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魔人諸島〜魔物になった者の生き方〜  作者: 飛鳥川碧希
第1章 魔物と人間編
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第2話 生き方

 目が覚めた時には、見知らぬ場所にいた。そう、和の家だ。自分が寝ていた部屋の障子が少し空いてより、そこからくる光が少し眩しい。よく耳を凝らすと、鹿威しの音もする。本格的な和の家だ。


「どこだよここ」


 はたから見れば、ただ魔物が和の家の布団をお借りして、寝ている、泥棒と大して変わらないことをしている。取り敢えず布団から抜け出そうとするも、抜け出せない。布団の中は微妙な温もりがあって、抜け出そうにも抜け出せない。こんな良い布団で寝れるのは、暉は久しぶりだからだ。

 数分経つと、やっと布団から起き上がることができ、取り敢えず、周りを捜索する事にした。


「いやいや、なんでこんなとこ、まさかこれが研究所内なのかよ」


庭を少し歩いていくと、何やら話している声がする。どこからか、自分の寝ていた部屋から3つ奥の部屋だった。ここを知るいい手がかりになるかも知れない。障子に耳をつけて聞いていた。


「アリシアったら、また変な島に行っているらしいわよ」

「やだもう、またそんな所に、止めたの?」


60歳近くの女性二人が何やら有紫亜と言うものについて話している。


「止めたけど、自分に唯一やる必要があることとか言って全く聞いてはくれないのよ、あんな下らないことをせず、はやく鳳城家を継げばいいのに」

「ホントホント」


 この話を聞いて、少しわかったことがある。

 有紫亜という人間はお偉いさんだということ、有紫亜はこの家に住んでいる人達から少し嫌われているということ。


「あぁもういいや、考えるよりもあの布団潜っていたほうがいい」


 何故か急に面倒に思えてきて、またあの布団に戻ろうとした。あの部屋に戻ると、人がいた。有紫亜だ。魔人諸島にいた時の服装とは違って和服を着ている。どうやらお茶と和菓子を持ってきたらしい。障子から出てきた暉を見て、ただただ立ち尽くしている。

 数秒の沈黙の後、有紫亜は急に笑い出した。ためておいた物が急に溢れ出すように。


「い、一体どうしたんですか」


 何故か急に心配になってきた。


「…いやいや、君魔物なんだから、普通に外に出ちゃ駄目だよ。もし他の人達にバレたら、君、殺処分だよ」

「えっ、殺処分!?」

「そう。これから君は私の父親の方へ行った、もし認められるようだったら、ここ日本でも住むことが認められるよ。」

「そうなんですか…どうすれば認められるんですか」


 また日本に住めると聞いた暉は、また日本に戻れるように必死に聞いた。


「うーん…まぁ取り敢えず知性があることと、本能を抑えられること。人間の記憶を覚えていることが大切だね。」

「わかりました。全てあると思います。早く行ったほうが良いですよね?これ」

「早まらないの。君は魔物なんだから、なるべく周りにバレないように行かないと。まぁ取り敢えず、長い車、必要そうだね」


 何もしなくていいと言われ、暉はまた布団の温もりの中で少しずつ眠りの中へ落ちていった。自分を唯一包んでくれる布団がどうしても離れられなかった。

 次目を覚ますと、車の走行音のようなものが下から聞こえてきた。


「うーん…俺を車に入れることは成功したのか」


 起き上がろうとすると、何か、すぐ上に天井がある、どんなに起き上がろうとするも、ゴンと言う音が鳴るだけで、何も変わらない。


(まさかこれ、なんか箱に入れてるな)


 車の入れ方が大分雑だった。

 ―数分後、車は少しずつスピードを緩めていき、やがては止まった。ピタッとは止まらずに多少動いたようだ。


(着いたのか?)


 後ろから車が開ける音が聞こえた。多分トランクだ。


「ごめんねー君をバレないようにするにはこうしかなかったんだよ」


謝る気のない謝りをされて、呆れていた。

 多分有紫亜に担がれたと思う。

 さっきまで車の走行音、飛行機の飛ぶ音、鳥の鳴き声、どの音もさっきまで聞こえていたのに、何かの扉を開けたのを境に、シーンと、空気の揺らぎすら聞こえない完璧な無音の部屋に来た。階段を登る音。それが初めて聞こえた音だ。

 暫く経つと、急に、動かなくなった。


「おいおい、そんな物持ってきて何しに来たんだよ、有紫亜くん」

「くっ、なんであんたがいんのよ、日々野十夜(ひびのとうや)


日々野十夜。年齢22歳。鳳城騎士団の総合副隊長。茶髪と黒髪の合わさったような髪形をしている。鳳城騎士団を見下しており、いつかは団長になろうとしている。


「そんなのはどうでも良いんだよ。それよりも有紫亜くんが持っているその箱、何が入ってるん」

「くっ、あんたに言う筋合いはないね。」

「へぇ…そういうこと言っていいんだ。まぁ別に俺は良いけど、その代わり、また死ぬほど辛い稽古してやろうか?」


 有紫亜はそっと暉の入った黒い箱を床に置き、持っていた木刀を振り上げた。


「さっさと退いて。今の私は、今のあんたよりよっぽど強い」

「威勢が良いのは昔と変わらないなぁ、早とちりすんなって。俺は別にその黒い箱の中知れればここを通してやるって言ってんだ」


二人は一歩として引けを取ることはなかった。


「でさぁ、完全に主観なんだけど、その箱、もしかしてだけど…魔物入ってるよね?それも行きた」

「さぁ、どうだろうね」

「答えろ有紫亜、一体、なぜここに来た」

「はぁ?あんた言ってること矛盾してるね。あんたはその()()()()を知りたいと言った」

「変わったんだよ考えが。仮につまらない物だったら、とね」


その時、箱が突然、穴が空いたように見えた。箱が開いたのだ。


「あっ、開いた」


 二人はとても動揺した。


「えっ?あぁ、もしかして出ちゃ行けないパターン?中々進まないから自分一人で行こうとしてたんだよ」

「おいおい、まさかこんな奴だったのかよ。」

「そうだけど、何か悪い?」


落ち着いたように話す有紫亜だったが、心の中ではとても動揺していた。


「いいや、別に。有紫亜くんの趣味なんだなって思ったよ。」

「あっそ。で、そこを通らせてくれないなら戦闘不能にさせるしかないんだけど」

「あ゙ぁ゙?」


十夜は低く声を出した。急に場の空気はピリつき始めた。


「俺を戦闘不能にさせる?父親のひいきで貰った権力でか?」

「…違う。私の、私の力で!」

「あっそう。まぁやれるならやっても良いけど。後悔するのは有紫亜くんだから」


 そう言うと、十夜は鞘から木刀を取り出し。まるで剣でも持つかのように構えた。


「怪我させてやる」

「やってみなよ。できるもんなら!」


有紫亜の言葉により、二人は一斉に足に力を入れ、跳んだ。しかし、十夜の方が速い。一瞬の回避が遅れた有紫亜は木刀で受けることもできずに、腹部にくらった。


(なんだよこれ…全然見えねぇじゃんかよ!)


 暉は焦った。まさか自分が出てきたせいでこんなことになるとは。少しでも償うために行こうとするも、二人は早すぎる。目で追えない。まるで風のように動き、木刀を打ち続ける。

 有紫亜は腹部をもろにくらったが、依然として変わりなく、いや前よりも早くなっている。十夜の目も最初はつまらなそうだったが、今では輝かせて木刀を打ち付けている。

 しかしその時だ。十夜が足を踏み込み、空気の揺らぎすらも見えないほどの速さで有紫亜に近づいた時だ。

 有紫亜はかろうじて気づけて、十夜が振り下ろそうとした木刀に対して、受けれる体勢を整えることができた。しかしだ。


ドンッ


十夜は木刀をフェイクにして、再び腹部に攻撃をした。しかもそれは蹴りだった。十夜の蹴りによって、吹き飛ばされた有紫亜は、大きな窓をも割り、如何にも庭園らしいとこにでた。


「別に、木刀で勝負をつけるっていうルールじゃないからなぁ、これ」

「くっ、卑怯者めが」


(あまりにも卑怯すぎる。ルール無いとか言い出して、こいつ、なんでもありで戦っていやがる)


暉は十夜を睨んだ。そして、少しでも加勢しようと暉は手の爪を伸ばした。歩いていったその時、


「やめなってクソ魔物。お前は有紫亜くんをボコボコに叩きのめした後にいたぶって殺してやるんだ。早死にしたくないだろ。失せな」

「おい、いい加減にしろよ人間の屑が!」


暉は心底頭にきた。何故ここまで人間としての思いやりを捨てられる。何故ここまで自分勝手に事を進められる。怒りによって、さらに暉の爪の伸びは加速した。


ギギッギギギギギ


不気味な音だ。爪が伸びる音。自分でも怖いくらい怒っていた。


「やめろ…榮元…」

「なに有紫亜くん。これに名前つけてんの?どこまで落ちていくんだよ有紫亜くん。」


(やめろ)


「有紫亜くんさぁ…ホントに父親のひいきだよね」


(やめろ)


「どこまでいっても、自分で成し遂げた言葉一つもない」


(やめろやめろやめろ!)


「大人しく総合隊長辞めてくれん?そうしてくれたら俺が総合隊長になれる。お前ら平和ボケしている今の騎士団から最高の騎士団にしてやる」


(やめ…やめてくれ)


「だからさっさとお前ら鳳城家は死んだらいいんだよ」

「やめろおおぉぉぉぉ!」


暉が怒りの頂点に達した。


「これ以上有紫亜さんを愚弄するなら、俺が相手だ十夜!」


叫び声にも聞こえた力強い声は十夜を不機嫌にさせた。


「魔物ごときが気安く俺の名前を言うんじゃねぇ」


顔は笑っていたが、心は全然笑っていなかった。

 しばらくそこには睨み合う二人の姿があった。

魔人諸島の掟

2.魔人諸島では一般人の立ち入りが許可されているのは第一区域、騎士団は第二区域、皇族は立ち入り禁止区域まで入ることが可能である。

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