貴方が死ぬ夢を見た
必死で腕を伸ばした。
そんなことは無意味と言わんばかりに砂姫の身体は海にへと真っ逆様に落ちた。
俺には触れられる腕も、駆け寄る脚も、掛ける声も、微笑む顔もなかった。
身体がない。
精神だけが宙をさまよい動けなかった。
だから、砂姫を助けることができない。目の前で見ていたのに、助けられない。
夢だと気づいた。
白金の魔女は人は夢を見ると言っていた。それは人が掲げる夢ではなく、寝ている時に見る夢。
釈然としない気持ちが淀む。
俺はこんな夢は望んでいない。
青い海にぶつかると同時に砂姫は泡となり、そのまま消え失せた。
砂姫っ!
ガバッと起き上がる。
汗が張り付いた衣類が気持ち悪いと思った。そして、隣で目を見開いた砂姫を目にして思いが溢れる。
腕を伸ばしてベッドに手を付き起き上がろうとした砂姫を抱き締めた。暖かくて柔らかく甘い匂いと死の香りがする独特の身体。
俺の愛する女。
「ひさめさま」
君がいる。
俺の腕の中に、生きて俺の元にいる。
「愛してる、砂姫」
夢は夢だ。
今の現状が全て。
確かにいる。
泡が消えてはいなかった。俺だけを愛してくれている。
俺以外の誰かを想い涙することはない。
「怖い夢を見たのですか?」
優しい声に導かれるように砂姫の顔を見つめた。心配がにじみ出たような微笑みは心地良く身体の張り詰めた筋肉が自然に緩んでいく。
ぎこちなく回された腕が背中を撫でる。
「ん…砂姫」
嫌な夢だった。
本当に怖い夢だ。
「砂姫、愛してるよ」
喰らうのだ。
あの夢は最後には俺が砂姫を食いちぎるのだ。多分、そんな想像を最後に思い描いた。
「私も、愛してます」
あるはずがない。
あの出逢った時に食らえば良かったなんて、そうなってしまえば、俺は今、こうして砂姫を抱くことも、想いを重ねることも出来なかった。
「氷雨様」
ギュッと目をつぶり俺に口づけた砂姫は離れる頃には顔を真っ赤に染めて器用に目を泳がせている。
ふっと自然に笑う。
そこにはもう不安はない、恐怖はない、悲しみはない。
ぎこちない仕草が愛しい。
君は美しい。
こうして砂姫は俺の元に、傍に、中にいる。これからもずっとずっとずっと傍に、永遠に一緒だ。
だから、この死の香りを早く、一刻も早く解き放して、本当に俺だけのモノにしたい。




