序章 イカイノエホン
――さぁ、世界を紡ぎましょう。
――神様は人間を見捨てた。
――世界に神様はもういない。
――この絵本が世界だから、持ち主のあなたが神様。
一心不乱。
それだけが『自分を包む世界の全て』になったように、何度も、何度でも飽きを知らずに読み返し続ける。時刻は夕暮れ。少しお腹がすいた気がしたけど、無視した。
いつ、どこで手に入れたのか覚えていない絵本。
知らない間に部屋にあった、という言葉が一番よく似合う遭遇だった。
実際、こんな本を売っている店は世界のどこにも無いと思う。
内容が、この世界の人々が守ってきた『理』を、これでもかと無視しているから。
――神様は人間を見捨てた。
自分以外、世界中の誰もが異常なくらいに反応しそうなポイント。
この世界を司り、すべての命を愛している『神様』が、その神様を一番愛して敬ってきた人間を見捨てるなんてありえない。冗談でも口にしていいことじゃない、という事らしい。
要するにプライドの問題。それじゃないなら崇めているのは神様じゃなくて、最終的には自分達という凄まじいレベルの自画自賛。ナルシストもいい加減にした方がいいよって、思う。
どうせ神様なんて最初から世界のどこにもいないよ、とも思う。思うだけ。いつもバカだ何だと言われているけど、本音は心の奥底で思うだけで声に出さない程度には賢い。
そろそろお父さんとお母さんが帰ってくる。煩くなるから絵本を隠さないと。
異界の言葉で書かれた、この絵本が大好きだった。
だから捨てられないように、いつもの場所に隠しに向かう。
家の外。庭の隅っこにある小さな小屋。
大人が入れない屋根裏に隠す。
「……」
外に出た瞬間、山の向こう側へ沈み行く夕日が見えた。
ようやく退屈な一日が終わった事を、知った。