8話
「居酒屋?」
「ああ…俺の行き着けなんだけど」
「行き着け?」
「そうそう、大学の時からよく行ってて、こないだ愛桜達が行ってたカラオケの近く」
「あーあの近くの?居酒屋さんってあったかな」
「酒配達してるし最近も行ってるんだけど、看板に梟の絵が書いてて、[恋恋]って名前なんだけど、いつか愛桜連れてきたいなって思ってたんだ」
「解った!ちょっと厳ついオジサンがしてる所だよね?」
「おーそれそれ」
「早く20歳になりたいな。そしたら一緒にお酒も飲めるのに!」
「そうだな、っつか愛桜が20歳とか想像つかねぇ」
そう言いながら笑う拓人さんに
「笑わないでよ!」
っと頬を膨らませる
「ハハッごめんごめん。車止めてくるから先入って華園ですって言えば大丈夫だから」
「駐車場まで行くよ?」
「そんなヒールで歩かせられねぇよ」
「あっ」
「ほら、降りて」
優しい拓人さんも、思いもよらない嬉しい出来事も、笑顔が溢れる
知らない時間を辿るように、少しずつ近づいていく気持ちにやっぱり私はまだまだ子供なんだって実感した
理解よくとか、解り合うとかまだ難しい
ただ純粋に拓人さんがこの恋恋に来て、いつの日か私を連れてきたいと思っててくれたことだけでもこんなにも、幸せになれる
ここまで頑張ってきたから無くしたくないって改めて思えた
ガラガラ
「いらっしゃい何名様で?」
「あ…」
華園ですっと言葉を伝える前に
「紺野さん!?」
今は聞きたくない声が聞こえてきた
そうだよ。
そうだった
「如月先生…」
拓人さんの大学時代にはこの人が居た
仲が良かったって言ってたからこの人が居てもおかしくない
だけど頭では分かってるのに心が悲鳴をあげていく
「誰?」
「先生って言ったから生徒?」
如月先生の後から金色の短髪で少しチャラい人と
髪を胸辺りまで伸ばし綺麗に巻いてセットしてる可愛い人が顔を出した
「えっ、あっうん、クラスの子なんだけど」
「かわいい~!若いっていいわね」
そう言って、可愛いふんわりした甘い香りの人に抱きつかれた
「こら優梨絡まない!紺野さん1人じゃないわよね?」
「はい」
ちょうどその時
ガラガラ
っと勢いよく入口のドアが開く
「うーっす。げっ…どうして居るんだよ」
「私達の行き着けでもあるんだよ」
「って事は奴らも居てるのか?」
「奴らも?ってなんだ!」
そう言って拓人さんの首に腕を回しニコニコ笑う金髪の人は私に顔を向け
「俺、稜って言って如月先生のお友達です!」
「自己紹介とか要らねぇから、あっち行け」
「はあ?一緒に飲むんじゃねぇの?」
「今日は別件だって」
拓人さんはそう言いながら稜さんの腕を離した
「私は千晃、そして抱きついてきたこの子は」
「優梨だよ」
「あれ?何玄関先でやってんだよ」
もう一人奥から男の人が出てきて視線が合う
「え?何?もめてる感じ?」
「こいつは翔貴、拓人と俺の親友でーす」
「酔いすぎだって稜、あっち行けって」
拓人さんは面倒くさそうに稜さんの背中をついて翔貴さんの方へ渡す
「とにかく今日拓人は一緒に飲まないから戻ろう。ごめんね紺野さん、騒がしくて」
「全然大丈夫です」
「悪いな、紀乃」
「まとめ役はいつも私だからね」
「やめろってお前らー!生徒の前でイチャイチャなんかしたら明日学校で噂になるぞ」
稜さんはそう言いながら私の顔をのぞき込む
「………」
「いい子だから内緒にしててあげてな」
「こら、稜!そんなんじゃないわよ」
「拓人の別件ってこの子?」
千晃は不信な視線を送った
「とにかく、お前ら飲み過ぎ」
「拓人も一緒に飲もうよっ!拓人が居なきゃ紀乃が乗り気じゃないんだから」
優梨さんが拓人さんの手を引っ張る
「おい」
拓人さんは困ったように如月先生に助けを求めた
「止めなって優梨、稜も」
「生徒ちゃんも気になるよな!如月先生の彼氏は男前だってみんなに教えたくなるだろ?」
「稜!!」
いつも温厚な拓人さんの怖い声に全員の動きが止まった気がした
私は子供扱いされたくないけど、大人みたいに物わかりがいいなんて出来ない
せっかく拓人さんが連れてきてくれたのに、どうして否定しないの?どっちも付き合ってないって
色んな事が頭をぐるぐる回る
「愛桜?」
拓人さんが優しく私の肩を引き寄せようとした
「離して」
「え?」
「…学校のみんなに言っておきます。私の彼氏は如月先生の彼氏でしたって」
「おい!」
バシャン
っと強くしまったドアにため息をついた
「え?私の彼氏って?」
「……二股なの?」
優梨と千晃は俺と紀乃の顔を交互に見る
「ごめんね。優梨と稜にはずっと内緒にしてたんだけど、私たち付き合ってないの」
紀乃がそう言えば翔貴が俺の方を向き
「じゃあ今の子が彼女?」
そう問いかけた
「そうだよ」
「嘘だろ。ごめん拓人」
「あ~もう!んだよ…」
頭をクシャクシャする拓人は店長にキープのボトルを頼んだ
「何してるの拓人!紺野さん1人で帰らすの?危ないわよ」
「今どうやって説明しろって?あいつは感情的だからどうしてもぶつかりあうんだよ」
「けど…」
「また傷つけて、本当に最低だな俺。今日は仲直りのつもりだったのに」
「じゃあボトルはおあづけだな。早く行ってこい」
っと言いながら店長はボトルをしまった
「ごめん」
「謝っておいてね」
みんなが謝る声を背に店を出た