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泡沫の乙姫  作者: 飛白
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俺は人に在らず

 人間というわけではない。

 人の形をした生き物だ。


「歯、抜けた」

「えっ、だ、大丈夫ですか?」


 別に硬いものを食べた訳じゃない。ぽろりと取れた歯を手のひらに出す。


 砂姫の料理は美味い。

 海産類が多いが、最近は肉類もでるようになった。


 そのまま丸呑みだけが料理じゃないんだなと理解したのがこの形になってからだ。いや、むしろ料理という概念がなかった。


「生えてくるから、平気」


 抜けた位置を確かめるように舌でなぞる。

 砂姫は慌てるように確かめてきたがすぐにキョトンと目を見開き固まってしまった。


 意味が分からずに首を傾げる。


「は、生えてくるんですか?」


 恐る恐ると聞いてきて、まじまじと俺の手のひらの抜けた歯を見つめてちらりと俺の口元を見た。


「生える。砂姫は生えないのか?」

「生えませんよ。今ので一生物です」


 口元に熱心な視線を寄越す砂姫に頬が緩む。可愛い。

 真っ赤な唇の間にちらちらと見える真っ白な歯。


「…そうなのか」


 食事の支度途中にも関わらず、ずっと俺を見つめる。火は使ってないから危なくはないが、食べるのは遅くなるだろうな。


 手のひらの歯を窓からポイッと捨てようとしたら砂姫が慌てて止めた。


「貰っても構いませんか?」


 こんな物を貰ってどうするんだと思いながらも砂姫に上げた。すぐに水で洗い流し後生大事に両手で包んだ。


 不思議な気持ちと若干の不満。

 そこまで大事にしなくていいだろうと思っていると、砂姫は俺を上目遣いで見上げて可愛く微笑んだ。


「御守りにしますね」


 氷雨様といつも一緒にいられるみたいですよね、などと言う。そんな物がなくても、俺といつもいたいならずっと傍にいてやる。


 だがそういうと、砂姫は困るだろうし、あの魔女にも大いに馬鹿にされるだろう。


 仕事はまあ楽しい。

 たまに手応えのある奴はいるし、そういう話をすると、砂姫は目を輝かせて聞いてくれて毎度楽しみにしてくれる。


 仕事の最中に見つけた綺麗で美しい場所に連れと行けば無邪気に喜ぶ。


「氷雨様、無理しちゃ駄目ですよ。何か強くぶつけてとれてしまった訳じゃないんですよね?」

「ああ、違う」


 俺はそういう生き物なのだ。

 人間の姿形をしていても、人間ではない。


 それまでの性質が残っていたり、人とは違う。厳密には元の生き物に近い人の姿形をした生き物。


「支度しなくていいのか」

「あ、すぐに用意しますね!」


 いそいそと動く姿は可愛い。

 手伝うことはしない。下手に手伝うと余計な仕事が増える。


「いっぱい作りましたから」


 砂姫の料理は美味しい。

 正直、人の姿になってから余計に食欲が増えた気がする。



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