俺が不完全な故に
魔力は全ての生き物なら持っているモノだ。
俺はただそれを持ちすぎたために何にも触れられなかった。
形を崩してなくなる。
全てが散りとなり消える。
あの魔女に魔力を全て対価として渡したのは別に構わない。君に声が戻り、不足した肉体は俺の魔力と魔女の力で形作られている。
だから、俺の力に馴染みやすく、傷の治りも早くなる。
「なんだい。君の彼女はいいのかね」
「仕事中だ」
「君は堂々とサボっているな。ああ、依頼を受けていないだけか」
キュッキュッと鳴砂を鳴らしながら海を覗き込む。
「接触したらしいじゃないか。まあ、空気の読めない赤灰の魔女にも困ったものだ」
突然に俺の砂姫に触れて迫るような男に近付かさせたくないが、鎖が切れないと意味がない。
「正直に話そう。君達ばかりに得がある訳ではない。私はちょっと向こうの魔女に嫌がらせがしたい。だから、君達には頑張ってもらいたい」
以前の魔女によって縛られた鎖に近いモノを壊さなければ砂姫は完全な肉体を手に入れられない。
「向こうの王子様とあの女を苦しめられれば私としては上々」
口を歪ませて笑う魔女は歪んでる。
「…私は君達の幸せも願っている。幸せになるがいいさ」
はは、と軽い調子で笑いながら海に落ちていく。音も立てずに消えていく様はまるで昔に俺が壊してきたモノと一緒だ。
気味が悪い。
「まぁいい」
俺が砂姫に触れられるのは、俺が魔力を失ったからだ。魔力がないだけで後は変わらないが、それだけでも俺は砂姫を傷付ける。
「…」
自分の手が砂姫の肌に痣を作り傷付ける。いっそ、半分くらい持っていけば良かっただろうとか思う。
砂姫は魔力耐性だけは格段にあがり、魔力も増えただけに威力も増したみたいだが、それだけだ。
「戻るか」
今日は魔女に会いに来ただけで他に用なんてない。
砂姫を迎えにいこう。また、変な男に絡まれていたら今度は何をするかわからない。
「待ちなよ」
波が岩肌の砂を攫う。
振り返れば黒髪の生意気そうな面した一人の人魚が両腕で石にしがみついて上半身を出していた。
「アンタが水姫を助けたサメか?」
昔はよく聞いた名だ。
それだけなら無視したが、それは砂姫が魔女に奪われた名。
まぁ、名前なんてどうやって奪うのかはわからないが、確かに砂姫の以前の名だ。
確か砂姫には三人の姉がいたと噂で聞いたな。名は確か名前は…忘れたな。
大して興味もないし、今更会ったからといって砂姫に会わせたくない。
会わせてやるものか。
早く帰らないと。
砂姫が仕事を終えてしまう。その前に行って一緒に家に帰らないと、あの男にまた捕まってしまう。
「待ちなさいよ、待って!」
バシャバシャと水を叩きつける音が聞こえるが無視した。
「せっかく白金の魔女から聞いたのにっ!」
さっき海に消えた魔女を思い出した。
とりあえず、砂姫には報告だけしておこう。ベッドの上でゆっくり。




