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三つ葉の絆  作者: 山芋娘
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続きです。

この中の中に出てくるシーンを書きたくて書きました。



「殿、早く先を急いでください!」

「お前も来い!」

「我々は、殿(しんがり)を務めます」

「……生きて、儂と共に、雪ノ国へ行くぞ」

「はい。我らは、常に殿と共にあります」

「無理はしないでください」

「ミツフジ様……。殿をお願いします」

「分かっています」


 殿(しんがり)を務めた兵士達を置いていき、フジシロたちは先へ進む。

  燃料を巻かれ、地上は火の勢いが、どんどん増していく。そしてその火は、地下にまで回ってきた。その火と共に、鳥ノ国の兵士達までもが、地下へと入ってきた。何としても、フジシロの首を取ろうとしてきていた。


「火がここまで……」

「殿、こちらの出口から浜へ迎えます」

「そうか」

「私が前を……」

「ミツフジ様?」


 家臣の声ではなく、別の音に神経を尖らせ始めたミツフジ。鳥ノ国の兵士達がフジシロを探す叫び声しか聞こえてこないのだが、ミツフジにはしっかりと、聞こえていた。

 その足音が。


「殿を頼みます」

「ミツフジ様? いえ、でしたら我らがここを」

「いえ、彼を止められるのは、私だけです」


 ミツフジはそう言うと、フジシロから離れようとする。


「ミツ!」

「殿……」

「生きて、儂の下へと帰って来い」

「御意」


 ミツフジは再び、膝を付き胸に手を当て頭を下げる。ミツフジは家臣たちに、フジシロをしっかりと、守るように伝えると、走り出した。

 くっきりと聞こえてくる足音。

 ーーこの歩き方は、彼しかいない。

  角を曲がった所で、彼と相対する。


「久しぶりだな、ミツ」

「そうですね、トラフジ」

「……話しを、しに来た」

「話し、ですか。今は聞いている暇はないです」


 二人の下へも炎が、迫り来る。ミツフジは刀を鞘から抜く。


「……そういや、俺らの喧嘩はいつもこれだったな」

「喧嘩ですか。そんな生易しいものではないですよ。今は真剣。昔の木刀とは違いますよ」

「そうだな。命懸けだ」

「えぇ。私は貴方を斬り、殿の下へ行く」

「なら、ミツ。俺がお前に勝ったら、俺の話し聞いてくれ」

「貴方が勝つ時、私は死んでいるのでは?」

「……どうだかな」


 ゆっくりと構える。

 呼吸音が聞こえる。

 瞬間、二人は駆け出し、剣を振りかぶり、斬り合いが始まる。

 最初は冷静に対応していたミツフジも、次第に呼吸を乱していく。目も怒りの篭った、鋭く殺気立ったものになっている。


「何故」


 ミツフジの中から溢れ出す言葉。


「何故、貴方たちは裏切った!」


 その叫び声が、トラフジに剣先と共に降り注ぐ。どれだけ、言葉を浴びせても、トラフジは何も言わず、あしらうばかり。昔はミツフジの方があしらっていたのに、今はまるで逆だ。


「私とトラフジ、そしてイチフジ。三人で誓ったはずです。殿をフジシロ様をお守りすると!」


 首から下がるペンダントを握りしめ、ミツフジは叫ぶ。話しを聞きたくなかったはずなのに、やはりまだ信じる心があるのか。

 そう思いながら、トラフジに問いかける。けれど、トラフジは何も言わない。


「あの誓いはなんだったのですか。私たちは三人で殿をお守りすると……。昔のような、関係に戻れないのですか……。トラ!!」


 斬りかかった瞬間、ミツフジの右足に矢が刺さった。その場に倒れ込むミツフジ。

 トラフジは咄嗟に、矢の飛んできた先を見る。そこには、鳥ノ国の弓矢部隊の一人が。


「トラフジ殿、いい獲物ですな。私も加勢しましょう」


 ゆっくり近づいてくる弓矢部隊兵。ミツフジはなんとか立ち上がろうとするが、足に力が入らない。

 目の前に立ちはだかった瞬間。


「邪魔するんじゃねぇよ」と、いうトラフジの声と同時に、弓矢部隊兵の首が飛んだ。


「……今、コイツと喧嘩してるんだよ。邪魔してんじゃねぇよ」


 怒りの篭った声で発するが、もう聞こえていないだろう。

 ミツフジは足に刺さった矢を引き抜く。ゆっくりと立ち上がり、トラフジと向き合う。

 お互い刀を構え直し、走り出した。トラフジかミツフジの刀を思い切り振り払う。

 ミツフジの手から、刀が抜け飛んでいく。

 ーー負けた、殺される。

 そう思った時、腹を蹴られ後ろに飛ばされてしまった。勢いよく飛びかかってきたトラフジが、ミツフジの顔に向かって刀を振り下ろした。

 目を瞑り、殺されるのを覚悟した。しかし、痛みはない。ゆっくり目を開けると、目の前で、刀が止まっていた。


「はい、俺の勝ち」

「……はぁ?」

「俺が勝ったから、話し聞けよな」

「何を……。私を殺さないのですか?」

「なんで殺す必要があるんだよ? 喧嘩しよーぜ、言っただけだろ」


 目を点にしているミツフジを他所に、トラフジはミツフジの刀を拾い、鞘に収める。


「んじゃ、行くか」

「どこに、ですか?」

「決まってんだろ、俺達の殿の下に」

 さも当然と言うような言い方をするトラフジ。

「ほら、立てよ。行くぞ」


 足に怪我を負っているミツフジに肩を貸す形で、立ち上がらせる。少し歩いた時、ミツフジがトラフジのことを突っぱねた。


「何するんだよ」

「何とは、こちらの台詞です。殿の下へ案内などしません。鳥ノ国に殿の首は持ち帰られません」

「……ミツ」

「私を殺しなさい」

「……んなこと、しねぇよ。ほら、歩きながら話すから、立てよ」


 しかし、ミツフジはトラフジの手を取ろうとしない。

 するとトラフジは、鳥ノ国の紋が入ったコートを脱ぎ、火の中に捨てた。


「何を……」

「鳥ノ国にはもう行かない。俺の殿はフジシロ様だけだ」


 トラフジは無理矢理ミツフジを立たせ、歩き始める。

  ミツフジの方が身長が高いため、トラフジの支えは少し頼りない。だが、歩くのには、この支えがとても有難かった。

 ゆっくり歩みを進めていく。


「……話しとは何ですか」

「俺とイチフジが、鳥ノ国に行った理由」

「……裏切った理由ですか」

「裏切った訳じゃねぇよ。……三ヶ月前、お前が鳥ノ国との国境で戦ってた時、イチフジの妹が人質に捕らわれたんだ」

「私は、そんなこと聞いてませんよ!」

「殿が言わないでおいてくれたんだよ」

「……何故」

「そんなこと言ったら、お前もだけど、他の家臣たちが攻め入るって言うだろう」

「当たり前じゃないですか!」

「殿はそれを危惧したんだよ。これ以上、戦いが激化したら、危険だからな」


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