私には死活問題です。
「アンタ、砂姫ちゃんになんてこと言ってんだい!」
バチーンと凄まじいビンタを繰り出す。
どこか何か切り離されたような場面にただ私は立ち尽くすしかなかった。
事の発端はおばさまの息子さんが最近帰ってきたことにあるらしく、私の話をするからどんな人間なのか見にきたことから始まった。
「あんたが砂姫ちゃんかい?」
「え、あ、はい」
その日はたまたま店番をしていた私に軽そうな飄々とした男の人が話しかけてきた。
不躾な視線に眉を顰めましたが、お客様にあまり失礼なことを言うわけにはいかないと笑顔を作る。
氷雨様がとても恋しいです。
「ふーん、何が若い頃にそっくりなんだか、超美人じゃんか。お袋にはかけらも似てないって。でも、美人だけど胸がちっちゃいね。ちょっと残念」
「え」
「あんた、砂姫ちゃんになんてこと言ってんだい!」
胸が小さい。
自然と目線が下がり、胸に定まる。
まな板のように薄いけど、人魚だった時には周りも同じ様に。でも、人間の女の人は私のように薄くないし、柔らかそうで大きい。
確かに小さい。
氷雨様も胸の大きな人が好きなんじゃないだろうか。
「気にすることないよ、砂姫ちゃん」
顔を上げれば胸の大きなおばさまを見て、自分の胸を見つめる。
ない。
「っー、ひでぇよ。でもやっぱ、胸が大きい方が色々できて」
「おだまり、馬鹿っ!」
色々出来る方が好きだろうか。
氷雨様もそう思っていたら、私どうしましょう。
「何騒いでる」
ピクリと身体が揺れた。
氷雨様の声だ。
「え、いや、うちの馬鹿が変なこと言っちゃって、砂姫ちゃん落ち込んじゃってねぇ」
「…砂姫?」
近づいてくる気配に背を向ける。そっと胸を触ってみるが申し訳程度に小さな膨らみがあるだけ。
「砂姫」
ふわりと背後から抱きしめられて身体が強張る。優しく、壊れ物を包むように、丁寧に柔らかく。
心地良く声が聞こえる。屈んでわざわざ耳元を擽る吐息に心が震える。
「どうしたんだ、砂姫」
「ん」
「言わないとわからない」
氷雨様も胸の大きな人が好きなのだろうか。
「…胸が大きい方がお好きですか?」
「胸?」
耳元にかかる吐息がなくなる。
「気にするな。俺は砂姫だけが好きだ」
「氷雨様」
「他に目移りするとでも思ったか。それに」
そっと耳に唇が触れるほどに近づき、私にだけ聞こえるように言葉を紡いだ。その言葉に顔が沸騰しそうなほど熱くなり、思わず振り向く。
「やっと、俺を見たな」
「…約束ですよ、氷雨様」
貴方に相応しい女性でありたい。
私にも氷雨様しかいない。
「砂姫ちゃんって旦那いたのか」
「当たり前だろ、あんな可愛くて綺麗で美人な娘が結婚してない訳ないだろ、馬鹿息子っ!」
その声を聞いてやっと私はまだ仕事中で周りに人がいたことを思い出し、恥ずかしさに悶絶する。
で、でも、大事ですよね。
すっごく大事なんですから。




