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泡沫の乙姫  作者: 飛白
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君の恋が終わった場所

 砂姫の為にこれから通る道にいた竜の亜種を倒そうとして一度吹き飛ばされた時に見えた。


 壊れた城に崩れ落ちた塔。瓦礫。歳月で緑がそれらを飲み込んでいく忘れ去られたような場所だ。それが、何なのかが俺にはわかった。


 此処は砂姫のいた場所だ。

 川が流れ、橋があり、遥か上流にある国は砂姫が恋を終わらせた場所。俺のモノになる前の砂姫が人として短い時を過ごした国だ。


 思ったより時間が経っていたのか。

 いや、そんなことは関係ない。


 砂姫に言えるはずがない。

 このことを胸に秘めておく。だが、あそこで探さなくてはならない物が一つだけある。それはどうしても俺が欲しい。

 いや、俺のモノだ。


 後で探しに行こう。

 王都についてからでも構わないだろう。


 まずは売りさばいて、砂姫と旅の疲れを癒やしてからゆっくり見物して、頼まれた物は最後の方がいい。ああでも、あの王子がいるような場所に砂姫一人だけは色々と危ないな。


 どうしたらいいか。


 腕の中の温もりを手放したくはない。

 柔らかな感触にずっと触れていたい。

 本当は片時も離れたくない。


 今が幸せなんだ。

 この幸せを今、手放しても手に入れることはない。だが、あれは俺のモノだ。


 俺が持つべき物だと本能が知っている。

 欲しくてたまらない。


 渇望だ。


「やはり、キミだったのか」


 不意に聞こえた声の主を睨みつける。勿論、それが誰なのかなどわかりきったことだ。


「なんのようだ、魔女」

「キミが私のペットを殺すからいけないのだよ。まあ、老竜だったので仕方のないことだと諦めることにしたのだが、やはり残念だ。彼とは長い付き合いだったのだから」


 砂姫を抱きしめ直し、魔女を見れば俯いて口を堅く閉ざしていた。その瞳は何を考えているのかわからない嫌に輝く金だけ。


「正直、あの場所には行かないほうがいい。もう何千と大昔のことだ。キミの探し物なら私が今、持っている。代わりにだが、あの場所には近付かないでくれ」


 スッと差し出してきた手のひらには一粒の美しい真珠。普通の真珠ではなく魔力を含むそれは確かに砂姫のモノ。


「約束してくれるだろう。片時も離れたくないというなら私の条件を受け入れるべきだ」

「わかった。もう行く必要もないからな」


 魔女はそれを布で包み、巾着に丁寧にいれると俺に渡した。そっと手につかんだそれをぎゅっと握る。


「キミ達の旅の無事を祈るよ」

「…早く行け。俺の砂姫を見るな、減る」

「キミは言うことが辛辣を極めていくな」


 話していて砂姫が起きてしまったらどうする。月明かりに照らされた魔女は不適に笑うと闇に紛れるように溶けていく。


 いや、闇というよりも周りに溶け込んだ。暗闇でもよく見えるが、魔女は本当に溶けるようにいなくなった。


 視線を砂姫に移し、香りを吸い込む。


 埋まらない。


「砂姫」


 多分、一生埋まらない。

 満たされているはずなのに、渇く。


 不安になる。

 あの時、食べてしまったらきっとこんなことはなかった。ずっと砂姫が泡のままならこんなことはなかった。


 離れてしまったから不安でいっぱいになり、またこうして知り得なかった幸せを噛みしめられる。


 砂姫を愛し、愛され、育む。

 一緒に学ぶのは楽しく嬉しいことだ。


 だがそれが辛くなる時があるのだ。辛くて仕方がなくなることが、ある。


 無知であることはいけないことではない。

 ただ虚しくなるのだ。



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