俺はこんな些細なことでも幸せを感じる
ふっと笑みがこぼれる。
砂姫はなぜ、あんなに可愛らしいのだろう。
俺のことでからかわれた砂姫は顔を真っ赤にさせて口ごもる姿。
口を尖らせて拗ねてしまう姿、こくりこくりと眠気に襲われる姿、花を愛でる姿。
上げたらきりがないほどだ。
「砂姫」
名前だけで幸せを実感する。それが、魔女に名付けられた名前でも、今の彼女は俺だけの砂姫。
「氷雨様」
その声も笑みも好き。
俺は水やりを終えたばかりの砂姫を引き寄せて抱き締める。
そっと優しく、壊れないように壊さないように、優しく包み込むように、痛くないように、極力気をつくて腕の中にとらえる。
「あ、あの…ひ、氷雨様?」
「少しだけなぁ。少しだけ」
本当は一生とらえておきたい。
誰の目にも触れない場所で二人きりがいい。
俺だけの砂姫。俺も砂姫だけの俺でいる。だから、君は誰も見ないでほしい。それが
無理なのはわかりきっている。
普通に生活するなら、人との関わりはかかせない。俺達に出来ることは限られている。
「愛してる、砂姫」
「ひ、氷雨様」
顔を上げた砂姫は頬を染めて目を潤ませていた。
正直、誘われているようにしか見えないが、砂姫を送ってから仕事をしなくてはならない。
まあ、唇を奪うくらいはしても良いはずだ。
「あっ…」
離れがたい。
名残惜しいというように漏れた砂姫の声を聞いて自分を押さえきれなくなりそうになる。
「わ、私、準備してきますね!」
さらに顔を赤く染めた砂姫は道具を素早く片付け家に入っていく。街から離れたここには人目はないが、恥ずかしかったのだろう。
準備の出来た砂姫の荷物を持ち、手を繋ぐ。魔物も滅多に道なりにはいない。何より、俺がこまめに排除しているから特に問題もない。
遭遇したら威圧すれば良いだけの問題だ。
この辺の魔物は簡単に逃げていく。
街に入るとちらほらと声をかけられる。それに砂姫は頬を染めながらギュッと手を握りしめてくる。
恥ずかしいのだろうが、離されることがないのが嬉しい。
「氷雨様、怪我をしないように頑張ってくださいね」
「ん、砂姫もな」
するりとほどけた指先が名残惜しいが、稼がないと食費も日用品も買えない。いや、主に食費がない。
食事は薄味だが量が量のために結構必要なのだ。
食べる量を少なくしたら腹が鳴って仕方なかった。
「迎えに行くから、それまで大人しく待っていて」
「はい」
名残惜しいが仕方がない。砂姫の荷物を渡して見送ってから自分の仕事に向かう。
今日は街で商人の荷物を積む仕事がある。金払いもよく、昼には砂姫と一緒に食事が可能だ。
「おお、氷雨殿!」
砂姫が恋しい。
ふわっと自分から砂姫の残り香を感じて頬が少しだけ緩む。
ああ、幸せだ。
今日一日も頑張れる気がする。




