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三つ葉の絆  作者: 山芋娘
3/3

本編最後となります。


 



 三ヶ月前。

 花ノ国と鳥ノ国の国境で、戦いが繰り広げられていた。

 花ノ国の勢力と鳥ノ国の勢力は五分五分。もう数日も戦いが続いていた。その指揮を執っていたのは、ミツフジ。

  どれだけ用心していても、いつ城に攻め入られるか分からないため、トラフジとイチフジは城で待機していた。

 そんな時、トラフジが慌てた様子で、戻ってきた。


「トラちゃん!!」

「どうした、イチ」

「こ、これ……。どうしよ、どうしよ!」

「落ち着けって! なんだよ」

「これ……」


 イチフジが手渡してきた書状を読む。そこには、数人の女達を人質に捕らえたこと。そして助けたければ、鳥ノ国へ忠誠を誓うことだった。


「殿に指示を仰ごう」

「……うん」


 フジシロにこのことを伝えに。


「……何故、このような事が起こった?」

「はい……。風ノ国から吹く風は、薬草をよく育てるということで、僕が一緒について行ったんですが……」

「イチ、お前に怪我は?」

「ありません……。僕が不甲斐ないばかりに」

「相手は複数にいたのだろう。起こったものは仕方がない。イチ、トラ」

「はい」

「鳥ノ国へ向かい、忠誠を誓うフリをして、人質になった者達を助けに向かえ」

「良いのですか……?」

「この国にいる者は、全て儂の家族だ。家族を助けるのは、当たり前じゃ」

「殿」

「儂から、お主らに頼もう。家族を助け出して来てくれ」


 深々と頭を下げるフジシロに、慌てて頭を下げる二人。

 それから、トラフジとイチフジは他の家臣たちと共に、鳥ノ国へ発った。

 フジシロはその事を、家臣たちには伝えなかった。これ以上、戦いが激化すれば、家臣や家臣の家族を失ってしまう。

 国を守るためにも、フジシロは隠密に事を進めようと、トラフジと密に連絡を取っていた。




 やっと話せたと言うような形で、トラフジはスッキリとした表情をしていた。


「殿はイチフジに妹を救出することを命じた。そんで、俺は間者としてイチフジや家臣と共に鳥ノ国に行ったって訳だよ」

「……そう、だったんですか。イチの妹や他の方は」

「無事だよ。さっき救出が終えたから、今は雪ノ国に行く船に乗り込んだはずだ」

「そうですか。それは、良かった……」


 ミツフジは安心した表情を見せたあと、すぐに暗い表情になった。


「トラ」

「ん?」

「申し訳ない」

「何が」

「裏切ったと、言ってしまった」

「私は、お前たちが居なくなってから、恨んでしまった。トラを、イチを……」

「でも、お前はそれを捨てなかった」

「え」

「ペンダントだよ。それ、捨てなかったんだろ」

「……捨てられなかったんですよ」

「俺とイチは、それを捨てられてなかったってだけで、嬉しいよ」


 トラフジが少し照れ臭そうにしていた。

  何とか出口に向かっていたが、火の回りが早くなっていた。


「ゴホッゴホッ……。アイツら、どんだけ燃料巻いてるんだ……」

「……トラ、私を置いて行きなさい」

「はぁ?」

「私を連れては、手遅れになるかもしれない。なら、貴方だけでも」

「馬鹿言うな。殿の所に帰るって、言ってきたんだろ」

「なら、生きて帰るぞ。俺たちの殿の下に」

「……はい」


 矢の刺さっていた足からは、とめどなく血が流れてくる。少し朦朧としてきた時、遠くから叫び声が聞こえてきた。

 聞き覚えのある声だ。


「トラちゃーん!!」


 イチフジだ。190を越える長身のイチフジが、何かを抱えて、走ってきた。


「イチ!」

「トラちゃん、ミッちゃん! え、てか、何したの?」

「喧嘩」

「全く〜。二人はいつもそうだよね」

「イチ……」

「ミッちゃん……。その、ごめんね」

「無事なんですね、妹は」

「うん」

「なら、良かった」

「つか、それ何だよ」

「ん、これ?」


 抱えていたものをドサッと落とす。長身の男と、低身長の男。鳥ノ国の兵士が纏っている服を着ている。

「僕とトラちゃんに似てる人たちだよ。これ転がしておけば、僕たちは死んだって思わせられるかなって思って」

「なるほど。イチにしてはいい考えだな」

「僕にしてはって、なんか酷い」

「悪ぃ、悪ぃ」

「さてと、行こっか!」


 と、言うとイチフジがしゃがんだ。


「ミッちゃん、乗って!」

「いや」

「早く乗れよ。火に巻かれて死ぬのはゴメンだ」

「ミッちゃん」

「分かりました」


 イチフジに背負ってもらう。

 出口に向かい走り出す、トラフジとイチフジ。


「ミッちゃん、また痩せた?」

「あまり、食事が取れてなかったので」

「全く、ちゃんと食べなきゃダメだよ!」

「……誰のせいですか」

「ん?」

「なんでもありません」

「また痩せたのかよ。俺より身長高いくせに、軽いとかなんだよ」

「トラは太りやすい体質ですからね」

「うるせー!」

「いいじゃん! 僕なんか二人よりずっと重いんだから」

「身長も高いじゃないですか!」

「そうだ、そうだ!」


 昔のまま、三人は少し楽しくなってしまっていた。


「あ、そこの出口です。少し行ったらハシゴを登らないと」

「わかった!」

「なら、先に行け。俺が後から行く」

「はーい」


 イチフジは、ミツフジを背負ったままハシゴを登っていく。


「イチ」

「ん? 僕なら大丈夫だよ」


「いえ、信じきれなくて、申し訳ない」

「ううん。今回のことは、僕の不注意だから、ミッちゃんが謝ることないよ」

「ですが」

「僕の方こそ、ごめんね。こんな事になってなかったら、花ノ国を捨てずに済んだのに」

「それは、イチのせいではないですよ」

「だと、いいんだけどね。痛っ……」

「イチ?」

「えへへ、ずっとメンテナンスして貰ってなかったから」


 イチフジの左腕は義手。カラクリの得意なミツフジが、毎日のようにメンテナンスをしていた。だが、鳥ノ国に行っていた時は、誰もそのメンテナンスが出来なかった。無理に使っていたせいもあり、義手と肩の境目から血が流れていた。


「イチ!」

「大丈夫だよ、これくらい。あとで見てね、ミッちゃん」

「もちろんです」


 ハシゴを登りきると、小さな出口があった。イチフジは出口を塞ぐものを、思い切り殴るように外す。外に出た瞬間、銃口を向けられてしまった。

 ーーここへ来て、敵に見つかるとは。

 ミツフジが諦めかけた瞬間、聞きたかった声が聞こえた。


「イチ! ミツ!」

「殿!」

「無事であったか……。良かった」


 安心しきった表情のフジシロが、二人を迎えてくれた。

 トラフジも無事、登ってきた。三人が無事、合流した事を確認すると、浜へ向かい始める。


「ミツ、すまなかったな。お前に何も伝えずに」

「……いえ。殿はその方が良いと考えたのですよね。なら、それで良いです」

「……すまない」


 フジシロはミツフジへ頭を下げる。

 ミツフジは、自分の怪我よりも先に、イチフジの肩の様子を確認していた。


「無事、皆を救出、出来たんです。これで良かったんです。それにこれからもっと大変です。花ノ国を再建させなければならないのですから」

「そうじゃな」

「イチ、今はメンテナンス出来る環境にない。もう少しこのままでもいけますか?」

「うん、大丈夫。ミッちゃん背負うくらいなら、どうってことないよ」


 応急処置だが、傷の手当をしてもらったミツフジは、イチフジの背負ってもらい、船へ向かう。



 鳥ノ国は、花ノ国の土地を制し、また領地を広げた。

 月ノ国をも支配し、四つの国があった大陸は、鳥ノ国の支配地となってしまった。残ったのは、花ノ国という名だけ。

 しかし、フジシロは諦めていなかった。大切な民を守り、花ノ国を再建させることを。

 

ここまで読んでくださり、誠にありがとうございました。

番外編が書けたら書きたいなー、なんて思いながらこのまま連載中にしたいと思います。


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