表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
泡沫の乙姫  作者: 飛白
19/48

貴方が何よりも好きです

 久しぶりの肉体は酷く想いが詰まったモノだった。

 貴方の魔力で再現された私の肉体。私を包む貴方の温もり。私はこの上ない幸せ者。

 だけど、なぜか物足りない。


「氷雨様、お加減はいかがです?」


 触れている、触れられている。

 その感覚が鈍い。


「平気だ」


 だいぶ身体に慣れた氷雨様は話せるようにも動けるようにもなった。


 氷雨様は綺麗で美しい男の人 絶世の美。

 美しい均一の取れた肉体。


「砂姫、愛しているよ」


 表情は無表情に近い。

 でも、目だけは違う。


「氷雨様」


 恥ずかしい。

 私を熱く射抜く瞳が語るから。


「なら、私に触れてください」


 不完全な肉体はまだ私の身体とは言えない。痛みも鈍くてわからない。

 でも、貴方に触れられたい。最初のように私の肉体が壊れようと、求められたい。


 貴方が傷つくのはわかっています。だけど私を大切に想い傷つく貴方が愛おしい。幸せなのです。

 酷い女です。でも、私を本当に愛している貴方に劣情を抱くのです。


 貴方の、氷雨様の愛を確認出来る痕が愛しくてしようがない。


「白金の魔女も言っていたではないですか」


 触れ合うのはとても重要だと、私達を分けるには時間もかかると言っていました。


「俺は砂姫を殺してしまわないだろうか」


 忌々しいと言うようにギュッと手に力を入れた氷雨様の手のひらから赤い血が流れる。

 私はそっとその手を取り、撫でる。


「そんなに簡単に私は死にませんよ。貴方を残して死ぬはずがありません」


 死にません。

 私の身体はもうそんなに柔じゃありませんから。


 私の魔力と貴方の魔力が交わる。ゆっくりと結ばれていく。


「私達は一緒です。ずっと一緒にいれますよ」


 氷雨様が私を見つけて愛してくれた日から、私は貴方のモノですから。


「…そうか。そうだな、ずっと一緒だ」


 ぎこちなく両の手を広げた腕の中に飛び込むとゆっくりと私を抱きしめた。


 軋む音がした。


「私は幸せです」

「俺も幸せだ」


 鈍い痛みが走る。これが貴方を傷つけると私は知っています。だけど、私が痛いと言えば貴方は、氷雨様はもう二度と私に触れてくれないでしょう。


 私は嫌な女です。


「愛しています、氷雨様」


 私をどうか嫌いにならないでください。

 愛し続けてください。


「ふむ、お熱いのはわかったが、場所も選んで欲しいものだな。確か、今日は帰ると言っていたと思ったのだが…気のせいだったか?」


 っ!?

 背後から掛けられた声にびくりと身体が揺れ、急に熱が上がったように身体が熱い。


「どうやら、邪魔者のようだ」

「なら、出ていけ魔女」

「そうもいかないのだよ。今回は身体を安定させる薬を煎じなければならない。きっと今よりは感覚が戻り、力のいれ具合も少なからずわかると思うのだが、まあ、君達がそう言うのなら、仕方がない」


 緩まる。

 それが今の話しよりも気掛かりで、悲しいと思えた。


「待て」


 でも、氷雨様は私のことを想っての行動だと思うと和らぐ。


 不機嫌そうな声で話す氷雨様に魔女はただ笑い瓶を取り出し、無造作に左右に振る。


 私は貴方を愛しています。

 だけど、人に聞かれるのが恥ずかしいのであまり口には出来ないかも知れません。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ