君がいなきゃ嫌だ
砂姫と離れるなんて有り得ない。
だから、それは断った。
「良く良く考え直してくださいませんか、氷雨殿」
「知るか」
長期でやる仕事は受けない。護衛の仕事もしない。いくら金が良くても絶対に受けない仕事だ。
考えて見ろ。
もし、もしも俺が受けたとして、俺のいない間に砂姫に何かあったら、俺は俺を許せない。というより、俺の中に砂姫と離れるということがあり得ない。
朝に別れて最低夕方にはもう会わなければ狂いそうだ。たまに昼に顔を眺めていたりもするが、基本は砂姫と一日以上に離れるなんて、考えられない。
「お願いします!」
砂姫は美しく、綺麗で、儚いのだ。
目を離せば消えるのではないかと、不安に駆られて取り乱すことはもう止めたのだ。
だが、長い時を離れる気はない。
「どうかなさったんですか?」
帰り支度を済ませた砂姫が不思議そうに俺にしつこくついて来る男を訝しむように見つめ、俺に駆け寄ることなく眺めた。
舌打ちをしたいところだ。
「砂姫」
歩み寄りぎゅっと腕の中に収める。すっぽりと大人しく収まる砂姫は頬を染めながらするりとすり寄り、微笑んだ。
「お疲れ様です」
「砂姫も疲れたろ。帰ろうか」
くるっと砂姫の向きを変えて歩くと戸惑いながらもついて来る。
ふわっと香る匂いにうっとりすると同時に不快な気分と嫉妬に駆られる。
鎖が邪魔だ。
鬱陶しい。
「あの、氷雨様」
「ん、何だ?」
まさか、勝手について来た奴のことじゃないだろうな。やっぱり始末しておくべきだったかと思っているのに砂姫はそんな俺に気付くはずもなく。
「新種の花を受け取りに行きたいのですが」
「うん」
「その、私と…王都まで行きませんか?」
砂姫とならどこにでも行ってもいい。
今なら結構な道のりになるが、二人旅ならば野宿なんてしなくてすむだろう。
「おば様達が、新婚旅行もかねて行ってみないかと仰って…い、いやなら」
「行く」
本当は行きたくはない。あの馬鹿王子が今いる場所に行くなんか危険に飛び込むようなもんだ。
まあ、行きたそうにしている砂姫の姿を見たらもう行くしかない。
「ほ、本当ですか?」
「あぁ、砂姫と一緒ならどこにでも連れてってやるよ」
今の時期は森を抜けるなんて結構な命知らずだけだ。しかも、何かを守りながらとかなら尚更だ。
二、三日は滞在するか。
初めてのことで疲れるだろうし、行ったら楽しみたいだろう。
「お待ちをっ、どうか我々と」
目の前で通せん坊する男を睨みつけた。
こいつ、殴って沈めるか。




