君に触れたい
慣れない。
「大丈夫ですか、氷雨様」
心配そうに俺を見つめる砂姫が手を指し伸ばしてきた。
それに触れていいのかと躊躇う。
見上げることの方が多い。
「く、くく」
耐えきれずに笑う白金の魔女は腹を抱えて笑っている。
思わず顔に力が入る。
「氷雨様、眉間に皺が」
そう言って華奢な白い指先が俺の顔を撫でて眉間の皺も伸ばす。
真剣な顔をしているがそんなに変な顔になってたのかと考える。
「美形なだけに迫力が、顔面凶器というものだな」
涙をうっすらと浮かべた白金の魔女は繕ったように真顔になる。
「君は大丈夫だが。君は色々と問題がある。力の制御と歩く練習、手の感覚というよりも肌の感覚に慣れるべきだ。後、話せるようにもならないといけない。やらなければならないことが山積みだ」
「……」
感覚がわからない。
だいたいの感覚は掴めたが、なまじ下手に動けない。
「まあ、当分は触れられての位置の確認がいいだろう。協力して上げたまえ、命愛の君」
砂姫が怪我をする。
「あ、では、頑張りますね、氷雨様!」
やけに気合いが入った砂姫がゆっくりとしゃがんで目線を合わせた。
「ゆっくりやりましょう、氷雨様」
意思の疎通が出来ないのは不便だ。
白い指先がゆっくりと顔をなぞる。触れられている肌が暖かい。
「ふふ」
「……」
可愛い。
「…ん、恥ずかしいですね」
やっぱり、と頬を染めた砂姫は愛らしい。顔から離れて手を取るがやはり感覚がいまいちわからない。
「指、動かしますね」
「私は少し用事がある。二人とも仲良くするように」
とっとといけ、と思ったが砂姫は狼狽えるようにおろおろしている。二人きりになるのが恥ずかしいのか縋るように魔女を見ていた。
「いや、二人は夫婦になるのだ。いつまでも目の上のたんこぶのような私は邪魔でしかなくなる。それともナニか事を起こそうとでも考えているのかね、君は」
一気に真っ赤になり黙り込んで俯いた砂姫を見てから俺を見た魔女は微笑んだ。
「愛する者に触れられるのが一番の薬だ。魔力を失って合ったはずの感覚までもが麻痺したんだ。暫くすれば話せるだろうし、多少なりは動ける。今のように足がもつれて尻餅などは減るといいな」
イラつく。
まあ、そう言うならば話せるようになるだろうし、今よりまともに動けるというのは本当だろう。
「では、失礼するよ」
さっさといけ。
「うぅ」
ぎゅっと俺の手を握り締め魔女を名残惜しそうに見ていたがこっちを向いてまた俯いた。
触れられている感覚がある。
暖かい体温が肌に伝わってくる。
そうか。
魔力が邪魔をしてたのか。砂姫の身体を形作っているのは俺の魔力であり、元が俺のものだからさしてわからなかった。
「ずっと氷雨様に包まれているみたいです、私」
魔女がいなくなってすぐに砂姫は俺に抱き付いた。
「せっかく貴方に触れられるのに勿体ないですね」
君に触れたい。
その身体を抱き締めて味わいたい。
君の全てに触れたい。