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泡沫の乙姫  作者: 飛白
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舞台『人魚の恋』

 彼女がそれを見つけたのは偶然にして必然である。

 胸を打たれた。そして、どうしようもなく見てみたくなったのだ。


「君達を人の姿にしよう。君からは魔力を、君からは…名を奪おうか」


 彼女は提案した。

 規格外の鮫からは膨大な魔力を、肉体を持たない元人魚からは名を奪い、肉体を与える。だが、不完全にしかならない元人魚には奪われた声を差し出し与えた。


 その代わりに期限を決めた。

 過ぎたら元の姿に戻る。だが、声だけはそのまま返し、時より彼女を訪れ歌を一曲歌ってくれれば良いといった。


「一つ忠告をしなくてはならないのだが、私も一応は魔女だから、簡単にはいかせられないのだ。だが、君達に何の心変わりがないのなら問題はない」


 優しく微笑みかけた黄金色の瞳は神々しいほどに輝く。


「君達は珍しく命愛同士で結ばれている。長く生きてきたが、これは初めて見た」


 柔らかすぎるほどに端正な顔立ちが優しく緩やかに安堵するように力を抜く。


「君達に最上の敬意と感謝を」


 内緒話をするように悪戯な笑みを浮かべて右手の人差し指を唇に当てて囁いた。


「これは君達にとっては出来レース。気長に待ち、ゆっくりと相手の鎖を断ち切りたまえ」


 彼女は二人を人に変えて、少しの常識と生きるための技、衣服に証明書と住む場所を与えて自分の我が子のように可愛がった。


「君達の名を決めなくてはな。君は氷雨、君は砂姫だ。元々名がない君と名を奪われた君に名を与えるのは私の責務だろうし」


 姿も知らぬ人を愛した人魚と生き物の形をしていない者を愛した鮫。


 愛し続けるのは難しい。

 どちらかは心変わりに気づかぬ振りをし、見ぬ振りをして、その内に修正できなくなる。


 魔女はそれを良く理解していた。

 嫌になるくらいに見ていた。


 彼女は白金の魔女と言われる魔女だ。

 名もあるのだが殆どは渾名で呼ばれるのが主流であり、下手をすれば自分の名すら忘れているという魔女も多い。


「君達の幸運を祈っている。普通に夫婦生活を満喫したまえ。だが、次に会ったときにご懐妊していたとかは勘弁してくれ。心の準備も出来ていないし、泣いてしまうかもしれない…って、私の話聞いているかい。さも早く居なくなれという目つきで睨まないでくれ」


 彼女ですら自分の名はあやふやでうる覚えで合っているのかすら危ない。覚えている名は少ないが、それは忘れようにも忘れられないくらいに刻み込まれている。


「本当に嬉しいよ。君があんな人間の男などに捕まっていなくて。すぐに解放してみせるよ、あの魔女の呪いから」


 人魚の恋から始まったのだ。

 それで彼女は機会を得た。


「私も君達を利用するのだから、あまり遠慮はしないでくれ」


 長年抱え込んだこの詰まった闇を払えるならば、安いモノだと彼女は微笑んだ。


 人魚の愛で全てが変わる。

 後はその隙を狙えばいいだけだ。



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