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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

逆ハー主人公に百合的な意味で襲われた件~その2・波乱編~

 はっとマイ・レールフィン(女)はベットで目を覚ました。

 酷く恐ろしい思いをして、昨日は疲れ果てて家に帰ってからそのまま眠っていたのだ。


「……女友達がいきなり告白してきて、しかも幼馴染の男も含めて……おかしい。傍観者というちょっと巻き込めるかもしれないけれど、平穏な立場だったのに」


 一応マイも女の子であるので、イケメンにこう、口説かれたり色々するのは少しだけだが憧れがある。


 だが待って欲しい。


 女友達にキスしていいとか、心と体が欲しいの、とか迫られるっていうのを百歩譲って良いとして、その彼女が逆ハーレムな子なのは明らかにおかしいとマイは思う。


「しかも私のために男を口説いたとか、考えれば考えるほどわけが分らなくなってくる」


 加えて、幼馴染の明るいリオ君まで、実は腹黒とか……これはもう人間不信になるレベルである。


 そう思いながら、マイは自分の胸を触ってみる。

 それほど大きくないが、見た目では分る程度の成長は見せており、傍の鏡を見るとどう考えても見かけは普通の女の子だ。

 ちなみにマイを襲おうとしたアリアは、少なくともマイよりは胸が大きく女の子らしい可愛い子だった。

 この子なら、色々な男が近寄ってくるのも仕方が無いなという容姿で、性格も良かった――少なくとも、マイがそんなある種の羨望を抱いてしまうような素敵な親友だったのだ。

 

 そこである恐るべき可能性にマイは気づく。


「……アリアが口説いたイケメン集団に、私、このままだと嫉妬に曝されるんじゃ……」


 そのイケメン集団が、アリアを巡って密かに対立しているのは有名な話。

 もしかしたならそう対立するようアリアが仕掛けていたのかもしれないが、それは良いとして。

 つまり、見掛けが良くて、頭脳明晰で、お金持ちでetc.……といった彼らに物凄く恨まれた挙句、


「それこそ、この泥棒猫が、とか、寝取り女とかそういう事になるという……イケメンに罵倒されると?」


 それだけで済むのだろうか? もっとこう、恐ろしい事になる可能性だってあるとマイは気づいた。

 例えば、R15位で説明できないような事態になると?

 その想像に、もう何も考えたく無いよ! と心で血の涙を流しながら、マイは窓を開けて風を感じようとカーテンを少しめくり……すぐさま光の速さで元の状態に戻した。

 

「わ、私は何も見なかった。うん、何も……別に、家の前でアリアとリオ君が仁王立ちしていたとかこれは夢、そう夢だし。うん、きっと昨日からの出来事は全部夢だったんだ」


 あははと現実逃避するように笑ってから、マイは真っ青な顔で時計を見る。

 もう支度をしないといけない時間だ。


「……別に、玄関から学校に行かなくちゃ行けないわけでもないものね」


 そう小さく呟いてマイは憂鬱そうに、のそりとベットから起き上がったのだった。





 時刻はマイが外に出る数分前。

 マイの家の前で、アリアとリオがばったりと遭遇した。

 そしてお互いはお互いの顔を見た瞬間嫌そうに舌打ちをしてからアリアが、


「こんな所で何をしているのかしら、性根の腐った男が。私のマイに何の用?」

「ははは、脳みそが腐ってとろけ落ちている女には言われたく無いな」


 会った瞬間憎まれ口を叩いたアリアは、速攻でにこやかにリオに返された。

 それから暫くの沈黙後。

 ああ嫌だわと小さく呟いてアリアは、


「気持ちの良い朝が誰かさんのお陰で不快だわ」

「だったら帰っていいぞ、俺はマイと登校するから」

「冗談でしょ、この羊の皮を被った狼が」

「羊どころか、愛玩動物の猫の皮をかぶった狼に言われたく無いな」


 そこで、ふんとお互いがそっぽを向く。

 向いてから、時計を確認して、


「そろそろ起きてくれないかしら。入り口付近で、あの虫達が煩いのよね」


 それは最近このアリアが口説いていたイケメンの風紀委員達のことだとすぐにリオは分った。

 だから、皮肉もこめて、


「自分から口説いたくせに」

「別に、あいつ等の考えている事なんて手に取るように分るもの、私」

「へー、どうして分るのかご教授願いたいね、反面教師として」


 嫌味と、このアリアの手管に飲まれないようにするには聞いておいたほうが好都合だと思いながら、リオがアリアに聞く。

 その打算が分らないアリアではなかったのだが、 


「私がマイにしたい事を、あいつ等考えているんだもの」

「俺のマイに近づくな、この変態!」

「なによ! あんただって、マイでよからぬ妄想をしているんでしょう!」

「俺は良いんだ! ……まあいい。昨日の今日だ、マイを怯えさせないようにしないと」

「そうね。所でまさかあんたがマイのファーストキスの相手だったりしないでしょうね」

「そうだが何か?」


 アリアが沈黙し、リオが得意げな顔をした。

 幼い時に、リオ君のお嫁さんになるとキスされたので、子供の頃の約束だからあまり深く考えるものではないが……キスはキスだ。

 そこでアリアがぶるぶると震えて、


「私はまだ一回もマイにキスしていないのに! もういいわ、マイの可愛い寝顔を堪能しながらその唇を奪ってやるわ!」

「マイの部屋は二階だぞ! どうやって行くんだ!」

「カギ縄はいつも持ち歩いているから大丈夫よ!」

「用意が良いのは分ったが止めろ! これ以上マイを怯えさせてどうするんだ!」

「く、仕方が無いわね……」

「じゃあ俺はあそこの梯子を使って、マイの寝顔を堪能するから」

「ふざけないでよ! この……窓の開く音?」


 それが玄関と反対方向でして、そして何か大きなものが飛び降りるような音と、駆け足でその場を去る音がした。

 それにアリアとリオはお互い顔を見合わせて、走り出したのだった。






「くくく、計画通りだわ。気づいていなくて学校に遅刻するが良い」


 マイは、塀の上を小走りに走りながら、学校へと急ぐ。

 遅刻しそうな時の最短ルートという裏道。

 これならあの二人も気づかないだろうと高をくくっていたマイは、道に出た瞬間にこやかにアリアとリオに迎えられた。


「「おはよう、マイ」」

「な、何でこの道が」

「窓を開けて誰かが出る音がしたし、愛するマイの気配がしたから」

「マイと一緒に良くこの道俺は使っただろう? 俺は幼馴染なんだから」


 そう答える二人に、マイはじりっと後ずさりして、


「もう、いやぁあああああ」

「「マイ、待て!」」


 手を伸ばされるも、なりふり構わず、マイは駆け出したのだった。






 入り口付近の、風紀委員のイケメン達の視線が凄く冷たい、そうマイは思った。

 おかしい、まだ昨日の今日で、あそこは空き教室で人が少ないはず。

 だから、あの昨日アリアに襲われた件は、まだそんなに気づかれていないというか、きずかれる要因は無いはずだ。

 なのに上から下まで値踏みをされるようにじろじろと見られているこの感覚はなんだろうと、おそるおそるそのイケメンで堅物で頭脳明晰な風紀委員長クランに、マイは、


「あの……私、何かしたでしょうか」

「よく見ると可愛い気もするが地味な女だな」


 きつい事を言われて、マイは、はうっと思って、何でそんな事を言うんだろう、気にしているのにとちょっと涙目で言うと、その風紀委員長はふっとマイから目を逸らした。

 そんなに見るのも嫌だって事ですかとマイは思っていたが、実は、このクラン、このマイみたいな子の方が好みで、ちょっと耳を赤くしていたのだが、状況が状況だけにマイはまったく気づいていなかった。

 とはいえこの風紀委員長のクランも、アリアの逆ハーレムの一員だったのだが。

 なので少し気に喰わないという感情でそう言ってしまったクランが後悔をしていると、目の前でマイがアリアに抱きつかれた。


「マイ、おいていくなんて酷いわ」

「ひいいいいいい」


 頬を染めて恋する乙女のように、アリアはマイに抱きついてそのまましなだれかかる。

 それに、化け物か何かと遭遇したような悲痛な悲鳴をマイは上げる。

 この風紀委員たちに呼び止められたせいで、マイは追いつかれてしまったのだ。

 マイはアリアにぎゅと手を握られて、空いている片方の手でアリアはマイの首筋を指でつうとなぞる。


「マイ、綺麗な肌してる。私、跡をつけていいかしら」

「な、何の?」

「唇の」


 想像を超えた何かを言われて、マイは考えられなくなる。

 唇でつけるそれは首筋のキスマークで、意味はこれは私のものと示すようなそんな感じだったはずだとマイは思い出す。

 そこで今度は、マイは耳元でふうっと息をかけられて、びくっと震えてしまう。


「……マイ、可愛い。これだけで感じてしまうのかしら」

「あ、あの周りの視線もなんだか生温かくて嫌なんだけれど」

「別にいいじゃない。これで私達がそういう関係だって皆に知らしめたわけだし」

「いやぁあああああ」


 私は男が好きなんです! とマイは叫びたかった。

 そこで、風紀委員長のクランが、気の毒そうな表情でマイにある紙を見せてくる。

 それは校内の新聞だった。

 そしてそこには、盗撮のようなアングルで、いかにもアリアにキスされそうなマイが映っていた。


「これ、は……」

「不純同性交友は禁止だと言いたかったのだが、この前つけていた時もそうだったのだが、段々私は気の毒になってきた」

「……つけてってどういう事ですか?」


 誰にも気づかれていないと、せいぜいリオとアリアしか知らないだろうとマイは高をくくっていた。

 けれど今の発言から、アリアの逆ハーレムは、アリアがマイに手を出そうとしたことを、下手すると全員知っている事になるという、限りなく黒に近いグレーのような可能性について、マイが微かな希望を持ってその風紀委員を見上げると、彼は本当に気の毒そうな顔をして、


「いや、アリアに口説かれたこの学校のイケメン達、私も含めてだが、よくアリアをこっそり追いかけていたのだが……このような場面に遭遇してしまって。一応確認をと思ったのだが……」

「この紙、頂けますか?」

「どうするんだ?」

「……八つ当たりしてきます」


 そう答えて、それに何かをクランやアリアが言う前に、マイは一人駆けて行ってしまったのだった。






「新聞の、これ書いた奴何処だ!」

「あ、いらっしゃい、私です」


 現れたのは随分と綺麗なお姉様風の女性だった。

 ちなみにその人しかこの部屋にはいなかった。


「私はミサキと申します。それで、マイさんは少しよろしいですか?」


 さらさらの長い黒髪の、そんな彼女はマイが部屋に入ると、すぐさま壁に押し倒した。


「待っていたわ。きっとこれを書いたら貴方ならここに来るだろうと思って」 

「え?」


 うっとりとした表情で、ミサキはマイの頬を撫ぜた。

 そしてマイは昨日のトラウマが蘇る。

 ぞわりと背筋に駆け上がる悪寒。

 待って、待て、この状況は明らかにおかしい。

 そんなマイの焦る様子を楽しむかのように、ミサキは微笑み、


「貴方がいけないのよ。こんなに魅力的で、女を惑わす魔性の魅力があるんですもの」

「し、しらな、というかそんなものあってたまるか!」

「まだ気づいていないのね……貴方が一体どれほど罪深い存在なのか」

「い、いやいや、その発言はおかしいかなって」

「ずっと……私見ていたの。でもすぐ傍に、あの憎らしい逆ハー女のアリアもいるし、怖いリオ君もいるし、ずっと高嶺の花だと思っていたの」


 囁くように甘さと熱を含んだ声でその黒髪の女の人は、するりとマイの腰に手を回す。

 ぞわぞわとマイの体に寒気が走る。

 そしてそのままくいっとミサキはマイの顎を持ち上げて、優しげに微笑み、


「怖がっている貴方も可愛いわ、キスして、それ以上の事がしたくなる」

「ひいいいい、待って、なんで……」

「自分の心に私、嘘がつけなかったの。昨日も貴方をつけていて、あんなシーンに出食わしたから、私も思いきって襲ってもいいかもって」

「思いきらなくていいです! もういやぁあ」

「……可愛い声、でも、そんな事言えなくなるように、まずはこの可愛い唇を塞いであげましょうね?」


 そう言ってミサキの顔が近づいてくる。

 唇を塞ぐってそっちの意味ですか! とマイは絶望的な思いに囚われる。

 何で私、女にキスされそうになっているんだろう、そう切なげにマイが思っていると、


「そこまでにしてもらいましょうか」


 声が聞こえて、そこにはアリアとリオが冷たい目でこちらを見ていた。

 それにミサキは、


「やーん、時間切れね。また今度遊びましょう? マイちゃん?」

「お断りです!」


 拘束が緩んだので慌ててマイはミサキから逃げ出した。

 そして二人の元に行く。


 二人は無言のまま厳しい表情でマイを連れて来て、そのまま少し歩いたところで、壁に向かってマイを取り囲んだ。


「ふ、二人ともどうしたの? 顔が怖いよ?」


 その言葉に二人は嘆息してから、アリアは真剣は表情で、


「マイ、これで貴方が魔性だって事が分ったわね」

「ア、アリア、だってアリアみたいな人が何人もいるなんて思わない……」

「現にいたじゃない! 貴方には女を惑わす魅力があるんだもの!」

 

 そんなもんあってたまるか! という思いと、そんなものいらないわ! とマイは心の中で思っていると、そこでリオが、


「マイは無防備すぎる。もう少し自分の魅力に気づくべきだ」

「今まで全然モテなかったからそんな事言われても……は、これは私を騙すための盛大なドッキリ……」


 きっとそうに違いないと呟くマイに、リオが再び大きく嘆息して、


「そんな風だと、体でわからせるしかなくなるぞ?」

「この男に同意するのは癪だけれど、そうね」


 リオとアリアがぼそりと呟いた。深刻そうな表情で。

 けれど何処か劣情を秘めた瞳で。

 だから、その言葉が今までの比では無い重大な話だったので、マイの中で何かがぷつんと切れる。

 マイは、もういい加減耐えられなくなってしまった。


「もう、やってられるかあああああああ」

「「ごふっ!」」


 マイのパンチが炸裂し、リオとアリアが吹き飛んだ。

 そして、はあはあとと大きく息を荒げてから、ギラリとマイは目を見開いて嗤う。


「そうかそうか、そちらがそういうつもりなら、こちらも考えがあるわ。ぐふふふふふ」

「マ、マイ?」

「どうしたんだ、マイ」


 焦ったようにリオとアリアがマイを呼ぶも、マイは笑うのみ。

 それにおろおろするアリアとリオ。

 だがそんなものマイにはもうどうでも良かった。


 自分の身は自分で守るしかないのだと、ようやく分ったのだから。


 こうして、魔性の女アリアをも虜にする化け物と陰で噂されるマイの存在が、ようやく芽吹き始めたのだった。


 



[おしまい]

リクエストがありましたので、続きです。ちょっと百合成分が少なめです、ごめんなさい。


楽しんでいただければ幸いです。


追記:誤字脱字を修正しました (*´∀`)ノ

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