「あともう少し筋トレしてたら、あともう少し基礎練を繰り返してたら、あともう少し足を動かしていたら、あともう少し球を多く入れていたら、あともう少し、あともう少し、あともう少し、あともう少し、あともう少し、あともう少し…
…あともう少し頑張ってたら、あともう少しだけお前らとやれたのかなぁ…」
思えばここまでずいぶんいろいろなことがあった。でも意外に終わりはあっけないものだ。
こうして俺、高橋優は卓球部を引退した。
始まりはどんな感じだったかな。そうだ。入学式の次の日の、新入生歓迎会だ。
「なあ高橋、次の五六限新歓だけど、どこの部活はいるか決めた?」
昼休みの時間、ひとつ前の席で仲良くなった高木が俺に話しかけてきた。
「なんでわざわざ新歓前に部活決めるんだよ。当然決めるのは新歓を見てからと仮入部でだろ。俺らは中一なんだししっかり決めないと。高校でもやるかもしれないんだし。」
六年間やるかもしれないんだ。慎重に決めたい。
「そっか。楽しみだな。」
そんな会話をしていると、先生が教室が入ってきた。
「おーい、生徒はそろそろ第一体育館に移動しろよ。」
ようやくその時が来た。
「高橋早く行こうぜ。」
「おっけ。」
「それでは新入生の皆さん!お待ちかねの部活動紹介です!」
拍手や歓声で体育館がいっぱいになる。そして始まった。内容は様々だ。バスケ部などは実演。水泳部など体育館で実演不可能な部活は動画にして紹介してる。
そして、
「バドミントン部の皆さんありがとうございました!次は卓球部の皆さんです!よろしくお願いします!」
と司会が言った。実演だった。しかし内容が異質。何の紹介もなしにゲーム練習を始め、俺は圧倒された。
「なんだよこれ…卓球ってオタクがやるスポーツじゃないのかよ…」
俺の目に映ってきたのは、目視がやっとな速度で約2mの台を球が飛び交っている様子だった。
「なんだこれ…すげえな…」
高木も圧倒されている。いや高木だけではないだろう。この体育館にいる新入生のだれもが、圧倒されている。もう誰もダサい、しょぼいとバカにできないだろうと簡単に予測できるほどに。
放課後になった。
「高木、俺卓球部に入るわ。」
やっぱりか。そんな顔をして、
「そうだろうと思ったよ。俺も卓球部に入る。」
そうして俺たちは、仮入部もせず、ひとめぼれのような形で卓球部に入部した。