演目『愛とは何か』
「小生は――を愛しておる」
「キミは馬鹿だな、魔女に愛を捧げるなど。悪魔に魂を差し出す行為に値する」
穢れの知らない美しい白銀の髪が風にそよがれ靡く。感情のない端正な白い顔に付いた二つの太陽さえ霞むようか黄金の瞳と鮮やかな血色の厚い唇。
美しい絶世の美女が抑揚なく言い放ち嘲笑う。
「何とも私は陳腐な者になったものだ」
「うむ。小生はわりかし本気なのだが…顔が気に入らぬか、白金の魔女よ?」
「不思議な人間だよ、全くキミは。私でさえ忘れた名を何故、キミ如きが口にできるのだろうかね?」
その問いに困ったように顔を皺寄せる。眉間に皺を寄せ、眉を下げ、口を突き出し、鼻をぎゅっと前に突き出したような不思議な顔だ。
物腰はだらしなく、猫のように腰が丸まり重心はしっかりとしない。頼りない男は焦げ茶の髪に色濃いが澄んだ青の瞳をした気弱そうな人間に見えるが、腰に帯びた長い獲物で武人だと伺える。
「小生の名は蔵人。穴蔵で人として生を受けた身、狭い世界で小生の心を占めて病まなかった。この俺には其方だけが心の拠り所だった」
ギラリと妖しいほどに蔵人の青の瞳が煌めいた。鋭い眼孔が堂々と魔女を射抜く。
「塔に閉じこめられたキミが何故、私のことを知り得たのかが問題だ」
「母はこの塔は知りたいことは教えてくれると教えてくださった。確かにあの塔は古くから建ち忌み嫌われている。魔女狩りで滅んだ城の負の遺産」
情緒不安定。くるくると顔色が変わり、表情が歪む。
「そして、至宝の遺産。其方の妹君の日記こそがこの世で一番の宝だ。俺を愛に導いた」
「私が言うのは何だが、狂っているな」
顔色一つ変えなかった魔女が顔を歪めて吐き捨てた。本当に忌々しいと言うように妙に熱が入った言葉と瞳は焦りを隠せず揺らめく。
「あの人の日記を、キミが持っている?」
そして、嫉妬。
「何故、キミが持っている?」
或いは、悲しみ。
「あの人は、日記を付けていた?」
若しくは、寂しさ。
「私に内緒でそんなことをしていたのか」
笑った。
嘲笑った。
「……キミは変わった人間だ」
「小生は所詮道具でしかないのだ」
「キミは人間だが、嫌いではない」
魔女はその男に背を向けた。
「小生の名は……俺の名は蔵人。東宮蔵人だ」
魔女は振り返らない。
日記の在処さえ問いたださなかった。
「小生の霊魂は常に其方の側に…絶対に離しはしないぞ、――っ!」
その叫びは魔女に届くものかはわからなかった。
それは許されるものか、許されないものか。
誰にもわからない。




