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泡沫の乙姫  作者: 飛白
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俺は恋に落ちた

 それは食欲に似ていた。

 食べたいと思った。


 力が強く周りを蹴散らすだけで、何も与えることなく破壊するだけの害しか与えない存在がこの俺だった。


 生まれながらに身体が強く、力に溢れた俺は気が付けばいつの間にか独りだった。

 周りとは違う。だから、何も与えられないものだと思った。


 俺は鮫だった。

 普通ではない鮫。


 本来持たないはずの力を持った俺は遥かに可笑しかった。

 だからこそ、愛せないモノを愛したのかもしれない。


 美しい人魚。

 緑の黒髪に瑠璃色の瞳。美しい深緑の鱗に尾鰭。


 いうなら一目惚れ。


 だが、感じたのは食べてしまいたいという欲求だった。手に入れたいが、俺にはその方法も手段もわからなかった。


 食べたい。

 だから、食おうとした。


 見失い探したが見つからず、往生際が悪くずっと探し続けてついに見つけた。


 それは小さな泡。

 それが彼女だという確信は何故か持てた。


 大きく口を開けて食らう。

 それからはずっと一緒。


 見えないだろうと思ったが、美しい海を泳ぎ、語り掛けた。


 心の中でずっと。


 姿が変わっていようがいないが、俺には関係ない。ただ、彼女が欲しいと思ったから、姿形の問題じゃなかった。きっと初めから関係ない。


「んむ」


 ムギュと小さく慎ましい柔らかな胸を押し付けて眉間にシワを寄せた砂姫。嫌な夢でも見ているのかと抱きしめ直す。


 スヤスヤと規則正しい寝息を立てながら柔らかな表情に戻った。


 無理をさせていると思うのは多々ある。腰が痛くて動けないと恥ずかしそうに頬を染めて可愛らしいこちらを窺う。

 まあ、俺のせいだから色々と世話を焼くんだが、料理はろくな物は作れないし、何もしてはやれないことが多い。


 人になったからといって力が弱くなったわけじゃない。魔力がなくなったのは有り難いがやはり、そんな制御すらわからない力と一緒にこの手加減すらあまり出来ない力も持っていけばよかったのに思う。


 身体が頑丈なのはいいが、力が強いの駄目だ。砂姫が傷つく。

 手加減は苦手だからどうしようもない。


 触れたいという欲求は強い。

 だが加減を覚えるのは苦労した。でも、ふとした時に力加減が出来なくなる。


 砂姫の身体に痣や傷が出来るたびに俺は怖くなる。触れることは止められない、傍にいることも止められない、全て止められない。


 それでも砂姫は俺から離れない。

 愛していると言うように傍にいて、求めてくれるから、どうしようもなく、止められない。


「砂姫」


 ギュッと抱き締めて暖かな温もりと柔らかさを感じると愛しいと、壊したくないと、思う。


 君は美しい。

 全てを捨てて求めるには充分すぎるほどに命を差し出し愛を乞うに相応しい。


 悪いが砂姫を振った王子様には感謝している。俺の元に来て俺を愛してくれる。


 今はこうして触れ合い愛し合える。


「愛してる」


 ふわりと俺の言葉に応えるように微笑み擦り付いてくる。


 俺のこの腕の中で永遠に生きていればいい。今度は目移りも何もさせてやらない。俺以外の男に今度は目移りする暇など与えてやらない。


 俺を真っ直ぐ愛してくれる。

 砂姫はもう誰のものにもならない。


 永遠に俺だけのもの。


 人間がいう“命愛”の人。

 “真愛”でも“虚愛”でもない。


 魂から惹かれ合うが、一度見逃せば手に入らない運命の最愛の人。



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