも先に、イチフジの肩の様子を確認していた。
「無事、皆を救出、出来たんです。これで良かったんです。それにこれからもっと大変です。花ノ国を再建させなければならないのですから」
「そうじゃな」
「イチ、今はメンテナンス出来る環境にない。もう少しこのままでもいけますか?」
「うん、大丈夫。ミッちゃん背負うくらいなら、どうってことないよ」
応急処置だが、傷の手当をしてもらったミツフジは、イチフジの背負ってもらい、船へ向かう。
鳥ノ国は、花ノ国の土地を制し、また領地を広げた。
月ノ国をも支配し、四つの国があった大陸は、鳥ノ国の支配地となってしまった。残ったのは、花ノ国という名だけ。
しかし、フジシロは諦めていなかった。大切な民を守り、花ノ国を再建させることを。
ここまで読んでくださり、誠にありがとうございました。
番外編が書けたら書きたいなー、なんて思いながらこのまま連載中にしたいと思います。