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魔人諸島〜魔物になった者の生き方〜  作者: 飛鳥川碧希
第1章 魔物と人間編
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第8話 剣技

 鳳城剣也。彼は鳳城騎士団の団長であり、「負けなしの漢」と称される。

 しかし、剣也は果たしてここまで才能だけで上り上がってきたのか。

 否。剣也は、常人の何十倍、何百倍もの努力を積み重ねてきたことによってここまで上りつめていったのだ。


時は三十年前。鳳城剣也は、この時二十九歳だった。烏田は先輩である烏田太智(からすだたいち)と行動を共にしており、いつも魔人諸島への調査をする時は一緒だった。

 互いに飲みに行くし、調査以外でも付き合いが多かった二人だった。

 そんなある日、いつも通り魔人諸島の調査へ来ていた二人。烏田は、ふと思い出したかのようにポツリと言った。


「なぁ。剣也。魔物討伐隊に入って辛いとかダルいとか無いのか」

「えっ…?まぁ、特に。俺が魔神討伐隊に入ってる理由は楽してお金が稼げるからですし」

「そっか…やっぱお前は俺とは違うな」


烏田は安心したかのように、ズボンのポケットからタバコを取り出し火をつけた。


「タバコ、やめたんじゃ無いんですか。一年ぶりぐらいですよ。烏田さんがタバコしてるのを見るのなんて」


烏田はタバコから吸い込んだ空気を外にフッーと出した。


「…最近は守るものが増えたからな。息子に妻、それにお前も。守るものがいればいるほど、人間は変わっていくのかも知れないな」

「何言ってるんですか。人間が変わるなんて、当たり前のことじゃないですか」


 烏田はこの時、家庭を持っており、息子が二人いた。妻だっている。烏田と剣也の付き合いはこれで二年目。互いの知らないことのほうがむしろ少ないぐらいだった。


 ―そして、とある日。二人は東京で飲みに行く約束をし、烏田がとっておきの居酒屋があると紹介しようとしていた頃だった。


ゴゴーン


 突如、どこからか豪雷が鳴り響いた。その音は、東京全体に響き渡った。


「なんだ?今の音。雷か?」


平然としている烏田だったが、剣也はなぜだかは知らないが、急に怯えるように体が震え上がっていた。

 それは寒かったなどの単純な問題ではない。これは、人間の本能。人間の本能が、ヤバいということを知らせているのだ。

 周りを見渡すと、一般人達も怯えていそうだ。周りを見渡しても、平然としているのは烏田ただ一人だけだった。


「なぁどうしたんだよ剣也。お前なんか変だぞ」

「…感じるんです」

「あ?」

「感じるんですよ、何か、死ぬよりも恐ろしいような恐怖感が…」


それを聞いた烏田は頷くわけでも同情するわけでもなく、ポケットに手を突っ込みタバコを取り出し、火をつけた。フッーと息を吐き、剣也に言った。


「お前には、まだ残っていたんだな」

「…?」


剣也には、この言葉の意味がわからなかった。


ゴゴーン


また豪雷の音がした。今度はさっきよりも落ちた場所が近い。剣也の体はより震え上がった。しかし、烏田はそれに怯えるわけでもなく、淡々と話し始めた。


「俺はもう、魔物討伐隊に入隊してから十年以上が経つ。最初は魔物という得体の知れないものを見て、戦って、傷ができて、何度も怖がっていた。ただ、数年経つにつれ、段々と魔物は弱いものだと体がそう認識しちまって、気付いたら俺の感情の中にあった"恐怖"というものが無くなっちまっていた」


烏田は悲しそうに言った。


「そんな…」


 剣也は今まで魔物とは緊張も恐怖もせずに戦っていたと知ると、何故か怖くなっていた。


ゴゴーン


今度は光が直視した。それと同時に、黒い雨が降り出し始め、空からは飛行機でも無い何かが何百体もの大群を持って現れた。

大きな魔物は、牙が発達しており、腕は四つある。体全体が青く、まるで龍に似た何かだ。そして、それを取り囲むまるで子分のような存在。こいつらは体が青く、尻尾が長い。

 そしてそれを見た烏田は一瞬にして魔物が来たことを察知した。


「なぁ剣也。とりあえず俺の話はこれで終わりだ。狩るぞ」


 それを聞いた剣也は震える手で一所懸命に手を動かし、やっとの思いで刀を取り出した。刀は銀色に染まっており、本当の和の刀だった。

 それとは対照的に、烏田の取り出した刀は、三日月型の模様がいくつも入っていた。この刀の名前は「三日月宗政」。

 二人は刀を取り出して、烏田は剣也に聞いた。


「なぁ、ここから刀の攻撃ができると思うか?」

「たっ、高すぎて、無理だと思います…」

「そうか。お前、一般常識に囚われすぎだぞ」

「と、おっしゃいますと?」

「いいか、剣也。魔物討伐隊ってのは、如何に常識を覆すかが重要なんだ。そのためだけに創り出した、俺の御業。俺だけの技だ。」


そう言い烏田は三日月宗政を振り上げた。それと同時に三日月模様は光だした。


「三日月斬!」


一瞬で刀を振り下ろした烏田。そうすると、光っていた三日月模様から、浮かび上がるように光が刀から飛び出た。やがてその光は空へと舞い始め、何百体もの魔物を従えていそううな一番大きな魔物に傷をつけた。

 大きな魔物はそれに気づいたようで、剣也達の方をギロッと睨んだ。


「さぁ剣也。これからは特別業務だぜ!な?べく一般人に当たらないことを心がけるぞ!」

「はい!烏田さん!」


 烏田の読み通り、魔物の大群は一斉にして、二人の方へと急降下していった。

 まるで隕石のように落ちてくる魔物。魔物達は勢いを緩めず地面に激突、地面をバキバキに壊した。

 幸い、周りの一般人達は魔物の大群をみた瞬間に逃げ出していたため、被害は少なかった。

 烏田は一瞬の隙も見逃さずに、切り裂きにいった。もちろん、一番大きい魔物をだ。

 大きな魔物はそれに気づき、口を大きく開け、何かを出そうとしたが、不発に終わり、烏田によって腹を深々と切り裂かれた。


「グ…ガガ…」


叫び声にも近い声。大きな魔物が動けない隙にと烏田と剣也は周りの魔物達を直ぐに倒し始めた。一分一秒を争う戦い。なるべく決着を早めたかったのだ。そうして数秒後、全ての魔物を倒し、残りは大きな魔物だけとなった。

 大きな魔物は必死に口を開けるが、何も起こらない。


「そうかそうか。どうやらお前の能力はビームを出す程度の雑魚か。俺と三日月宗政には相応しくねぇ相手だったな」

「クッ…クガッ」

「安心しろ、すぐにお仲間たちと同じ世界へ送ってやる」


そうして刀で魔物を斬った。

 斬ったはずだった。刀は火花を散り、魔物の体には傷一つついていない。何かを察した烏田は、すぐに後ろへ引き下がる。

 まだ刀の余韻が残る中、魔物は話し始めた。


「…どうやらその刀でも俺は斬れないか」

「魔物が…喋った…?」


驚く剣也に対し、烏田はいつでも攻撃がとんで来てもいいように構えの姿勢をとっていた。


「その刀の能力はわかった。どうやらその刀に触れる、いや、斬られた相手はしばらくの間能力を使うことができなくなるようだな」

「だったらどうだってんだ」


姿勢を崩さずに言った烏田。


「俺は魔人諸島から生まれし"蒼の魔神"。神に仕えし者だ。山が俺にお告げをしてくださった」

「お告げ…?」

「あぁ、人類を滅ぼせ、人類は大罪人だとな!」

「…」


人類を滅ぼせ、人類は大罪人。人間は何をしたのか。剣也はその言葉を聞いて、少しイラついた。しかしそれは、どうやら剣也だけではなかったようだ。

 烏田もこの言葉を聞いて顔色が変わった。より険しい顔になったのだ。


「なぁ、魔物、いや魔神よ。お前は"人類が大罪人"だとか言うが、逆に何の大罪を犯したというのだ」


魔神は少し考えて言った。


「人類は、生物にとって害でしか無い」

「何?」

「人類は、今まで地球が築きあげてきた"自然"を破壊しようとしている。人類は汚染水を作り上げたり、金を稼ぐために生き物を平然と殺したり、地球にとっての害。この上なく不愉快な存在なのだ」

「じゃあお前ら魔物は人類にとっての害だ。滅べと言われたらどうだ」

「考えてみろ人間。生物達は全て人類の敵だ。今まで"可愛い"や"かっこいい"などの感情だけで飼われている動物達の気持ちを。もしお前がその立場となったらどうなる?」

「生き物達の間だって、その生き物の害になり、絶滅する生き物は幾らでもいる。俺達人類はその絶滅を無くすために、中和してやってるのさ」

「下らんな。所詮は人間だ」


そういい魔神は体の筋肉を膨れ上がらせた。


「お前らにはこれから死んでもらう…まずはお前からだ人間。少しは抵抗しろよ?」

「殺せるもんなら殺してみろよ」


両者一歩も引けを取らない構えで体勢を整えた。

魔人諸島の掟

8.魔人諸島に、生物を持ってくることは禁止とする。

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