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魔人諸島〜魔物になった者の生き方〜  作者: 飛鳥川碧希
第1章 魔物と人間編
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第3話 魔物の戦い方

しばらくそこには睨み合う暉と十夜の姿があった。


「お前は、俺を最頂点までブチギレさせた!それ以上有紫亜さんを愚弄するなら…するなら…―お前を殺す」

「何、有紫亜を愚弄するな?魔物ごときが人間様に指図すんじゃねぇ。俺を殺すだぁ?やってみろよ」


十夜は後ろに下がり、割れた窓から庭園へと出た。


「殺せるもんならなぁ!!」


ドン


「うぅ!!」


有紫亜を足で思いっきり踏みつけた十夜。それを見た暉は怖いほど冷静だった。


(落ち着け、落ち着け暉…相手は正真正銘のクソ野郎。あんな奴がこんなところにいてはならない!俺がこの力で証明するんだ!もう…あの頃の俺じゃない!)


 スーと息を吐く暉。冷静さを保つために、全神経を集中させていた。


(あいつの速さは尋常じゃない!でも、勝ち筋ならある!)


構えをとる暉。それを見て十夜は余計に虫唾が走った。


(そんな目で俺を見るなよ…!)


十夜は苛ついた。魔物ごときが自分に勝てるという自信を持っていることが、たまらなく許せない。しかし魔物なのに、超えられない壁があるような感覚だ。


「いいや、このままだ。このままでいい」


 十夜は暉に対して、有紫亜の時より低い体勢で構えた。そして次の瞬間、十夜は暉の前まで来た。しかし暉はそれを見えていた。だが…


(クソックソックソッ!反応しろ、俺の体!)


そして気づいた時には、木刀ではなく、本気の拳を顔面がくらっていた。


グハッ


鼻や口から血が溢れ出てきた。尋常じゃないほどに痛い。こんな拳を食らい続けていたら暉は壊れてしまう。


「木刀で殴ると思ったか?魔物に木刀なんか不要だ。特にお前にはな」


暉はただただ鼻と口を抑えることしかできなかった。


(やっぱり、速い!なんであんなに速いんだ。何か、何かタネがあるはず…!)


 暉は必死に頭を回転させた。なぜ自分にはとても速く見えるのか。なぜ有紫亜にはそれが追いつけるのか。そして、何故か反応できても攻撃ができなかったこと。あれは自分の反射神経が遅れたのではない。あの速さで認識ができていたなら、間違いなく、攻撃できたはずだ。一体なぜか…


「まさか気づいた?」


 十夜は何かに気づくかのように言った。


「何がだよ」

「とぼけんなよ。その目は何かわかっている目だぜ。きっと、何故目では追えたのに、攻撃するときには体が動かなかったのか。それはコイツのせいだ。」


 見せてきたのは腕時計のような形をしたものが腕に巻かれてある。しかし、腕時計の時計のある部分は目になっている。まるで龍の方に細い目。禍々しい色をしている。瞳は赤く、周りは黒く、光一つ反射をしてはいない。


「これは、これを使うことによって相手を一定時間止めることができる。生物であればな。そんな代物だ。最初は使いにくかったこの武器も、今では随分慣れたもんだ。お前のお陰でそれがわかったぜ。」


続けて十夜は言う


「お前の感情は、お前の顔に出やすい。だからわかった。嬉しいぜ、これで俺は強いという確証が得られるのだからな」


 何故体が動かないのか。十夜が持っていた腕時計型の龍の目のせいだ。あの龍の目のせいで動きが封じられてしまっている。あれを何とかせねば。

 二人はしばらくずっと睨み続けた。


(殺す!!)


暉は十夜よりも速く動こうとした。だがしかし、


「遅えよ」


腕時計型の龍の目は大きく目を開いたのと同時に、体が言う事を聞かなくなった。


(くそっ!止まった!)


「魔物ごときに、俺は、殺せねえよ!」


そう言ったのと同時に、思いっきり暉の腹部を蹴った。


「グッ!!」


暉は蹴られ、庭園に出た。

 有紫亜の近くで、倒れた。それを見た十夜は、

まるで暉を見下すかのように笑った。


 ―庭園は静かなようで、爽やかなようだ。小鳥達が鳴いている。庭園の真ん中近くにあるドーム型の白い休憩所の屋根では、小鳥達が、会話しているように鳴いている。メイド達が木から落ちた落葉を片付けていたり、ベンチに腰を掛け、話している。


 しかし、有紫亜、暉と続いて、窓を突き破ってきたときには、その爽やかさは消え、何が起きているのかわからないメイド達が、ただ呆然と立ち尽くしていた。


「終わり。死ぬがいい」

 

木刀を振りかざすは暉。


「やめて…もう、これ以上は…」


有紫亜はどこを見ているのか分からなかった。ただ、暉に逃げてと伝えたかったのだろうと暉は、ボヤボヤする視界の中、それを読み取った。ただしかし、動けない。これはあの龍の目のせいじゃない。体が、本能的なのかなんなのかが、動くのを邪魔している。


十夜は庭園へと行き、有紫亜を、踏みつけようとした。その時だった。


ガシッ


「んっ」

「おい、いい加減にしろよ。魔物を馬鹿にするのも、大概にしろよ」


 十夜の足を、暉は掴んだ。十夜は完全に勝ったと油断をしてしまっていた。それによって、暉に足を掴まれてしまったのだ。


「くそっ、離せ」


 十夜は焦りだした。龍の目は使えない。それは何故か。理由は、この龍の目には"範囲"が設けられているからだ。その範囲は、半径二メートル。足を掴まれている以上、この状態で使うと、自分も固まってしまう。だから使えないのだ。何もかもが封じられた。


(いやしかし、持っている木刀がある!)


「離せ!離せこのクソ魔物めが!」


十夜は依然焦る。むしろさっきよりも焦っている。汗が止まらない。出ては出ている。

 木刀を暉に何度も何度も、本気で叩いているのに、暉の目は、十夜をしっかりと捉えて、離さない。それによりもっと焦る。それでも暉は、離さない。


「離せ!離せ!離せ離せ離せ!離せーーー!!!」

「終わりにしよう。十夜!」

「俺の名前を気安く呼ぶ…」


 次の瞬間、十夜は、暉の拳を顔にくらった。十夜の顔がへこむぐらい。

 十夜は吹っ飛び、休憩所へぶつかった。


ボゴーン


休憩所は跡形も無く崩壊した。とてつもない音を出して。

 十夜は気絶している。鼻から、口から、血が出て。

 それを見た有紫亜は、さっきまで朦朧としていたが、その瞬間、目をかっと見開いた。


「えっ、うそうそうそ。えっ、勝ったの?」


さっきとは打って変わってヒョコッと起き上がった。


「えー!?なんで勝てたのー!?」


有紫亜は暉を起こし、まるで尋問するかのように聞いた。困る暉。


「いや、偶然ですよ。あいつがもっと油断してなければ、どうなるかわかりませんでした。もしかしたら負けてたかも」

「いや、でも、凄いよ。暉は」

「んっ…」


初めてここに来て、自分の名前を呼ばれた。暉は、笑顔の出来損ないのような笑みを浮かべた。


ジュウウウウウ


「えっ?なんの音ですか、これ」


暉は純粋に聞く。しかし目の前で見ていた有紫亜は驚いていた。


「ひ、暉…あなた、なんか煙が出てきてるよ!?」

「へっ?」


そう煙が出てたのだ。暉の体全体がだ。まるで溶けてくかのように。そして何故か、暉はさっきまで黒龍の魔物のようだった体が、グズグズに溶けていき、やがて人間の姿へとなっていった。

黒髪で少年のような体に戻った。


「えぇ…?一体、どうしたの、その体」

「何がですか?」

「いや、人間みたいな姿に…」

「いやいや、どういうことですか。何も証拠がないのにいきなり人間って、まさかからかってるんですか?」


有紫亜は何かを探り出した。


「はいこれ鏡」

「なんで持ってるんですか」

「まぁ、容姿を整えるために」


淡々と話す有紫亜。何はともあれ、鏡を覗き込んだときだった。

 そこには、少年がいた。暉は驚くよりも先に、笑った。体は傷だらけで、鼻からは血が出ているはずなのに、まるで痛くはなさそうだ。安心したかと思ったら暉は、今度は、静かに倒れた。

 どうやら、十夜にやられた傷は、思ったより深手だっただしい。


「あっ…やっぱり、重傷だったか…お疲れ。暉」


それを聞いて、暉は笑っていた。





 ―少し時間が経った頃だった。先程までいた小鳥達は一匹残らず消え、メイドは一目散に逃げていき、残ったのは割れた窓と壊れた休憩所だけだった。十夜はまだ気絶している。有紫亜は暉を見守っていた、笑みを浮かべて。しかしその時だった


「騒がしいな。何事だ」


重圧のある声。何十年も生きてきた貫録がある声だ。

 有紫亜は笑みすらも消え、焦った顔をしていた。


「父、上…」


 後ろを見ると、そこには鳳城騎士団の鳳城剣也が、静かに立ち尽くしていた。有紫亜は、その後言葉を発することができなかった。そこには、しばらく沈黙が続いた…

魔人諸島の掟

3.魔人諸島の環境を乱すような事はしてはならない。放火や全て駆逐することは禁止されている。

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