舞台『迷子の姉妹』
道に迷った。
その言葉は正しくはない。
「ねね、ちかへた」
「そうね、休みましょう」
妹は可愛い。
とても私に良くしてくれて、私を好いてくれる。無垢で無邪気、何も知らない幼い子。
近くにあった大きな石の上に座り、にこにこと微笑んでいる。私に隣に座りようにポンポンと自分のすぐ横を小さな手で示す。
横に座ると嬉しそうに拙い鼻歌を歌う。
「お家より良いところに行きましょうね」
あんな家に帰っても碌なことは起こらない。私にも妹にも良くないこと。
妹はまだ魔女がどんな存在なのかはわかっていない。
富をもたらすが、破滅も呼び寄せる。
どれほど隠しても魔女の異質さは感じさせる。だけど、魔女を殺そうなどとする馬鹿はいないはず。
なのだが、最近は危ない動きが多い。注意することに越したことはないはずだ。
「お菓子の家に住むのも良いわ」
「おかしっ!」
「そうよ。釜で美味しい焼き菓子を作りましょうね」
たくさん食べて、早く大きくなりなさい。
可愛らしく育てば、私はずっと味方でいて上げるわ。
ずっとずっと可愛がってあげるわ。
「きっと楽しいわ」
「うん!」
可愛らしい私の妹。
私とは似ても似つかない妹。
ギュッと手を握る。
家には帰れない。帰らない。
私には妹しか味方がいない。
頭の良くない妹だが、私には大切な妹。たった一人の姉妹、家族だ。
迷子のように森をさ迷う私達にはどんな場所が待っているのだろうか。このまま行き場所がなかったら、妹はどうなってしまうのか。
私がいないと妹はまだ何もできない。
無力で護るべき小さなただの人間の子供。
妹だけなら孤児院に入れるだろう。私は途中で気味悪がられる。大人ならばもっと自然に溶け込める気もするが、私は子供。
私が生活出来る場所で妹は生活ができるのか。
「きっと良いお家が見つかるわ」
「ほんとー?」
「ええ、私達にぴったりのお家があるわ」
そこで暮らそう。
両親には妹を育てる資格がない。だから、私が妹を立派な淑女に育てる。
「二人で仲良く暮らしましょうね」
妹に母親も父親もいらない。
私だけがいればいい。
「さあ、歩きましょう。ねねが抱っこしてあげるわ」
キャッキャッと楽しそうに笑いながら私の背中に張り付いた妹をおんぶして私は歩き出す。
背中の温もりが暖かく、心地がよい。
迷子のように、帰る場所を見つけるように、目的なく理想の家を探しに、妹と末永く暮らせる場所を探して私はさ迷う。




