閑話『盲目な運命の人』
燃えるような深紅の髪はまばらな長さで短い。寝癖がぴょんぴょんひょこひょこと飛んでいても侮れない高圧的な雰囲気で僅かに獅子を思わせるが、垂れた灰色の味気ない色味の瞳が多少は柔らかくする。
「確かに君達は前も生涯を共にしているし、確かに命愛で結ばれてる」
のんびりとした口調でゆったりと話す女は所詮は魔女という魔力を強く持ち不死に近い人間族から産まれる人あらざる人。
産まれた時から人間ではない。
「僕達はまた巡り会い恋に落ちたのは必然だ」
「固い命愛の絆で結ばれているのですわ」
それにゆっくりと首を傾げた赤灰の魔女は口を挟んだ。
「ぼくは嘘は言わない。白金の魔女と違って人嫌いではないし、恨みもない。漆黒の魔女のように都合良く事を運ぶ嘘はつかない」
色褪せてカピカピした本を勢い良く閉じた際にぽろぽろと紙が落ちる。
「固くはない。命愛同士で結ばれたなんて聞いたことも見たこともない。ぼくに云わせればいつかは目が覚める」
分厚く継ぎ接ぎされた本を紐で括り、椅子から立ち上がると意外に背はなく小柄であった。
何を言われたかわからない二人は呆然としていたが赤灰の魔女は気にした風もなく放って背中に背負う。
「魔女には愛がない。興味、憎悪、憤怒に怠惰などに置かれた環境下で偏り、形成される。ぼく達は口では愛を口にしたり、情を口にしても、不確かで辞書のようなモノで意味を知っていたりするだけ」
赤灰の魔女はゆっくりと二人を視界に入れた。
「命愛は彼女だけ。君は真愛ですらなく、ただ前のように国を繁栄させたいという欲から彼女を愛そうとしてるだけ。君は生前に魔女に騙されて命愛の君を消そうとした」
意外にもゆっくりだが饒舌のようで赤灰の魔女は言葉を紡ぐ。
「前にその彼女の声を縁合って手に入れた」
「う、嘘だ。白雪は僕の命愛の君だと」
「魔女は基本的に嘘吐きが多い。ぼくは嘘をつく必要がないし、真実を素直に言う方だ…だけど、漆黒の魔女と白金の魔女は大嘘付きだ」
昔、ぼくも嘘を付かれたと平然に答えた赤灰の魔女は立ち去った。
そして思い出したように小さくポツリと零した言葉がかすかにその場にいた人間に聞こえた。
「ああ、そうだ。白金の魔女は命愛同士かもと濁していたような気がしたな。物ははっきり言うほうだから…近い内に会いに行こうかな、白金の魔女に」
予感がしていた。
近い間に魔女と出会うことになると。ある程度に視る事柄は自分にとって良き出来事であると赤灰の魔女はわかっていた。
自然に笑みがこぼれる。
後ろで顔色を悪くした二人。完全に血の気を無くした男はその場に崩れ落ちた。それを心配した女は振り払われ意味がわからず泣いていたが、気にすることはない。