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Sense  作者: 桜崎海
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序章 世界

序章

三層に分かれる世界。

上層に神族、中層に人、下層に魔族。

元が一つだったと言われるそれらは、幾千年を超えた今、断片的にしか類似性は残っていない。

何時しか、神族は金を瞳に宿し、その身は仮初の肉体でしか生きられぬようになり、

魔族は銀を瞳に宿し、残虐と虚無にその身を堕とす、

人は、欠損はないがゆえ、か弱く、同族同士の争いに溺れていった。

それでも、世界は存続し、終わりのない時が流れ続けている。






一つ国があった。名はリセイナ。

近隣国を次々と、侵略し今や大国として大陸の約半分を制している。

そこで、とうとう沈黙を続けていた魔大国との戦争が勃発。

今まで悠々と国を手にいれていったリセイナであったが、魔道士1人で、通常兵10人分という前では、圧倒的人口を誇る国であっても、さすがに分が悪く、1つの戦いが終わると別の場でまた1つと戦は長期化していた。

また、魔法が存在しないリセイナが魔道士に対抗する手段として作り出された擬似魔法は、装飾品に特殊な核を埋め込み、魔力を作り出し魔法へ変換するというものとして開発され、現在では普段の生活にも組み込まれており、戦争の長期化と共に人々が生きていくのにも欠かせない代物となった。

そして開戦して10年。また一つ、さらに激戦化への要因が増えた。

政府をサポートするための人材の育成、軍事部の設立である。

早いうちから育成をという方針で設立させられたそれは14歳から入隊でき、それに見合った給与が支給される為、実戦へと送り込まれて命を失う結果となるとしても金銭面で厳しい状況の平民以下の入隊者は後を絶つことはなかった。


結果、リセイナが建国されて以来の大戦は今年で48年にまで及んでいたのである。





乾いた音が空間に広がった。

放たれた弾は、獲物を撃ちぬいてその先に消える。闇夜を映し出すかのような漆黒の瞳でスコープを覗き込み、続いて2発、3発と打ち込んだ。

同じ深い闇色の髪が風に舞う。

4発目、かちり、と小さく響いただけで、銃器は無言を貫いた。

衣服の裏側を、探ったが布の感覚だけがその指を伝わり、もう何もそこにはないことを示している。

弾切れである。


気休め程度にしかならない狙撃であるが、何もやらないよりは人数を減らせただろう。

ユアは、上っていた岩から飛び降りると終わったという意味で首を横に振った。

「面倒なことになりましたわね……」

ふわりと広がるは赤髪を揺らしながら、リリス・ブライアンは、誰に言うこともなく呟いた。副隊長の地位である彼女は、柔らかな顔立ちをしながらしかしその透き通った琥珀色の瞳は、一点を鋭く睨みつけている。

明らかにその視線に怯えあがる男は、落ち着かないようにその瞳を忙しなく動かす。何度か口を開こうとしているのが見て取れるが、反論が目に見えているため、何か言い出すことはない。


男の名はカルネイロ、この隊で唯一、政府軍から出された兵である。だが、今回の指揮官は、ユアである為、彼女の指令が絶対であり、彼の存在はさほど強いものではない。

この男が原因で任務失敗の危機にあることを、ユアは改めて思い出し、一瞬、眉間にしわが寄った。

彼女ら、軍から構成された13部隊と政府が持つ正規軍から派遣された1名の目的は、軍事国家リセイナの末端にある砂漠に侵入したと見られる、敵兵の排除である。普通であればさほど苦労のいらない任務であるが、今まさに別件で少ないとは言いがたい数の兵が集められているため完全な人手不足であった。

いつもの半分以下の小隊で、50の数を殲滅するのは楽ではない。

卑怯だといわれようが、闇夜に紛れての奇襲はもちろん、遠距離での狙撃を中心に任務をこなす事が、ユアの構想では組み立てられていたのだが、目の前の男の些細な行動で簡単にそれは崩れ去った。

作戦決行の直前、カルネイロが回り込むはずだった道を真っ直ぐと進み敵兵に発見されたのである。

下級の平兵でもそんな命令違反とも言える行為などしない。

金で階級を買ったであろう男は、足手まといにしかならないのだろうが、真の目的はそんなものではないのだろう。


政府直属の正規軍とまた別の軍事部は、同じ国にありながらも協力関係から遺脱していた。

何処で捻じ曲がったのかは知らないが、国内で2つの勢力はどちらが権力を握るかを画策しており、近年、内部抗争に近い状態にまできていた。

この男もそれと同様であり、敵兵を殲滅したという手柄を少しでも政府に回す為、ここに派遣されたのであろう。

その男自身の手で任務の成功を潰しているとは何とも皮肉なものである。

馬鹿らしいとしか浮かばない結果にユアは、この状況の打破を考え始めた。 

男が見つかったせいでの警戒状態に加えて、倍以上の数がいる相手に真っ向から挑み殲滅の成功など無理に等しい。

もう逃げることも厳しい自体まで追い込まれていた。


―――死ぬわけにはいかない

頭をよぎるのはそれだけだ。

「……西から退却しろ。魔法を使い、敵の目を晦ませながらだ。

リリス、私、13番部隊長ユア・レスターはおまえに指揮権を委譲する」

彼女の擬似魔法の腕前であれば、全ての味方を覆い隠すことは容易である。

それだけで逃げ仰せられるのであれば苦労は必要ない。それは魔法を使う彼女自身が一番良く知っている為か釈然としない様子を露わとする。

「ですが、そんなことをいたしましてもあちらには魔導士がいます。すぐに見破られますわ。

……まさかとお思いますが、隊長、捨て駒にでもなるおつもりですか?」

彼女の表情にこそ出さないがその冷え切った声に不満がありありと見える。

こんな男のためにと。

ユアは、答えず、背を向けるとそれ以上の発言を拒む。

「……分かりました」

納得はしていないだろうが、ユア相手に説得など無意味だ。いつも後ろにいた彼女は理解している。

「これより、第13部隊はわたくしの指揮下に入りましてよ。

西へ向かって退却いたしますわ!」

「し、しかし隊長が……」

リリスは無駄だと静かに首を振る。

後ろはもう振り向かなかった。



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