第二巻
第二巻
レナートは無礼な言葉を吐いた男を質したくて思わず剣を抜こうとしました。
けれども、体が動きません。
「うっ、体が動かない」
男は言います。
「考えなきゃ動かないさ! 人形だもの。自分の手を確かめてみな。一、二、三!」
レナートはゆっくりと考えながら、自分の手に目線を下ろしました。
そして、悲鳴を上げました。
「ああ! なんだこの手は。おれの手なのか? 間接に球が仕込んである……。腕も! 足もだ! ああっ! これは一体どういうことなんだ?」
これが義手や義足であるならばまだましだったかもしれません。
なぜなら、この手足は間違いなくレナートの意思で動かすことができるからです。
この不気味な人形の手足が自分自身の体なのだと思い知らされるよりは、棒切れのような義手や義足のほうがまだ心安らいだことでしょう。
男は言います。
「やれやれ。何度でも言うぞ。あんたは人形にされたんだよ、レナート。この家の人形師の手によって!」
「そんな馬鹿な。うっ、体が動かない」
レナートはまだ信じられませんでした。
けれども、両手で顔を覆って目を瞑ろうとしても、それさえもできませんでした。
「無茶は禁物だ! あんたは人形なんだからな」
「……おれは人形じゃない……。――うっ」
「ほら、言わんこっちゃない。 一、二、三!」
レナートはふらふらと戸口に向かって歩いて行きました。
「……おれは人形なんかじゃない。おれはレナート。……レナート・フェルナンド・ラスター……ハッサの騎士……」
そして、ばたん! と扉を開けて、外へと飛び出しました。
「あーあ。行っちまった」
男はまたため息をつきました。
やれやれと思っていると、裏口のほうからがちゃがちゃと音が聞こえました。
振り返ってみれば、この家の主が荷物を抱えて部屋に入ってくるところでした。
「おっ? ィよう! お帰りなさい、旦那!」
「ただいま。レナートはどこだい?」
「飛び出して行っちまいましたよ。――あいつ、レナート・フェルナンド・ラスターって名乗ってましたよ」
「やれやれ。レナート・フェルナンド・ラスターか。面白い物語が書けそうだな」
男は人形師の言葉に肩をすくめました。
「そうなるといいですがね! なにしろこれは――」
男は言います。
「なにしろこれは、ぜんまい仕掛けの物語だもの」
――つづく