嗚呼愛している
氷雨様は美しい。
とても綺麗で素敵な人。
「ひ、氷雨様っ」
紙が潰れる音に青ざめましたが、直ぐに顔は熱くなり、身体は熱を帯びていく。
逞しい腕が背中に回され、私の腕は氷雨様に導かれるままに首に添えてしまう。
氷雨様の足の間に膝をつくような体勢の私の体は必然の氷雨様を胸に抱くようになっていて、騒がしく鼓動する心臓の音が聞こえているのかと思うと湯気がでそう。
「愛してるんだ」
何度も囁かれる愛の言葉は切なげで心臓が締め付けられるよう。
私は何かしてしまったのだろうか。貴方を不安にさせてしまうようなことをしてしまったのでしょうか。
「氷雨様」
私も愛しています。
素直に口にしたい。恥ずかしいけど、貴方を心からお慕いしていますと言ってしまいたい。
「砂姫」
言葉で愛を告げるのは酷く簡単で、それは確かに一番わかりやすい一種の愛の形。
ギュッと胸元に頭を優しく抱え込み、優しく髪を撫でるように梳く。
「私も愛しています」
言葉以外で愛をわからせるのは難しいと私は知っている。行動で愛を現すにはどうすればいいかなんて考えたことがなかった昔とは違う。
「…俺も愛してる」
触れ合えばいい。
ただ愛しいと想いながら抱き合うでも愛は確認できる。
触れているだけで幸せで仕方なくて、その手が優しく肌を滑るだけで愛しくて、拒絶がないだけで安心する。
ただ肉体を求めるだけでないその些細な触れ合いが堪らない。
「砂姫は温かいな」
撫でられる背にぞくりとする。
ぐりぐりと子供がするように胸に顔を押しつけられて私は微笑む。
私の前でだけは身構えないで無防備で幼い。
「私を見失わないでくださいね」
「当たり前だ」
私には勿体ないくらい綺麗で美しい。
隣にいて迷惑にならないだろうかと思うほど完璧に見えて、不安になってしまう。
私を見上げた氷雨様の黒い瞳と視線が交わる。優しいその瞳は嬉しそうに細められた。
「何も心配するな」
くるりと身体を回され背中に暖かい温もりと首筋に吐息がかかりくすぐったい。一瞬の出来事で本当に不思議だけど、氷雨様なら不思議はない。
「邪魔なものは全部、俺が片付けるから」
言葉と吐き出される息。
「ずっと傍にいてくれ、砂姫」
嗚呼、愛されているのだな。
そして私も愛しているのだなと強くそう思う。




