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魔人諸島〜魔物になった者の生き方〜  作者: 飛鳥川碧希
第1章 魔物と人間編
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第4話 調査報告

 鳳城剣也。年齢五十九歳。鳳城騎士団の創設者の一人であり、日本一魔物を倒したものとしても有名な男である。剣也の愛刀「三日月宗政」から放たれる雷のような斬撃は、斬った傷を、焼け焦がす。鳳城伝説は幾つもあり、その内の一つが、


「一度も負けたことが無い」


 ―音一つもしなくなった庭園で、ある男の重圧のある声が響いた。そう。剣也だ。


「何がここで起こった。手短に離せ。私は今、目覚めが悪い」


溢れんばかりの覇気が、今まさに、自分が受けている。有紫亜は、この貫録のある声で誰なのかをすぐに理解した。


「父、上…」


 後ろを振り向いた有紫亜は父上、剣也にむけて膝をついた。そして、今までに起きた出来事を、簡潔に、要約して話した。


「ま、魔人諸島で、喋る知能のある魔物を発見いたしました。それを持ち帰り、研究するべく父上に報告しようとしたのですが、その途中で、日々野が邪魔をしてきて、こうなってしまいました。た、大変申し訳ございませんでした。」


 剣也はその言葉を聞いて、黙っていた。その表情は、何一つ変わらない。何を考えているのかが、わからない。重圧は依然残っている。有紫亜にとってその重圧が、むしろ恐怖になっていた。しばらく黙り込んでいた剣也が、口を開いて話しだした


「喋る魔物…?そんなもの、今までに何体も会ってきた。変異個体。他の魔物より知能が少し高いだけだ。そんな下らないものを何故、ここに持ってきた」


 怒りにも似た喋り方で、有紫亜は緊張と恐怖で固まって、動けなくなっていた。汗は滴り落ち、落ちても落ちても汗は止まらない。少し冷静さを取り戻し、有紫亜は、再び報告をしだした。


「しっ、しかし、今分かったことなのですが、実はその喋る魔物は、実は人間だったのです。魔物の皮を被った、人間だったのです」

「だったらなんだ。その生物は魔物なのか、人間なのか、はっきりしていないぞ」


 有紫亜は言葉が詰まった。確かにだ。人間の姿になったから人間なのか?魔物のような姿をしているから魔物なのか?いまいち暉の正体について、何一つわかっていない。わかりもしないことを得意気に話すのは、父上の嫌いなことだ。そんなときだった。


「うぅ…」


 声がした。それは剣也の後ろだ。十夜だ。十夜がようやく目を覚ましたのだ。それに気づいた剣也は、十夜の方を振り向かず聞いた。


「十夜。お前が手を出したことでここまで庭園が荒れ果てたのか」


十夜は何がなんだか全くわかっていなかった。


(なんで団長様がいるんだ。そして今の言い方からして、この庭園は全て俺のせいにしようって魂胆か、あのアマ…)


 すぐさまなんの話をしていたのかわかった十夜は言った


「いいや、全く違いますね。有紫亜くんは、どうせ喋る魔物の話なんて相手にしてくれないから、団長さんをぶっ飛ばすために協力しようと言われたんですよ。でも俺は団長さんを信用してるし、信頼している。なので断ったら、有紫亜くんが手を出してきて、有紫亜くんの考え方が間違っていると教えるためにはこうするしかなかったんですよ」


まるで勝ったかの思うように話す十夜。その話を聞いた剣也は、しばらく黙った。そして、


「有紫亜、十夜、お前らは幼すぎる。もう少し大人の対応をしろ。それと有紫亜。その喋る魔物については後日聞く。その時までに話をまとめておくんだな」


そう言い残し、剣也は自室へと戻っていった。


「チッ、やっぱり娘だからってひいきしやがったなあの野郎。」


溜まっていた鬱憤が押し流されたように、愚痴をこぼした。しばらく言った後十夜は、自室へと戻ろうとした。


「じゃあな有紫亜くん。次は潰す」


目を大きく開いて、恨みの籠った迫力で言い、帰って行った。有紫亜は、自分の弱さに不甲斐なく、しばらくそこに座り込むことしかできなかった。


 ―十夜はしばらくして自室へと戻っていた。


「鳳城騎士団は、俺が団長となった方が相応しい。あんなひいき親父の下へ長く働き続けるのは、精神的にも肉体的にも疲れるわ。さっさと引退してくれたらいいのに。そうしたら、俺がもっとより良い騎士団を作り上げられるのにな…」


この時の十夜は、妬みと願望の入り混じった言葉を吐露した。


「俺が天辺に相応しいんだ…!」


そういい自室へ戻る十夜の後ろ姿は、ダラダラとしていた。





 ―目を開けると、傷一つ無い天井が、あたり一面の視界を覆い尽くした。洋風の窓から入ってくる風は、穏やかだ。また、窓から溢れ出てくる木漏れ日は、薄緑色だ。音一つなさすぎて、逆に耳鳴りがしてくるほど静かな部屋。まるで病室かのようなベッドに包まれている。朝に入っていた布団とはまた別の温かさ、温もりが感じられる。


「ここは…一体…」


 何度同じ事をするのかと思いつつも、ベッドからおり、すぐ左にあった真っ白な扉の、金色に輝くドアノブを触り、回し開けた。そこにはまるで学校のような廊下が広がっていた。同じような扉が幾つもある。

 暉の最後の記憶は、魔物から人間に、やっと戻れたところまでだ。その後何があったのか、まったく分からない。

 取り敢えず、廊下の左を歩いてみた。いつまでも続くような長い廊下だったが、しばらく進むと階段があった。その下からは何か話している声がする。階段を一段一段、丁寧に降りていった。そしてその下の階には有紫亜と、知らない男一人と女一人がいて、計三三人で話している。それに気づいた女が、有紫亜に聞いた。


「あ、あれが霊の魔人くん?」

「あっ、そうそう。おーい暉ー降りてきてー」


 有紫亜によばれたため、降りてみた


「へー割と普通じゃん。私宮久保直沙(みやくぼなおさ)。よろしくねー」

木室毅(きむろごう)。一応先輩だから、木室先輩って言ってくれ」

「えっ、先輩?」

「そ。暉の件について上と相談してみた結果、これから鳳城騎士団に入団する事が決定したの!まぁ監視するためなんだけどね。まぁだからいきなりで悪いんだけど、早速調査といこう!」


展開が早すぎておいつかない暉。取り敢えず、鳳城騎士団に入団するというのはわかった暉だった。有紫亜から貰った鳳城騎士団の服はピッタリだった。暉にとって、こういう統一の服を着るのは初めてだった。


「なんか、みんなが着ている服を自分も着ていると、安心します」

「もー何言ってんのヒカルン」

「えっヒカルン?」

「そーヒカルン。暉だからヒカルン。いいでしょ?」

「まぁいいですけど…」


 断るにも断れなかった。これから先輩となる人に対して、さすがに反論することができなかったのだ。


「というか、調査って、どこ行くんですか?」

「どうやら魔人諸島で魔物狩りしていた奴らが襲われたらしい。だから俺達はその救出。まぁ生きてたらの話なんだがな」

「昨日行ったばかりかも知れないけど暉、頑張ろ!」

「そうなんですね。騎士団も楽じゃないってことなんですね」

「毎日こんな感じで、なんか疲れちゃうよねー」


今回行く所は魔人諸島であり、救出する人達は、魔物狩りをしていた一般人、計4名とわかった。どうやら一般人が立ち入りが禁止されているはずの第二区域に入ってしまったらしい。


「というか、なんで一般人って第二区域を入ることを禁止されているんですか?」

「まぁ簡単に言っちゃえば、魔人諸島の中央、つまり大きな山の部分に行くにつれて、魔力が高いの。きっと山自体が魔力が高いんだろうね。で、つまり山に近い第二区域は魔物が第一区域、臨海部の魔物よりも圧倒的に強い。だから立ち入り禁止なの」

「そうなんですね。ためになりました」

「とまぁ、さっさといっちゃいましょー船の準備ー」


先に準備をしに外に出ていった宮久保と木室。しかし有紫亜は、暉を見ていた。


「暉、あの魔物の姿って、なれるときはなれるの?」


暉は少し沈黙したあと答えた


「わかりません。自分も三日前までは普通に人間だったんですけど、魔物になった空白の一日の記憶が全く無くて…」

「そっか…」


何か寂しそうに言う有紫亜。きっと自分を実験材料として見ているからだろうと暉は思った。


「死なないでね。暉」


 有紫亜はそう言い残し、宮久保と木室たちの手伝いをしに行った。


「オレももっと生きたいですよ」


 笑いながら言う暉。暉も外に出て三人の手伝いをするのだった。

魔人諸島の掟

4.魔物を売ることは、法律で取り締まられていない国なら可能である。ただし生きた状態で売るのは禁ずる。

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