001話 死んだならば───
魔神は降り立った。三組の黒き翼をはためかせながら。
魔神はとても美しく、それでいて残酷な笑みを浮かべて言い放つ。
「貴様等は俺を怒らせた。よって、貴様等に裁きを与えてやる。刮目し、地獄の底で悔い改めろ!!【絶対者】───法則操作!!」
魔神が十五万の兵たちに左手をかざしたとたんに悪夢の様な現象がおこった。
左手に浮かび上がったその黒い球体を魔神は兵たちに向けて放つ。
そしてその球が膨張し、爆発する。その爆発にふれたものは分子構造すらも消滅させていく。そして余波として、赤黒い雨が降り始める。この雨は魔神の持つユニークスキル【猛毒者】の能力で、塗れたものの動きを阻害する。
そして、その雨はまさしく、魔神が悲しみながら流した赤い涙の様だったという。
<東方 宗教国家アトラス 国家騎士団団長 アレク・ロイス 談>
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俺、斉木卓は飽きていた。
何にかって?簡単だ。『人生』にだ。
俺は、小さい頃から両親に虐待されていた。父は俺に暴力をふるい、母は俺が助けをもとめても、無視した。
そして俺は三歳の頃に人は醜いと知り、両親に復讐するために色々なことを始めた。どうやら俺は天才という奴だったらしく気功や、気配察知さらに気配遮断までできた。
そして十歳の頃、両親は雷にうたれて死んだ。俺は鍛錬以外する事は無くなった。
剣をもてば剣道部なんて簡単に倒せるようになった頃。俺はする事が本当になくなった。
まあ、俺はいろんな意味で超人過ぎたのだ。そして、俺は『人生』に飽きた。
そんなある日のこと
俺はいつものように下校していた。
「あー暇すぎるだろ……剣術なんて我流で道場の師範倒したし……ホントやることないな……」
俺はため息を尽きながら歩く。
気配察知を常に使用しているため、そのことに気づいた。
俺の前方三十メートル先で女の子が車にひかれかかっている。
「どんなテンプレ?」
(って!そんなこと言ってる場合じゃなくね!?)
そう思い、俺は走り出す。
衝撃を緩和するために女の子を手で覆い、気を纏わせる。
ドゴン!!
そんな音と共に俺にだけ衝撃が伝わる。吐き気がし、何かを吐き出す。
血だ……死ぬのか……この俺が。
まあ、いいや。未来ある奴を残す。それだけでも出来たなら……俺が生きていた意味にも…なるはずだ───
くそっ!痛い───
《意志を確認。エクストラスキル【痛覚遮断】を取得しました》
でも、暑い。なんだコレ?
《意志を確認。エクストラスキル【炎熱無効】を取しました》
今度は寒い。
《意志を確認。エクストラスキル【冷寒無効】を取得しました。【炎熱無効】と【冷寒無効】を統合します。───失敗しました。エクストラスキル【熱冷耐性】となりました》
ふう…俺が生まれ変わったのならアレだな!楽して、美味いものをたらふく食いたいな!!
《意志を確認。エクストラスキル【捕食】を取得しました。さらに、ユニークスキル【食喰者】への進化を試行。───失敗しました。エクストラスキル【胃袋】とエクストラスキル【味覚鑑定】を供物にし、ユニークスキル【食喰者】への進化を再度試行。───成功しました。ユニークスキル【食喰者】を取得しました》
ぐう!?まじか…呼吸…が───
《意志を確認。呼吸が必要ない構造へと変化───
成功しました》
意識がなくならねえ。てか、いつになったら、意識なくなんの?つか、女の子にグロいもの見せちゃだめだろ。まだ、意識無くならないんだったらせめて血を止めろよ!
《意志を確認。【超再生】を取得しました》
というか、この声は何なんだ?誰かいるのか?いるなら教えてくれ!この言葉の意味を──
《意志を確認。ユニークスキル【知識者】を取得しました》
《今までの経験から、ユニークスキル【絶対者】ユニークスキル【早熟者】ユニークスキル【変装者】エクストラスキル【超感覚】を取得しました》
《これより、ーーーーーーへと送られます。一時的に意識がなくなります》
《強制転移。───失敗しました》
《解決法を模索します。───完了しました。ユニークスキル【時空者】を取得しました》
《再度、強制転移。───成功しました》
俺は体が引っ張られるような感覚とともに意識を失った。
「ん…」
俺が目を覚ましたのは、真っ白な空間だった。辺り一面が真っ白。
「ここ…どこ?」
(確か俺は死んだはず。…強制転移とか言ってたような…つまりここは天国か地獄?…いや、どれも違うような気がする)
《解、ここは神界です》
俺の脳内に直接響く機械の合成音のような感情の感じられない声。俺はその声に問う。
(えーと…どなた?)
《解、私は【知識者】です。》
はい、意味分からん!
「ふう…俺以外はいないのかね…ここには」
「あら…私がいるわよ?」
俺は気配もなく現れたソイツに向かってほとんど反射的に回し蹴りを放つ。だが、残像を蹴ったかのように手応えは無い。
《マスター、上です!》
俺は【知識者】の言う通りに上に跳び、上にいたソイツに向かって貫手を放ち、そして続けざまに右足で蹴る。
俺の放った貫手はいなされ、蹴りは空気を蹴って移動し、かわされる。
(どうやってんだよ!?)
《解、マスターも使用可能です。【空間操作】で、一部の空間を固め、足場にする事であのようにする事が可能です。なお、あの人が使っているのは、エクストラスキル【空歩】です》
スキルって何だよ!?
「攻撃止めなさいよ~」
「何で、だよっ!」
俺は気を纏ったパンチを放つが、やはりかわされる。
「あなたには!転成して貰うのよ!!」
…転生…だと!?
女は着地し、動かなくなった俺を心配そうに見てくる。
「どう…したの?え?」
ふっふっふっ…
「よっしゃぁあああああああああ!!!!!!」
テンプレあざっす!!
「なんか…テンション上がってすいません」
俺は落ち着いた後、すぐさま土下座した。
「ええと…まずは、自己紹介ね。私は転生の女神よ」
「俺は…」
自分の名前を名乗ろうとする俺を女神が遮る。
「言わなくて良いわ。貴方のことはずっと見て…何でもない。聞かなかったことにして!」
「お…おう?」
テンパりすぎだぞ?女神様…
「貴方は死にました!そして、自分の身をかえりみずに女の子を助けるということをした貴方に感動しました!よって、貴方を私の管轄している世界、『ラミラス』に転成させてあげることにしました!そこで、貴方に見合ったギフトを三つまで差し上げますので、選んでください!」
…つまり、俺が自分の身をかえりみずに女の子を助けたのを見て感動した女神が自分の管理している異世界『アラクレア』に転成させてくれると。しかも、ギフトという名のチートをくれるらしい。
「能力とか考えていいんだよな?」
「ええ。構わないわよ」
俺は考え始める。
(【知識者】よ…おまえの名前って無いの?)
《解、有りません》
それは…不便だ。スキル名長いしな。
(じゃあ、おまえの名はリエル。知りえるでリエルだ。よろしくな!リエル!)
《っ!?》
あれ?まずいことした?
《ワタシハ、私はリエル。私は主たる貴方様に永久に忠誠を誓います。》
ははっ…大袈裟な…
(で、どうしようか?ギフト)
俺は本題を切り出す。
《そうですね…ユニークスキル【無心者】をユニークスキル【虚無者】に変えていただきましょう》
(どういう能力だ?)
《全てを無に帰す能力ですね》
説明足りねえだろ。
というか、こいつ何か人間味溢れた声に変わってるような気がするんだが。まあ、悪いことではないだろ。
《次ですね!…えーと…》
(やろうと思えば何でもできるようになりたい!)
《……もうなってますよね?》
それからしばらく俺とリエルのギフトを選ぶ作業は続いた。友達がいなかった俺からしたらとても楽しい時間だった。
「あら、決めたのね」
「おう!!」
「じゃあ、何にするの?」
「それは───」