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泡沫の乙姫  作者: 飛白
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君は俺だけの可愛い人

 緑の黒髪に白い肌。

 淡い赤の唇。


「砂姫」


 言葉にすると何とも言えない気持ちが湧き上がる。


 今なら君を抱き締められて、触れられて、言葉を交わすことも出来て、愛し合うことも出来る。

 それは、素晴らしいことだ。


「氷雨様」


 ほんのりと頬を朱に染めて控え目におずおずと近付いてくる。人目がなければ喜んで駆けてきて抱きついてくれるんだが、なんて思いながら傍に来た砂姫の手を取る。


「行くぞ」

「え、あ…はい」


 場所も言わずに引きずるように俺は目的の場所を目指す。人がいると煩わしい。


 それに、可愛い砂姫を俺以外の誰にも見られたくない。手に入れて手放す気がない俺はこのまま二人でどこか遠くに行っても良い。

 立ち止まることなんてしたことがない。考えたらすぐに行動に出る俺だが、まだ一度も後悔したことだけはない。


「氷雨様、どこへ行くのですか?」


 足がもつれそうになりながらついて来る砂姫をチラリと見て、危なさそうだし抱えた方が早い。断りを入れるよりも先に身体が動く。


「あぅ」


 姫抱きで抱えると恥ずかしいのか俯いたが、耳は真っ赤で赤面してるのが容易にわかった。

 腕の中ですっかりと大人しくなった砂姫を抱きながらさっきの質問に答えた。


「鳴砂見つけたんだ」

「鳴砂。キュッキュッ鳴るあの砂ですか」

「そう、その鳴砂だ」


 興味津々といったように顔を上げてキラキラと輝く瑠璃色の瞳が可愛らしい。

 海辺を歩くなんてことをしていない砂姫は硬い土や砂利や舗装された道しか歩いてない。


 砂を踏み締めたくないからかと思ったがそうではないらしい。前に鳴砂を知り歩いてみたいと言葉をこぼしていた。

 それでも自分から探そうなどとは思わないだろう。


「楽しみです」


 そっと首に腕を回して嬉しそうに微笑んだ。周りに人がいないからなのか積極的に俺に触れてくる。


「ああ。俺と一緒に歩こう」

「はい、喜んで」


 俺と踏みしめればいい。

 忘れてしまえばいい。


 俺との思い出で全て塗り潰せば。


「とても本当に楽しみです」


 それで君は俺だけのモノだ。

 もう他などに現を抜かせないように、奪われないように、俺だけを求めるように、俺だけが心に住みついていればいい。


「近くに行ったら降ろしてやるよ。一緒に歩こう」

「はい、氷雨様」


 海も綺麗だった。

 二人で見よう。


「氷雨様」


 小さく名を囁き、ギュッと腕に力を入れた砂姫は俺の頬に自分の頬を寄せてからそっと口付けて恥ずかしかったのか俯いて首筋に顔を寄せた。


 愛しいと思う。

 食欲にも似たこの感情は狂ったように砂姫を縛り付けたがる。


 柔らかな肢体を貪ろうが、やはり足りない。心を犯し尽くしたい、精神が可笑しくなるほどに求めて欲しい。


「砂姫、俺を見て」


 俺を見ろ。

 その瞳に俺を映せ。


「可愛い砂姫が見たい」


 その瞳に浮かんだ愛を、頬を染めて見惚れる程の想いを。

 小さな身体を突き動かす心の臓の早鐘が俺に伝わるだけでは満足出来ない。


 砂姫を奪われぬように見せびらかしてやりたい。どれほど俺達が恋い焦がれ合っているのか。


 矛盾な気持ちがぐるぐると回る。


「砂姫」

「氷雨様」


 首に触れていた肌の暖かさも柔らかさも吐息も離れた。


 潤んだ瞳に映る俺の顔。

 思わず足を止めた。


「ここから歩くか。もうさほど遠くない」


 そっと地に足を降ろした砂姫はすぐに手を結んで寄り添った。


「行くか」

「はい」


 心地良い。

 言葉よりも行動で表すようになった砂姫は話すより触れ合いが好きのようだ。


 胸が小さいのを酷く気にしているみたいだが俺は特に気にしたことはない。胸がデカかろうが小さかろうが大差ない。砂姫のモノであればそれでいい。


「氷雨様」

「なんだ」


 ギュッと強く握り締められては不思議に砂姫を見やる。


「私といつまでも一緒にいてくださいね」


 バカみたいな言葉だ。

 そんなことを言われるとは思ってもいなかったからびっくりする。


「んな当たり前なこと言うなよ」


 言われなくてもいてやる。

 嫌だと泣き喚いても手放してなどやらない。


「俺には砂姫しかいない」


 そう君しかいない。

 俺には後にも先にも君だけ。



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