第7話 魔神
「山は言ったのだ…私が人類を滅ぼす魔神になれと…!」
炎の刀を持つ魔物、いや魔神はそう言った。
「私の能力は…ただ相手の技を模倣するだけですよ。しかし、私が模倣した技は、私が使う時、二倍となっています。あのとき金髪の人は本当にギリギリでかわせたのです。真っ二つになる姿を見なくて良かったですね」
とまるで煽るかのように魔神は言った。
「最初に模倣したのは、双剣の女。あの人の速さは素晴らしかった。だから取り入れました。そして次は回復。あれは魔法使いの眼鏡の人が使っているのを見て取り入れました。そしてさっきの刀の攻撃は金髪の人と双剣の人の技を合わせた究極の技ですよ」
「へぇ、そういうの言っていいのかよ」
「?なぜでしょう。私の能力を開示したところであなたは私に勝てません」
「それはどうかよ!」
暉は再び手を黒龍の魔物に変化させ、魔神に斬撃を入れた。
「素晴らしい。今までで受けた攻撃の中で一番素晴らしい!」
魔神は体を横に二つになっても話し出す。そして回復魔法で体を再度治した。
「だから無駄ですよ。私にはどんな技も効かないですよ」
まるで見下すかのように暉のいる後ろの方を見るが、そこに暉の姿はなかった。
(いない)
音のする上の方を見ると、そこにはさっきまでとは威圧が違う暉がいた。
「死ね」
上から攻撃された魔神は成すすべもなく真っ二つに切り別れてしまった。ただ…
(何度もそう同じ事を繰り返すがいいさ。貴様がやがて疲れ果てて死ぬ瞬間が楽しみだ)
そう思い回復魔法を使い、またもや再生した。
―そして、魔神が何回も何回も何回も何回も…攻撃をされ続け、それを魔神が回復魔法で再生する。それの繰り返し。木室と宮久保は怖くてとてもじゃないがこの戦いに入れそうにない。
有紫亜は腹部の傷が深かったようで、いまだに目を覚さない。
(そうだ。もっと攻撃しろ。そして息絶えろ!)
魔物は攻撃をできないのではなく、あえて攻撃をしなかったのだ。
己の無力さを実感させ、完膚なきまでボロボロにさせる。そうすれば全ては自分のせいだと思い、最高の苦しい死に様を見れるからだ。
そう考えると魔神は自然と笑い出していた。
「ハッハッハッハッハ!」
「てめぇ、何がおかしいんだよ」
既に暉は体には傷が無いが、体力は限界が近い。かたをつけるにしても、あの回復魔法があるせいでずっと再生され続けてしまう。
暉はスーッと深呼吸をし、"あの技"を使う覚悟ができた。
「悪いけど、この一発で終わらせるぜ」
そう言うと、暉の龍の宿りし腕は筋力が増していった。暉の体格に合わないような、強靭な腕に変化した。龍の鱗は一つ一つが尖っている。並の魔物が触ったら即死するぐらいだ。
「そうだ!その攻撃をしろ!お前が私に負ける姿を、いよいよ見れる!」
「そうかよ」
暉のオーラが変わった。さっきまでとは全く違う、この少年から発せられているとは思えないほどの強いオーラ。このオーラは、この魔神にも匹敵するものへと進化していった。
暉は段々と魔神の方へと近づいていき、足を踏み込んだ。
「後悔すんなよ」
その堂々とした言葉に魔神はニヤけが止まらなかった。
「さぁ来い!私に全力をぶつけてみろ!」
そういってゴンと魔神は自分の腹部を思いっきり叩いた。
その時、暉の奥義は完成した。
「龍の拳」
グシャ…
今までの戦いの音とは違う、何かの音が響いた。
そう。魔神の体が粉々に崩れていたのだ。この速さには誰にもついてこられなかった様子だった。木室と宮久保は唖然とし、しばらく開いた口が閉じなかった。
(ふっ、無駄だ。私を攻撃したところで、結局は回復魔法によって治すことができる。しかしこいつは、一体何を狙っているんだ?こんな長期戦に持っていけば、必ず自分が不利になるのはわかっていたはずだろう?…何を隠しているんだ。あいつは!!)
まぁいいと、魔神が体を再生させようとしていた頃だった。
―体が再生しない。粉々に砕け散った体は何も変化しなかった。戻ることも、動くことも、何もできない。精神だけがそこにあった。
(え?)
魔神はすぐに、自分の体に何が起こっているのかを察した。
(まさか…こいつは…!!)
そう。暉がずっと戦っていた理由は、この一撃をうけさせるため。
本来、生き物全てには魔力があり、その魔力は年齢などと共に、増え、強くなっていく。
しかし、人間にも魔物にも、魔神にも、"魔力の限界"というものがある。
回復魔法や剣に技をのせるというのは、魔力が無いと使うことはできない。故に、今、この魔神は生まれた年月が少ないあまり、魔力がコントロールできなかったのだ。今の魔神の体の中には魔力は微かにも残っていない。完璧に暉にしてやられたのだ。
(あの小僧!知っててこの事を!)
暉が何故魔力がわかるのか。普通の人間でも鳳城騎士団の団員でも、生き物の魔力を見るということはできない。唯一魔力をみることができる。その名も"魔眼"。
そして今の暉は魔物の魂が体内にあることで、その魔眼を使うことができる。そのため魔神の魔力の量がわかるのだ。
暉は、粉々に砕け散った魔神のそばに行った。
「最後に言い残すことはあるか」
「や…や…」
「なんだ。言ってみろよ」
「山のお言葉が、聞こえる…」
「…は?」
「山が言っている。この人類を滅ぼせと!私はまだ負けていないと!」
突如として、暉の魔眼から見たのは、魔力が大幅に多くなった魔神だった。
「ちっ、あれが全力じゃなかったのかよ」
暉はもう一度腕を黒龍にしようとするが、鱗ができるところで剥がれ落ちてしまった。
「くっ、まさか、俺も魔力切れかよ…」
暉はこいつに勝つ方法は無くなったと悟り、急いで避難をさせた。
「全員!逃げろ!今の俺じゃ、もう戦えない!」
暉と宮久保、木室は、有紫亜を含める六人を抱え急いで船の方へと走っていった。
しかし…
ギュウン
突如、バイクのような轟音と共に、地面が裂けた。
「こ、これは一体…!」
最後に見た光景は、粉々に砕け散っていた体が復活しており、厳つい体格へと進化して、人間に近い骨格をしているさっきの魔神だった。
「万事、休すかよ…」
ガンッ
―暉は、成すすべもなく地面へと激突した。
黒い雨が滴り落ちる。海の方では雷も鳴っている。
「私は…なったのか。人類を恐怖させる、存在に…!」
さっきまでとは違う、溢れ出る魔力が魔神をさらに強化させた。
今の魔神は、模倣した技を二倍にするものではなく、十倍近くの技を出すことができそうないきおいだ。
「ハッハッハッハッハ!」
魔神が笑う声は、遥か海の彼方へも響いていた。
ギリッ
後ろから、何かがはじけたような音がした。魔神は後ろをゆっくりと見た。そこには、光る刀を持つ漢の姿が見えた。
「なんだ?またバカがやってきたのか?」
魔神は余裕そうに漢の方へと近寄る。
「久しぶりに楽しめそうな相手がいるぜ。なぁ、三日月宗政」
その声は、重圧があり、何十戦もの戦いに勝ってきた、威圧のある声だった。
そう。彼の名前は"鳳城 剣也"。鳳城騎士団の、団長である。
「娘が世話になったな。魔物」
その言葉に魔神はムカついた。
(私を魔物呼ばわりだと…こいつ、私の恐ろしさがわかってないようだな)
そう言うと、魔神は腰を低くし、構えの体勢を取り、残像すらも見えないほどの速さで剣也の方へと向かった。
一瞬で地面は裂け、ボロボロの状態へと変わり果てた。
砂埃がたつ中、剣也は静かに刀で魔神の拳を防いでみせた。
「遅い…どうやら、私達の相手には相応しくなかったようだな」
「なんだと貴様…!私はお前なんかよりもよっぽど強いぞ!」
「ならやってみろ。私を楽しませてくれ」
そういい、三日月型に剣を振ってみせた。
一瞬にして魔神の首は消し飛び、雷鳴が響いた。
(クソックソックソッ!何なんだこいつは!私より早いつもりか!?ムカつく、ムカつくぞ!こいつは!)
消し飛んだ首すらも、剣也は見逃さなかった。
魔神はすぐに回復魔法を行った。だがしかし、
「なっ…!!回復が、できない…!?」
これは魔神の魔力不足でもない。これは"三日月宗政"の能力。
【三日月宗政で斬られたものは、一定の時間、魔法が使うことができなくなる】
魔神が三日月宗政の能力に知ったときにはもう遅く、遠くなる意識の中、剣也に頭を潰される感覚ははっきりと伝わった。
魔人諸島の掟
8.魔人諸島の滞在は最大二日までとする。もしこの掟を破った場合、永久的に魔人諸島への出入りは不可となる。




