愛しても愛したりない
柔らかな温もりにホッとする。
俺は幸せ者だ。美しい妻を持ち、充実した生活を送っている。
成りを潜めたような俺の凶暴せいはやはりなくなるわけではなかったが、砂姫は俺を見捨てはしなくて嬉しくて悲しかった。
悲しくて仕方ないのに、心の奥底では舞い上がる程に歓喜している自分がいる。
「氷雨様」
「砂姫」
椅子に座り珍しく本を読んでいた俺を上から見つめる砂姫もなかなかに良くて新鮮で珍しく、ほっこりとする気がした。
ああ、幸せだなと実感する。
荒っぽい仕事しか出来ない俺の稼ぎはそこそこに良い。本当は砂姫には働いてほしくないというのが本音だが、裏方で花を育てている砂姫は絵になるし、それを制限したくもない。
送り迎えを毎日して変な男が寄っていないか見回りもしているし、偶に力仕事なら手伝いもしているが、心配だ。
周りも砂姫に変な虫が付かないように見てくれると言ったが、ほとんど女しかいない職場だ。
力強くで来られたらどうもできないだろなどと考える。あの王子のこともある。
「どうしたんですか。本をお読みになるなんて珍しいです」
「ちょっと、効率良く剥ぎ取れないかと思って」
そうすればもっと早く砂姫に会える。
愛してると囁いて、ずっと閉じ込めておきたいのに、それは出来ないから。
愛してるから出来ない。
俺が砂姫の自由を奪うことはない。何かを制限なんて出来ない。
愛してるから自由にあってほしい。
自分の意志で俺を愛してほしい。
「…剥ぎ取り」
目をぱちくりさせながら俺の読んでいた本をのぞき込んできた。図鑑もそれなりに高かったが収穫も多いから満足している。
初めて目にした討伐指定危険種図鑑を物珍しそうに見ている。後、保護指定絶滅危惧種図鑑や愛玩種図鑑など俺の稼ぎにもならない本もある。
本当は一冊だけで良かったのだが周りが煩く他の二冊も進めてきた。結局、二冊はタダで押し付けられ、本は半額で手には入ったから文句は言わなかった。
「このような本もあるんですね」
保護指定絶滅危惧種図鑑を手にした砂姫は楽しそうに中身を捲る。
「あ、これ、一度だけ見たことがあります。可愛らしい青い小鳥でしたが、私を見て猛獣みたいな目をしたんです」
聞き捨てならない話が聞けた。
呑気にやっぱり人魚もお魚ですからでしょうか、と苦笑している。それは見掛けしだい絞め殺そう。
「砂姫」
名前を呼ぶと本から俺へと視線が移る。手にしていた本を放り、砂姫の腕を掴み引き寄せれば、するりと本は手から簡単にすり抜けて紙が潰れる音がしたが構わず抱き締める。
「愛してる」
今は俺を見てほしかった。
昔を懐かしむような砂姫を見たくなかった。俺を知らない頃の彼女を見たくない。
「好きだ、大好き、愛してるよ」
ふと感じる。
なぜ、愛しても愛しても愛しても愛しても愛しても愛しても愛したりないのだろうか。
俺の気持ちは砂姫に正しく届いているのだろうかと、心配になる。
なぜ、こんなにも愛を現すのが難しいのだろうか。




