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0・序章

 

 壁、天井、床。その建物を構成するあらゆる要素全てに破壊の痕跡が刻み付けられ、調度品や扉の残骸など、可燃性の素材で構成された物体は残らず火が包まれている。

 炎の中には赤く染まった衣服を身に着けた幾人もの人間が倒れ伏しているが、壊れた人形のように不自然に四肢を投げ出し、不快な臭気を含む煙を上げて燻るそれらに、もはや生死の確認は必要ない。

 まさにそこは、地獄を思わせる凄惨な様相を為していた。

 そして、己の身が焼けるも気に留めず炎の中を闊歩する人とも獣とも判別つかぬ異形の影が、景観に狂気を孕んだ凄惨さを添える。

 あるものは一心に屍を貪り、またあるものはただ破壊を繰り返す統一性のない異形の者共は、何故か皆一様に小柄であり、人でいうならばまるで幼い子供。その事実もまた何か、不快な狂気の存在を匂わせる。

 そこは凡そ、まともな人間の生存者が存在するとは思えない空間。

 しかし、その地獄の中に炎を切り裂き、駆け抜けていく正常な人間の影が二つ。

 細剣を持ち前を行く、周囲を取り囲む炎のように赤い髪の男、そして短槍を構え男にぴったりと追従する、炎の赤に照らされてもなお暗い闇の如き長い黒髪の女。

 対照的とも見える二人だが、双方ともに人の耳にあたる部分が毛に覆われ尖った獣の耳のような形をしているという身体的特徴の共通点がある。これは、二人が一般に「獣人種」と呼ばれる種族であることを表している。


 「そこ、右だ! 」

 「ええ。後ろからも」

 「手負いだ。無視! 」


 種族の特性である鋭敏な感覚を駆使して駆ける二人は、地獄じみた景観には目を留めず、立ちふさがる異形の者共は容赦なく斬り伏せ、速度を緩めることもなく奥へ、奥へとひたすら駆ける。

 半ば崩壊した壁を潜り抜け、行く手を塞ぐ瓦礫や死体を踏み越え、奇跡的に機能を保っていた扉を斬り、蹴り飛ばし、辛うじて息のある半死人が異形の手にかかり死にゆく様にも一瞥もくれず、先へ。

 やがて、火の手が回り切っていない区画まで到達したとき、前を走る男が唐突に足を止めた。追従する女も即座に停止。視線の交錯で瞬時に意志疎通すると、女は後ろへ体と短槍の穂先を向け、男は薄暗い前方突き当りに存在する重厚な扉へとゆっくりと接近する。


 「……チッ、やっぱ魔術的に施錠されてやがる」

 「ま、聞いてた通りね。じゃあ、早めによろしくね」

 「鍵が情報通りならな。つか、一匹も通すなよ? 」


 軽い調子で二人が言葉を交わした瞬間、凄まじい破砕音と共に異形の者共の獣めいた声が雪崩れ込んできた。


 「来た来た、来やがった」

 「来ちゃったわね」


 獣人種の鋭敏な聴覚は十数の異形共の荒々しい接近音を感知していたが、二人に焦りや恐れの気配は無い。

 余裕すら感じられる好戦的な笑みを浮かべた男が扉に手をかざすと、接触点を中心に葉脈のように光の筋が扉に走る。女が優雅に短槍を構え直すと、その穂先に炎が生じ、渦巻く。

 それは、大気中に無数に存在するマナを体内で魔力として練り上げ、あらゆる奇跡的事象として発現させる技、「魔術」を二人が行使した証。

 渦巻き、凝縮され、さらに猛る炎は凄まじい熱量を短槍に与えながらも、術者の女に完全に制御されている魔術は、ついに姿を表した異形共が一瞬身を縮める程の圧力を放つ。

 男はもはや背後を気にする様子もなく扉に向かい合い、女は冷徹に炎の槍を振りかぶる。

 魔力を、ひいては魔術を扱えるか否で生物として隔絶した差が生じる世界の理を無慈悲に突きつけるかのように、荒々しい焔が爆発し、異形共を一瞬で呑み込んだ。


 ────

 ─── 


 「開いたぞ! 」

 「遅くない? 」


 扉が開き、男が振り返ると、そこには黒く焦げ細切れになった残骸の山と、警戒を続ける女の姿のみがあった。当然のように女は無傷。

 しかし、遠方には未だ異形の息遣いが感じられる。必要以上の軽口は叩かず、二人は扉の先へと身を滑らせる。


 扉の先は、凄惨現状の外部と扉一枚で繋がっているとは信じがたいほど穏やかな空間となっていた。

 柔らかな照明に照らされた汚れの一つもない白い壁、上質な敷物にソファーやベッド、可愛らしいぬいぐるみ。

 そして、ベッドにて二人の少女が微睡んでいた。

 燐光を纏っているかのように輝く白金の髪の少女、そして黒曜石を梳いたかのような艶やかな黒髪の少女だ。双方とも、幼いながらも整った顔立ちに、白金の少女は長く尖った耳、黒髪の少女は頭頂部からのみ赤と青の髪が伸びているという、特異な身体的特徴を備えている。

 齢は十代前半といった所だろうか、部屋へ入ってきた二人の気配に目覚め、寝ぼけ眼を擦る姿はひどく幼い。

  男と女は、入り口であり唯一の出口でもある扉への注意を払いながら、少女達──今回危険を冒してまでこの壊れかけの建物最深部まで突入した理由たる二人へ近付く。


 「お前ら、名前は? 」


 ぶっきらぼうな男の問いに、二人の少女は不思議そうに顔を見合わせる。

 その姿は、目の前の人間に戸惑っているようでもあり、何かに悩んでいるようでもあった。

 やがて、合点がいったかのようにやや明るい表情で、二人は互いを指差す。


 「ユウナ」

 「と、レナ」


 黒髪の少女は白金の少女を指差しながら呟くように言い、白金の少女──ユウナと呼ばれた少女は頷きながら、黒髪の少女をレナと呼ぶ。

 互いの名を呼ぶと何が楽しいのか無邪気に微笑み合う少女たちの姿に、男と女は一瞬、柔らかく微笑みかけたが、扉を振り返り表情を引き締め直した。


 「……なあ、お前達はここがどこだか知ってるのか? 」


 唐突で不自然な問いに二人の少女はやはり顔を見合わせるも、今度は直ぐに首を振った。

 男は答えを予想していたかのように、動ずることもなく頷き、二人の頭を撫でる。


 「じゃあお前達自身のこと、名前以外にさ。親とか、家とか、知ってるか? 」


 次の質問も明らかに不自然であり、やや焦ったように早口だっだが、二人の少女は真剣に顔を見合わせて考え込み、やがて俯いた。


 「……わからないです」

 「……わたしも」

 「そうか、わからないか……いや、気にするな。お前達は悪くない」


 男は言い聞かせるように少女達の頭を撫でると、徐に立ち上がり、扉を警戒していた女を見る。

 視線での会話、すぐに頷き合った。


 「じゃあ、お前達をここから連れ出す。ついて来たいなら来い。嫌っつっても一応外までは連れてくけど、どうだ? 」


 今度は質問の形を成しているだけの有無を言わさぬ言葉の投げかけだった。だが、二人の少女は驚いたように一瞬互いの顔を見、堪え切れないように笑みを零すと、嬉しそうに頷いた。


 「よし、十分だ」


 男が満足そうに笑うと同時に、何者かが扉を暴力的に叩く音が部屋に響き渡り、男が剣を構えて足を踏み出した。

 女は少女たちの前に立ち、追従した。その後の光景を少女たちに見せぬように。





はじめまして。しぃと申します。

創作意欲が湧き出して書き始めました。

初めての投稿で拙い文章であると思います。誤字脱字、おかしな点など遠慮なく指摘していただければ嬉しいです。



というのが、最初書き出した時の言葉。この話は、一度ある程度まで書いて投稿していた作品を一度頓挫して書き直したものです。

だから何だという拙い文ですが、最後まで書ききるまで続けるのでよろしくお願いします。

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