第一巻
騎士レナート
第一巻
「ん……」
目覚めるとそこは見知らぬ家でした。
「……? ここはどこだ?」
薄暗い部屋は、木材の匂いで満ちていました。
釉薬の匂いです。
どこなのだろう、とレナートが思っていると、上から声が降ってきました。
「ィよう、お目覚めかい」
男の太い声です。
けれども、見上げた先には、棚からぴょんと飛び出た小さな両足があるだけでした。
たった今降ってきた男の声とは似つかわしくありません。
レナートは男の正体を確かめてみようと思って立ち上がろうとしました――けれども、どうしてなのでしょう? 足が動きません。
レナートは驚きの声を上げました。
「なぜだ? 足が動かない?」
男の声が言います。
「そりゃあ、前の体とは勝手が違うからさ、レナート。ほら、一、二、三……で起き上がれ!」
びくん、と、ぜんまい仕掛けのように、勢いよくレナートは起き上がりました。
これは一体どういうことだろう、とレナートはまた驚いて、男に問いたくて棚の上を見ました。
けれども、棚の上を見たレナートは、さらに驚きました。
なんと、男は小さな人形だったのです。
からくり仕掛けの口をからからと鳴らして笑っている男を見て、レナートは呆気にとられました。
聞きたいことはたくさんあるけれども、そういえば男はレナートの名前を知っているようなので、レナートはそれを聞きました。
「――っふう。……お前はなんでおれの名前を知っているんだ?」
「人形師がそう言ったからさ。ここがどこだか分かるかい?」
「…………。分からない。ここはどこだ?」
「人形師の家さ! そして、あんたの家でもあるな?」
レナートは首を傾げました。
レナートの家はここではありません。
「おれの家? なにを言っているんだ? おれの家はハッサにある白い丘の――」
言いかけるレナートに男はため息をつきました。
男は呆れたような声で言います。
「やれやれ、混乱してるな。レナート、あんたは人形にされたんだよ。だからここがあんたの家だ」
「なにっ?」
――人形?
レナートは男の言った言葉が信じられませんでした。
――つづく