ほら吹き地蔵 第十六夜 死に神
【1】
三か月の基礎訓練が終わり、ボクはようやく担当の先生の下に付けられた。
名前で呼ぶのは恐れ多いので、ボクの先生の事は「X先生」と呼ぶ。
X先生は忙しい人だ。
「地元中心に回る」と、一応エリア担当制にはなっているが、出張はしょっちゅうだ。手が足りないからだ。
長期の出張もある。海外出張もある。
「宗教が違う所には行かなくていい」が「業界」の暗黙のルールなんだそうだが、最近は、そうも言っていられないらしい。とにかく手が足りないのだ。
先生はボヤいていらした。
「戦争は困るよ。疫病や自然災害はご縁から来るものだが、戦争は人間が勝手に始めたものだからね。同じ人災でも、火事や交通事故は誰も望まないが、戦争は正義感と言う父と、熱狂と言う母が産んだ、いわば文明の申し子だ。人間が積極的にやる事だから、いつ始まるか、いつ終わるのかサッパリ分からない。そもそも自動小銃でバンバン撃ち合うのと、自爆ドローンでぼかーんとじゃ、死者の『歩留まり』が違うからね。まったく、戦争の惨禍にだけは慣れる事ができんよ。」
同感だ。戦争を望む神さま仏さまが、一体どこにいるものか。
ウクライナでもパレスチナでも、神も仏もないような物ばかり見せられて来た。
たまらず手を合わせようとしたら、先生に止められた。
「それは余計なお世話だ。この土地の神さまに失礼だよ。私たちは、やる事やって、サッサと帰るだけだ。」
そう。ボクたちの仕事は、決して思いを残しちゃいけないんだ。
そもそも相手の言い分を聞いていたらキリがなくなる。
だって、ボクたちは死に神と、その従者なんだから。
【2】
仕事はいつも半年先までビッシリだ。
リストにして送ってくれるのだ。
半年先までは予見可能らしい。不慮の死でも何でも。
朝のコーヒーの後、X先生は言われた。
「じゃあ、いつも通り頼むよ。今日のは楽だと思うよ。」
ボクは先生に目隠しをした。先生のカバンを持ち、もう片方の手で先生を引っ張って、ターゲットの家まで連れて行った。
「先生、着きましたよ。ドア・セキュリティは固そうですね。壊しちゃっていいですか?」
「ここは、その必要ないよ。インターホンを押してごらん。」
やんわりと叱られた。
インターホンを押して「お迎えです」と告げたら、「どうぞ」と声がして、ドアが開いた。いや、初老の女の人が開けてくれた。化粧っ気どころか、生きてる人間の臭いがしない、ゾンビみたいな女の人だった。
ボクから声をかけた。
「お手間は取らせません。最期には立ち会われますか?」
この一声は、強すぎても弱すぎてもダメ。押しても引いてもダメ。
ボクたちは殺しに来たんじゃない。でも、歓迎される存在でもないからだ。
この場を借りてお願いする。
できるだけ自然に、ボクたちを受け入れてほしい。
「最期には立ち会います。もう家族全員、揃ってお待ちしておりましたから。」
ちょっとだけ、女の人の気持ちが揺れたのが伝わって来た。
こう言う、さりげない悲しみが、こっちには一番キツいんだよなあ。
ターゲットはベッドの上に上半身を起こしていた。
うわぁ、気持ちがしっかりした人だ。
最後まで無事に済みゃいいけど。
最後の最後なんて、ホントに分からないものなんだ。
意識のない人の方が、正直、仕事は楽なんだよな。
パジャマ姿の男の人は、先生の方をハッシと見て言った。
「やあ、この度はお世話になります。」
死ぬ瞬間だけは、ボクたちの事が丸見えに見えるんだよなあ。
だからボクたちの商売は、身だしなみに気を抜く事ができないのです。
先生は物も言わず、ターゲットの額に軽く触れた。
ターゲットの全身の筋肉から力が抜けた。
ガラクタだらけの部屋にギュウ詰めにされていた家族たちの、気持ちが動き始める前にボクたちはターゲットの家を立ち去った。
「最後の最後に取り乱したら、どうしよう」だなんて、今日のターゲットには失礼な心配だったな。
ターゲットは紙おむつを着用していた。最後の最後まで、自力でトイレに行けたのに。
どんな人間でも、最低一度はシモの世話をしてもらわないと、あの世に旅立つ事ができないんだ。
そうと分かっていても、自分から「末期の紙おむつをくれ」とは、なかなか言えないよ。
【3】
死刑囚の仕事は、意外と楽だ。
処刑の朝、死に神は「前任者」からターゲットを引き継ぐだけだからだ。
刑が確定した死刑囚は、いつ執行命令を受けてもおかしくない。
いわば、毎朝毎夕、殺されているようなものだ。
ボクたちの「前任者」は判決確定から処刑までの間、ターゲットに寄り添う。
反省を促したりはしない。辱めはもう十分に受けているんだから。
再審請求したい者は励ます。生きる権利は司法判断の上にあるからだ。
時には芸術の神ミューズの代役を務めて、ターゲットに絵を描く動機を与え、文章を書く楽しみを教える。
最後の最後までターゲットに寄り添い、ボクたちに引き継ぐとフッと消えてしまう。
朝一番に拘置所に呼ばれて、ひと仕事終わった後、ボクはX先生に聞いた。
「あの『前任者』、一体なに者なんですか? 神さまファミリーでも仏さまファミリーでもないみたいだけど。」
先生は、そうする必要もないのにコーヒーカップをかき回しながら答えた。
「法律の神様テミスの手下だと聞いてる。宗教的背景はないとも聞いた。あくまでも法の執行者。いわば人の目に見えない国家公務員みたいなものらしい。」
「それで、お祈りの一つもせずに、フッと消えちゃうんですか。『妙に事務的な奴らだな』とは思ってたけど。でも、たまにいるでしょう、釈放される死刑囚が。その場合、あの『テミス庁職員』、一体どうするんですか?」
先生は、今度は本格的に手を止めた。
「一度はテミスに見離された者たちに、最後まで寄り添うのが彼らの仕事なんだよ。釈放されたって同じだ。生還した死刑囚は、法の前で一番弱い存在だ。法は弱者を守るためにある。いわば近代国家の神だ。」
そう。法は神だ。ただし、愚かで間違いだらけの神だ。こんなもの、誰が発明したんだろう。
【4】
ある朝、ドアを開けたら、訓練所で散々お世話になった先輩が立っていた。
ホッとした。
今日の仕事は一人じゃ自信がなかったからだ。初めて経験する、自殺の仕事だったから。
「遠路すまないね。今日はお手やわらかに願うよ。」
X先生が、わざわざ玄関先まで出て来て、先輩に声をかけた。先生なりの気遣いだ。自殺は、それだけデリケートな案件なんだ。
二人きりになったら、先輩はいきなりクギを刺して来た。
「いざと言う時には手を出すけど、キホン、オレは後ろに控えているからな。ここは自分の力で何とかするしかない所なんだぞ。」
さて、先生も含めて三人で現場に着いた。ターゲットは未だ生きてる。これから死ぬんだ。道具もちゃんと揃えてる。用意がいいなあ。
自殺なんて、やめてほしい。お願い、やめて。
死に神が逃げ出す訳にいかないんだけど。
背後から気合が入った。先輩の怒声だ。
「ヘナヘナすんな。オレの自殺デビューは新興宗教の集団自決だったんだぞ!」
これで気を取り直した。
自殺の動機なんて99パーセントは利己的なものに決まってる。
生きる事に執着しすぎるから、見るもの聞くものすべてを欲しがるから、底なしの欲望が裏返しになって「死にたい」と思うようになるんだ。
他人を巻き添えにして死ぬ奴がいるのは当然だ。自殺は自分といっしょに全人類を殺す事なんだから。
仕事はサッサと済ませた。
珍しく、先生が休みをくれた。
それで、前から来てみたかった温泉に来てる。
地獄谷温泉。
ここで、ゆっくり茹でガエルになってやろう。
お湯につかって、ぼんやり考えた。
仏教は我が身をお布施するための自殺を禁じていない。むしろ奨励してる。
まあ、ボクには関係ないけど。
我が身を引換えにしてもいい慈悲心なんて、持ち合わせてはいないから。
出来もしない事は考えないようにしているから。
自殺した奴がどこに行くのかも知らない。
言い遅れたけど、死に神の仕事は六道輪廻とも極楽往生とも関係ないんだ。
人に聞かれたら「それは別の役所の担当ですから」と言って、タライ回しにしてる。
【5】
今日は産院の仕事だ。
いつ行っても気分のいい仕事だ。
「おめでとう」、「おめでとう」と言う、喜びに湧き返った言葉が飛び交う場所なんだから。
命のエネルギーがあふれている場所なんだから。
ただ、喜びの中心にいるのは、いつもお地蔵さまなんだよなあ。
「子どもを守る仏さま」が地蔵菩薩の看板だから、当然と言えば当然なんだけど、いつも産室の隅っこで綿ゴミまみれになっている死に神ご一行さまは、この扱いにナットクが行きません。
死があってこその生。
いつも死に脅かされているからこその「生きてある事の喜び」なんだから。
実際問題、7歳までの子どもは免疫力が低い。
軽はずみな事をするから事故にも遭いやすい。
だから、どんな子にも「命を守るプロジェクトチーム」が付きっきりになってる。
チームリーダーは言わずと知れたお地蔵さんなんだけど、実は死に神もチームの一員だったって、知ってましたあ?
曲がり角に小石が転がってたら、ソッとどけ、冷たい風が吹いたら「もう、おうちに帰れよ」とささやくのも死に神の仕事なんだって、知ってましたあ?
お地蔵さまと死に神。
生きる事と死ぬ事が、ワンセットになってるから生死と言うので御座います。
首尾よく7歳まで生き延びても、人生の危機は続く。
男の子を例に取れば、中学くらいが本当にアブない。
グレるのも中学。
色気づくのも中学。
徒党を組むのも中学。
高校生ともなると、グレても徒党を組んでも多少の落ち着きはあるから、中学生はいわば「最後の子ども」だ。
そのくせ、お地蔵さんは中学生をあんまり相手にしない。それだけ死に神の負担が増える。
その後もアブない時期は続く。
厄年が断続的に3回。男なら24歳、41歳、61歳。
「いいオトナ」が心身共に、いきなり失速して苦しむ姿は、見ていて、いい気持ちのするもんじゃない。
しかも相手が大人だけに、お地蔵さまは、もう何もしてくれない。
人生とは、ブレーキの壊れた車が高速道路を全速力で疾走しているようなものだ。
ここで、声を大にして言いたい。
危険な道路脇で赤い誘導灯を振り回しながら「こっちへ来るな! 死ぬぞ!」と大声を上げ続けているのは、私たち死に神なんですよ。
人の命をエンドで受け取る私たちは、命の大切さ、ありがたみを、誰よりも知っている積もりですから。
【6】
ボクは「命の大切さを目に見える化するプロジェクト」と言うのを提案した。
X先生は「良くぞ言った、がんばれよ」と言って、喜色満面でボクを送り出してくれた。
先が読めないのは明日の天気も株価も同じだけど、人の命で先が読めないのは、ちょっと問題じゃないのか。
末期ガンからケロリと生還した人はいくらでもいる一方、「ただの風邪だ」と思っていたら、実は「コロナでコロリ」なんて話は珍しくも何ともない。
事は人の命だよ。このtransparency(透明性、裏取引しないこと)の欠如、ほっといてもいいのか。
実はボクたち死に神は、必殺仕事人でもゴルゴ13でも何でもない。
別にボクたちの手で殺す訳じゃない。
死ぬ奴は死ぬ時に勝手に死ぬ。
ボクたちは、たまたま、その場に居合わせただけだ。
逆に言えば「こりゃ、死にそうないな」と分かってる場合でも、ハラにイチモツある死に神がターゲットの病床に貼り付いて、「お迎えが来ましたよ」的な悪趣味な演出を散々楽しんだ挙げ句、いい頃合いでターゲットを手離して、今度は「奇蹟的な回復」を演出。
そうやって死に神の存在感を示すと共に、医者とも「持ちつ持たれつ」の関係を築く。
そういう悪しき馴れ合いが業界慣行化していた。
「良識派」の死に神は、これをずっと問題視して来た。
人の命をオモチャにしていいのか。
「死に行く者には厳粛に接すべしとの死に神のコンプライアンス上、いかがなものか」と。
X先生もその「良識派」の一人だった。
ボクの提案を受理した「死に神・大評議会」の裁定結果は、まあ、予想通りだった。
いわく、「死期が必ずしも近いとは言い切れないターゲットの足元に死に神が貼り付く行為は、長期に渡って慣習として行われて来た事であり、これを一概に否定するのは現実的とは言えない。しかしながら、透明性の欠如に対して一定の配慮が必要な点は認めざるをえない。」
つまり、「こいつ、未だ死なないよ」と、誰かにコソッと呟くくらいなら大目に見ると言う事だ。
ボクは満足した。とにかく頑強な堤防にアリの穴一つ開けてやったのだから。
問題は「コソッと呟く」相手だ。
影響力のある有名な医者とかはダメだ。こいつに秘密を打ち明けたら、アッと言う間に世間に広がる。誰でも知ってる秘密は秘密じゃない。
坊さんとか神官とか学者先生とか、思い込み or 使命感が強すぎるのもダメだ。頭のいいバカは、何をしでかすか分かったもんじゃない。
何も考えてないバカ、「2円は1円よりも1円多い」、「明日の2円よりも今日の1円が大事」以上の事は考え付かないバカが、今のボクには必要なんだ。
そのバカを探し出すのに、何の苦労もなかった。
「金が欲しい。でも、身を切るようなマネはしたくない。損は1円でもイヤだが、得は50銭でもウエルカム」と顔に書いてある男が、いる所に行けばゴロゴロしているからだ。
いない所には一人もいない。
だが、いる所には、かき分けるのに苦労するくらいいるのだ。
こいつの一人と口裏を合わせた。
名前は与太郎としておこう。
「オマエがボクの言う事に絶対服従する限り、死に神を目で見えるようにしておいてやる。
もっともらしいフリをして、ターゲットの病床にアクセスしろ。
もしも死に神が病床の枕元に居たら、ターゲットの寿命は尽きてる。処置なしだ。何だかんだと言い訳して、トットと退散しろ。
もしも死に神がターゲットの足元に居たら、それはただのサクラだ。合い言葉を言えば、そいつは黙っていなくなる。病人は手品みたいにケロッと回復する。やり方ひとつで、診療報酬ガッポガッポだ。どうだ、悪くない話だろ?
いいか。全ては死に神の間の申し合わせに掛かってる。談合破りがあったら、すべてがパーだ。オマエが自分の力で何かしたとカン違いしたら、『自分は名医なんだ』と思い上がったら、即、身の破滅だぞ。」
脅しが効いて、与太郎はブルブル震えていたが、「金が出来れば気持ちも上向くだろう」と言う事は分かっていた。
案の定、「人の死期をピタリと当てる名医・与太郎大先生」は、たちまち小金持ちになった。
「巨万の富を築く」と行かなかったのは、与太郎が理財に興味のない、ただの浪費家だったからだ。目の前の快楽に流される以上の事は考えられないバカだったからだ。
ここまではボクの目論見通りだった。
その晩、とある娘の病床の、その枕元で、ボクはウツラウツラと舟を漕いでいた。
娘の命は、あと数時間も持つまい。ボクは仕事が立て込んで疲れていた。とっとと片付けて、早く帰りたかった。
ガラリと襖が開いた。与太郎が現れた。「よう」と片手を上げて、あいさつした。
与太郎は、すまし返って反対側の枕元に腰をおろした。
ここまでは想定内だった。
問題は、そこからだ。
与太郎、娘の枕元にデンと腰を据えて動こうとしない。
「ナニやってんだ、サッサと帰れよ」と舌打ちしたが、与太郎、どこ吹く風。
「こいつ、ナニ考えてんだ」とイラッとはしたものの、眠気には敵わない。とうとうボクは本格的に舟を漕ぎ始めた。
その瞬間だ、「やれっ!」と誰かが号令した。
ボクは病人の枕元から、その足元へと乱暴に放り投げられた。
「バチッ!」と電気ショックのような痛みが走った。
死ぬべき娘が、死なないポジションへと、力ずくで変換されてしまったのだ。ショックがない訳がない。
ボクは「うわっ!」と叫んで、その場から逃げ出すしかなかった。
「与太郎の奴が、布団を上下に引っ繰り返してインチキしたんだ」と気付くのに、さほど時間はかからなかった。
「おい、どう言う積もりだ」と、ボクは「死に神モード」で与太郎を脅した。
「あの娘は、おまえの親戚でも何でもなかったはずだが?」
与太郎は口から泡を吹きながら答えた。
「お満は妹の幼なじみの又従妹で、オレとは合ったんだよ。」
ナニが合ったんだか知らないが、金以外にコイツを動かせる物があったとは、ボクの見落としだった。人間洞察が浅かった。
まあ、いい。こう言う場合、死に神がやるべき事は決まってる。
一月後、ボクは与太郎を洞窟に拉致した。
(準備に一月かかったのだ。)
「そんなに震えるなよ、与太郎君。これは君のためのキャンドルサービスなんだよ。」
与太郎はブルブル震えるばかりで、ボクの言葉なぞ耳に入っちゃいなかった。
「ごめんなさい、ごめんなさい。どうか命ばかりは助けて。」
想定通りのリアクションだ。
「命を取る積もりなら、とっくにそうしてるよ。今夜の趣向は、命の取り合いと言ったヤボなもんじゃない。ボクは死に神。君は人の死期をピタリと当てる名医。お互い、人の命を弄ぶ身として、存分に楽しめる仕掛けを準備したのさ。」
「洞窟いっぱいのキャンドルサービスなら、もう十分楽しみましたよぉ。私をいじめて、何が楽しいんですか。」
「君は根本的に勘違いしているようだね。あのロウソクは、人の寿命を見える化したインターフェースなんだよ。君も、君の妹さんも、君の妹さんの幼なじみの又従妹も、みんな、あそこで炎となって燃えているんだよ。」
「手の込んだ悪趣味は、やめてくださいよぉ。お満の命を取るくらいなら、いっそ私を殺してください。」
「おや、オットコマエだねえ、与太郎君。気に入ったよ。心配は要らないよ。お満の寿命は売るほどある。あの晩でお終いの予定だったのが、今じゃ30年以上、寿命が伸びたからねえ。ほら、ご覧。そこに太くて長い、炎の勢いも激しいロウソクがあるだろ? あれがお満だよ。」
「その隣に、今にも消えそうな、短い、ひしゃげたロウソクがあるのは、もしかして、」
「そう。ありゃ、おまえさんのだよ。お満に寿命を譲っちゃったからねえ。あれじゃ、あと30分も持つまいねえ。」
「赦してください。何でもします、どうか命だけは助けて。」
「分からん人だなあ。殺す積もりはないって言ってるじゃないか。ほら、ここにサラのロウソクがある。こいつに、あの消えかかった火をつなぐんだよ。そうすりゃ、すべてがオール・ライトさ。どうだい? 粋な趣向だろ?」
「その余裕こいた態度が、既に拷問ですよお。」
「泣き言いってる場合じゃないでしょ。さあ、サッサと火を移しちないな。なんだよ、シャンとしなよ、男だろ。」
「男男って、この洞窟、すごい風が吹いてるじゃないですか。」
「そんな小細工するもんか。ちゃんと戸を建てておいたよ。そらそら、手元が揺れてるから、元の火が消えかけてるじゃないか。」
「もう話しかけないで下さいよお。息ひとつで火が消えてしまいそうだ。」
「落ち着きな。一度、手をおろしなよ。」
「分かってます。分かってますよお。あっ、消えた」




